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冬威がいない未来なんて由起はいらない

同期生の葵衣の死を回避したい冬威。

由起は冬威の母からタイムトラベルについて話しを聞いていることを冬威に悟られる。

由起は未来の冬威を救いたいと願う。

冬威は変更した未来を修正する力が働くことを恐れ由起に変化に慎重になることを伝える。

「冬威…もう由起は大丈夫だから…だから」

由起が冬威の腕に絡みつきながら呟く。


「どうしたの由起? 何が大丈夫なの?」

冬威は何も知らない風に言う。


『この段階では俺は由起に何も伝えていない…。変更前の未来の由起について俺から由起には何も伝えていない状況のはずだ…』


「ううん…なんでもない。由起は冬威と一緒ならきっと大丈夫だなって思ったの」

ことさら明るい表情を見せる由起。


「だから何が大丈夫なの?」

冬威は笑いながら由起に言う。

「なんでもない~とにかく由起は今年の夏、浜金谷の小っちゃな可愛いプールにも行くし、その前にも美夏美優ちゃんと、かなやのお風呂にも行くし、キープちゃんと有以ちゃんがドライブした鴨川シーワールドにも行くの! それからそれから…」

指を折りながら考える由起。


「それから?」

「由起は…冬威のそばにずっといる」

そう言うと足を止める。


「由起? どうしたのそんな顔して?」

由起が思いつめたような顔をしている様に感じた冬威。

「冬威? 由起は冬威に助けてもらった…冬威は由起をおいてどこにも行かないで。ずっとずっとそばにいて…」

そう言うと冬威の胸に顔を埋める由起。


「由起? 俺が眠っている間に母さんから何か聞いた?」

由起の不安定な様子から類推すればおおよそそんな結論に至るであろう。

「…」

無言のまま強く冬威を抱きしめる由起。

不安な心情を言葉ではうまく言い表せない由起。


「そっか…どこまで聞いたのかわからないけど、由起は何も心配しなくて良いよ?」

「心配しないわけないでしょ? 冬威は由起の未来を変えてくれた。由起は未来の冬威のことが心配なの。由起は未来の冬威を助けたいの!」


「タイムトラベルの事まで聞いてるの?」

「うん…白い腕時計をしている時の冬威は未来から来た冬威だって…。変更前の由起は大怪我してひきこもりになって、冬威は由起を助けられなかったことを後悔してまるで深い谷底に落ちているみたいになってるってお母さんが。だから今度は由起ちゃんが未来の冬威を救ってって」


『母さん…上手く心理描写にすり替えて伝えてくれたんだね…。良かったそれなら美優美夏も心配せずに済む…』


「由起が元気でいてくれればきっと未来の俺も深い谷底から這い上がって元気になるよ。だから心配しないでね」

冬威は由起の耳元で囁く。


「冬威は未来から由起のことを助けに来てくれた。冬威は卯月先輩のことも助けに来たんでしょ? お母さんの話を聴いた後、由起ピンと来たの。卯月先輩を助けた時の冬威ってまるでそうなることがわかっていたみたいに行動していたし…それに冬威も言っていたよねそうなる事がわかっていたって。由起はあの時冬威の言っていることが信じられなかったけど、今は理解できる」

由起が抑えていたものを解き放つように話し出す。


「そうか…母さんからそこまで聴いているんだね。由起? 未来の俺は何もできなかった自分に強い後悔の念を持っていた。俺は自分の価値観や体裁に囚われて、本来人として取るべきだった行動がとれなかった。その結果由起を救えなかったし卯月先輩も助けられなかった。変更前の過去で俺は由起の誘いを断って由起のマンションに行かなかったんだ。その結果翌日由起は大怪我をすることになってしまった。由起が本当に願っていたことを俺は聴きもせずに…酷いことをしてしまった」

今度は冬威が胸の内を解き放つように言う。


「卯月先輩のことだってそうだ…。その前の週まで俺は卯月先輩が転ばない様にそばにいたんだ…。だけどあの日、俺はそばにいなかった…。知ってたんだ、先輩に彼氏がいる事も、それでも俺は先輩の助けになりたかった。だけどあの日、二人が仲好さそうに歩いている姿を見て…俺は。嫉妬だったのかもしれない…。いや嫉妬と言うよりは、俺なんかが二人の中を邪魔するようなことをしちゃいけない…みたいなみじめな気持ち…そんな気持ちが先に立って俺は肝心な時に卯月先輩を救えなかった…。卯月先輩は、階段から落ちて…」

冬威は辛い過去の記憶を思い起こしこぶしを握る。


「冬威? でも今度は卯月先輩を救えた、由起も助けてもらった! だからもう冬威も後悔の念で薄暗い谷底にいるみたいなことにならなくたっていいよね?」

高ぶる冬威に心配気に声をかける由起。


「いや…由起。まだ残っている。もう一つどうしても解決しなくちゃいけないことが。どういう訳かこの時期に集中しているんだ俺の悔恨の原因が…。それに用心しなくちゃいけない。由起の問題を解決した後卯月先輩の階段からの転倒は時間こそ前回と同じだったけど場所が違った…。過去が変わり始めたことで徐々に先の未来が変わってきているんだと思う。だとすれば油断はできない。解決したと思っていてもその先でまた何か不測の事態が起こるかもしれない…。時間を司る神様がいたとして、いたずらに過去を変える俺みたいな奴がいたらきっと怒っていると思う。だから用心しなくちゃ…。解決したと思っていたら結局元の木阿弥…つまり変更したつもりで結局同じような結果に修正されるなんてことがないとは限らない。だから由起! 絶対に油断しないでくれ」

冬威が必死の形相で言う。


「わかってるよ冬威! 女の子は絶対油断しちゃダメ! てしょ?」

由起が努めて明るく言う。


「そうだよ由起、俺はこの能力がいつまでも続くとは思っていない。時間の神が過去の変更を良しとせず修正をかけるようなことがあったとして、さらにそれをひっくり返すまで力が残っている保証はない。だから由起、些細な変化にも気を付けて欲しい」

「心配しなくても由起は冬威の言い付けをちゃんと守るよ!」

「そうしなければ、未来の冬威と逢えなくなってしまう様な気がするの…そんな未来なら由起はいらない…。冬威がいない未来なんて由起はいらない」

由起が心の中の不安を掻き消すように言う。


「由起、ありがとう。少し安心したよ…。由起、俺に力を貸して欲しい事があるんだ」

冬威が由起の肩をしっかりと掴んで言う。

「冬威?」


「葵衣ちゃんのこと知ってるよね?」

「もちろん、同じゼミだからね」

「じゃあ葵衣ちゃんが地元の彼氏と別れて落ち込んでいることも?」

「何となく噂では聞いてるけど、本人からは何にも聞いてない。それに今日も変わりなく講義にも出てたよ」

由起は冬威が何を気にしているのかがわからないと言った風だ。


「由起、変更前の過去では葵衣ちゃんは今日の夜死ぬ…」

「えっ? まさか今日も元気だったし彼氏と別れたからってそんな死んじゃうくらい落ち込んでる感じじゃなかったよ?」

「恐らく葵衣ちゃんは自殺じゃない。でも死んでしまうんだ。死ぬ前の状況から、つまり地元の彼氏と別れたっていう事実から自殺だって思われてたけど、俺は自殺じゃないって思ってる」


「どういう事?」

「とにかく俺は今晩、葵衣ちゃんが死ぬのを回避する! 由起の手を借りたい…」

「もちろんだよ冬威! 由起も葵衣ちゃんの命が救いたい! 冬威が由起のことを助けてくれたように!」










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