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冬威は由起のなの!

無事、葵衣を救い葵衣の未来を取り戻した冬威と由起。

しかし由起は釈然としない思いに苦しんでいた…

「冬威は由起のだから…」

長い抱擁の末に小さな女の子の様に呟き冬威の胸に顔を埋める由起。

そんな由起を優しく包み込む冬威。


「ん? なんだって?」

「冬威は由起のなの!」

もう一度繰り返しながら冬威を見上げる。


「そうだよ冬威は由起のだよ」

由起の前髪をかき分ける冬威。


「由起はさっきすごく嫌な子だった…」

「どうして?」

「葵衣を救おうと冬威が一生懸命なのに由起は…」

「由起はどうしたの?」

「…」

無言になる由起。


「由起だって葵衣ちゃんのために一生懸命だったじゃん」

「でも…冬威が葵衣に人工呼吸してるの見て…由起は『嫌っ!』って思っちゃった…」

そう言うと由起は再びその顔を冬威の胸に隠す。


「あれは人助けのための蘇生術だよ」

「わかってる、わかってても嫌だったの!」

由起は両足でアスファルトをダンダン踏みつけながら気持ちをぶつける。


「冬威が葵衣に『頑張れ、必ず救う、未来を守る』って声をかけてる時も…。『由起だって冬威に未来を守ってもらったんだから』って…『由起の方が先に冬威に守ってもらったんだから』って心の中で張り合ったりしてたし…」

か細い声で打ち明ける。


「それに…葵衣の唇と冬威の唇が重なった時…由起は苦しかった。由起より先に葵衣が冬威とって考えたらもう苦しくって葵衣のことが嫌いになっちゃったの…。でも今は由起は由起のことが嫌い…。それにこんな由起、冬威にも嫌われる」

「俺が由起のことを嫌いになる訳ないだろ? 笑ってる由起、怒ってる由起、泣いてる由起、拗ねてる由起、どんな由起のことも大好きだよ」


「やきもち妬いてる由起も?」

そうっと見上げながら呟く。


「やきもち妬いてる由起は可愛いよ…愛されてるって実感できる。由起が苦しい思いをするのは嫌だけどね。だからやきもちなんて妬く必要ないよ、わかってるだろ? 俺は時空を超えるほど由起が好きなんだよ? 誰のためでもない由起のために光を超えてここにいるんだ」


「由起のためだけに…」

「そっ由起にもう一度逢うことが俺の最後の『願い事』だったんだよ」

「最後の『願い事』って?」

思わず本音が口をついてしまった冬威。


「あ、いや…深い意味はないよ。つまり…未来から過去に来る前の最後の願い事ってこと!」

「そういうこと…」

そう言いながらも違和感を感じる由起。


「それに由起…俺はキスしたの由起が初めてだし…」

今度は冬威がか細い声で言う。

「葵衣としたじゃん! 由起はそれが悔しかったの! 冬威を葵衣に取られちゃったみたいで!」


「あれはキスじゃないだろ? 蘇生術!」

「じゃあ、由起とが初めて?」

「そうだよ…なんかかっこ悪いな…」


「なにがかっこ悪いの! かっこ悪いのはそこじゃないでしょ! 由起はもっとロマンチックにリードしてもらってキスしてもらいたかったのに…」

不満気に言う由起。


「悪かったよ…ごめん由起」

「そんな、謝らなくたって…。ごめん冬威…由起言い過ぎた」

素直に謝られ拍子抜けする由起。


「由起? 葵衣ちゃんのはキスじゃない。そう言う気持ちは全くないからね」

「もういいよ、冬威のファーストキッスは由起の物ね!」

由起が機嫌を直して笑顔で言う。

「そう! 由起の物だよ。さっ早く帰ろう! もう遅いよ」

「うん…」

ぴったりと寄り添い歩き出すふたり。


ほどなく由起のマンションに着く。

「さぁ早く部屋に戻ってゆっくり休んでね。疲れたよね」

入口の前で由起の体を離す冬威。


「は? 冬威ここで別れるつもり?」

眉を上げてそう言う由起。

「だってもうこの時間だよ? 俺ももう少しで終電来ちゃうしさ! ここまでくれば危ないことないだろ? セキュリティー万全だし」


「信じられない…葵衣が生きるか死ぬかの場面に立ち合って疲労困憊、心神耗弱状態のか弱い女の子をここで突き放す? 普通そんなことできないよね? 冬威は由起のことが心配じゃないの?」

「ってこんな時間に女の子の部屋に行くわけにもいかないって」

「どうしてよ? ちゃんと部屋まで送ってよ!」

「だってまずいだろ? 女性専用学生マンションなんだからさ?」

「って別に監視カメラ付いてるわけじゃあるまいし全然平気だよ!」

さっきまでの憔悴した様子はどこへやら一歩も引かない由起。


「いや、でも流石に終電間に合わなくなっちゃうよ」

「冬威は由起と終電どっちが大事なの!」

「ってそんなの比べるのおかしいだろ?」

言うとおりにならない冬威にジリジリする由起が何か企むような顔をする。


『冬威…大人の余裕と言うか理性と言うか常識で由起を説き伏せようとしてるね…。由起を、いいえ…恋する女の子の狡猾さ侮ってるわね…』


「冬威? 由起はなんだか嫌な予感がするの…」

急に子猫の様な声で冬威に取りすがる由起。

「嫌な予感って?」

冬威が訝しげな顔をする。


「冬威言ったでしょ? 時間を司る意志が元の時系列に収束させようとするとかなんとか…それで、油断しないでちょっとでも違和感を感じたら連絡しろって…」

心細そうな声を出す由起。


「確かに言ったけど…」

「由起は今、すごく嫌な予感がする…。エレベーターで誰かが待ち構えているかも…。もしかしたらベランダから侵入した不審者が部屋の暗がりに紛れているかも…」

「さっき部屋に行った時確認したけどベランダからの侵入は結構難しいと思うよ。たぶんあんまり想定しなくても…」

冬威の解説を由起が遮る。


「冬威が言ったんだよ! 違和感を感じたら連絡しろって! 由起は今すっごく違和感を感じていて一歩も前に進めない感じ…」

「ってほんとかな?」

「ほんとかな? ってどういう事? もういいよ…そんな風に冬威に疑われるんじゃ由起は悲しいよ…。でも冬威? 由起に何かあって後悔しても遅いんだからね…。せっかく取り戻したふたりの未来が台無しになってもいいの? それとも何? 葵衣のことは守れても由起の違和感には知らんぷりってこと?」

「…」

痛いところを突かれて無言になる冬威。


「わかったよ…じゃあ部屋の前まで送るよ…」

観念したように言う。

「だめだよ! 部屋に誰かが潜んでたら由起どうしたらいいの?」

「わかったよ部屋までちゃんとお送りしますよ姫様…じゃあ早く行こ!」

『やった…』

由起が心の中でほくそ笑む。


ふたりはエレベーターに乗り込み由起の部屋に向かった。



 



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