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未来の冬威が由起を守り、過去の由起が冬威を救う

未来の冬威を救えるのは冬威に救われた現在の由起の存在に他ならない。

因果律の中、各々の存在が各々を救う。

今が変われば未来が変わる。

未来が変われば今も変わる。

過去は音を立て変容し、そしてまた未来を変えて行く。

「人もまた素粒子の集合体に過ぎないわ。つまりエネルギー体。人ばかりではない今私たちが見ている全ての情景は脳がそう見せているだけ。本来は単なるエネルギーの波動に過ぎないの。であれば、魂や意識と言うレベルでそれを捉えた時、そのエネルギー体は量子と同じ様な特性を持っていたとしても何ら不思議はない。さらにブロック宇宙論から推定すると過去現在未来にはそれぞれにそれぞれの意識が存在するはず、同一の人物の意識がね。そうすると各時点の意識を量子と仮定した時、各々の意識の間はもつれた量子の関係にあると言えるわ。そうであればその間で時空を超越することは現在の量子論からも可能と言わざるを得ない。量子間では時間を超越しての情報伝達が可能であることは実験で立証済みだからね。これらから導き出していくと冬威のタイムトラベルが証明される。つまり量子は過去現在未来を自在に移動し意識も同様に過去現在未来を超越できるってわけ。これが奈々が意識レベルでのタイムトラベルは可能あると言う根拠よ。そして冬威はこのロジックで時空を超えて私たちの前にいる。」


奈々がまるで大学の講義をする教授の様に家族たちに伝える。

「…」

リビングに集う面々が無言になる。

初めに口を開いたのは由起だった。


「お母さん…だとしたら未来の、つまり今ここにいる冬威の本来の体はどうなっているんですか」

ソファーから身を乗り出しながら心配げに由起が言う。


「恐らく…空っぽの状態ね。つまり覚醒していない。眠っているかそれに近い状態ね」

奈々は言葉を選んで由起に話す。


しかし雅樹と奈々は全てを把握していた。

冬威は昨夜父と母に全てを打ち明けていたのだ。


未来の由起の状況。

未来の冬威が過去に来る経緯。

つまり夜の峠道でバイクで転倒し谷底に落ちたことも。


生死はわからない。

しかし雅樹と奈々は冬威の無事を信じていた。

意識体として過去に転移した冬威の本体に異常があれば、それは消滅と言った究極の状態のことであるが、そうなった時、意識は安定的に存在し得ないだろうという見解からである。


死は別次元への移行を意味する。

その移行がなされた場合、現実空間と同じ状況では存在し得ないはずだとの仮定から導き出された予測である。


そしてそれは、事故に合った冬威がまだ死んではいないことを意味していた。

相応の高さからの転落。

普通に考えて怪我はしているだろう。

もしかしたら意識を失っているかもしれない。


だが生きている。

父と母はそう願わざるを得なかった。

そしてもう一つ両親が一縷の頼みにしている流れ。


それが冬威の現時点での行動である。

つまり今が変われば未来が変わるという因果律にである。

冬威は由起を救い卯月と言う女の子の運命も変えたと話していた。


雅樹と奈々はこれらの時空の変化が未来の冬威に及ぼす影響に期待したのである。

その変化が必ず、暗闇の峠道を無謀に走ると言った冬威の行動を変えて行くはずだと。

悔恨の過去に囚われそこから逃げるために暗闇にアクセルを開いていた冬威だったが呪縛から解き放たれればその行為自体をとる必要がなくなるからである。


結果的に冬威がバイクで転倒し谷底に落ちる未来は消滅する。

『今、由起ちゃんに未来の冬威に起きている災厄を伝えることはできないわ』

奈々はその想いを無言で雅樹に伝える。


雅樹は奈々の意志をしっかりと受け止めゆっくりと瞼を閉じる。

『当然だよ奈々ちゃん、美優と美夏に絶対に秘密だ』

雅樹もまた奈々にメッセージを送っていた。


「由起ちゃん…」

奈々が由起の手を取る。

「はい、お母さん」

奈々の真剣な目つきに呼応し由起のまなざしも変わる。


「由起ちゃん…しっかり聞いて欲しいの。きっと冬威はあなたに未来のあなたのことを話すことが出来ない。だからかわりに私があなたに伝えるわ…。冬威は辛い事実を由起ちゃんには伝えないつもりだったみたいだけど、私は冬威のために由起ちゃんには知ってもらいたいの。そして未来の冬威を救って欲しいの…」

由起の手を握る力が増す。


「は…い、お母さん」

奈々のただならぬ決意に一瞬たじろぐがそれを跳ね返すように握られた手を強く握り返す由起。


「由起ちゃん、由起ちゃんがお弁当を作ってくれた次の日に由起ちゃんを暴漢から冬威が守ったわよね?」

「はい…冬威君が由起を守ってくれたので由起は今こうしてここにいます」

「本当に良かった、私はそれが本当にうれしい」

そう言うと奈々は由起をしっかりと抱きしめた。


「今度は由起ちゃんに冬威を守って欲しいの…由起ちゃんの存在が冬威の未来を変えるの…」

「お母さん…どう言うことですか? 未来の冬威君に何かあったの?」


奈々は冬威から聞いていた顛末を由起に伝える。

変更前の過去つまり現在では冬威は由起のマンションへは行かずその結果由起は暴漢に大怪我を負わされその結果学校を辞めひきこもりになっていたこと。そして数年後由起に再会した冬威がそのことを知り過去に由起の想いをしっかりと受け止められず由起を守れなかった事を後悔しその悔恨の思いから立ち直れていないことを。


「由起ちゃん…今、ううん、未来の冬威は薄暗い谷底にいるようなものよ…。きっと生きているとは言えない様な状態で。でも冬威は過去を変えられた。由起ちゃんを暴漢から守ることが出来た。だからきっと冬威の未来も変わると思うの。由起ちゃんの未来が変わったんだから冬威は絶望や悔恨に苦しむことはないはず。だから由起ちゃんお願い…冬威のために真っ直ぐ幸せな今を生きて、そして冬威の未来を救って欲しいの…」

奈々は泣き崩れそうになるのをこらえ、また冬威の未来の状況を巧みに心理状況にすり替えて由起に伝える。


「由起の未来を冬威君が救ってくれた…。前の過去のままだったら今頃由起はここにはいない。大怪我をして病院にいるはずだったんですね…」

奈々に抱きしめられた由起が震えるように言う。


「お母さん…由起は冬威君にもらった未来を大切にします。冬威君が絶望に陥ることなんてない様に…。だから心配しないで下さい。それに由起は今すごく幸せです」

由起はそうなるはずであった痛ましい過去を振り切り、今ある幸せをかみしめるように奈々に告げる。


「ありがとう由起ちゃん…由起ちゃんの今がそして未来が、なきっと冬威を救ってくれる。由起ちゃんの幸せな未来が冬威の未来を変えるのよ」


抱きしめられた由起の背中に双子の温かい手が添えられる。

リビングには冬威への愛が溢れていた。

その愛は苦悶する今の冬威と、薄暗い谷底に落ちて行った未来の冬威にしっかりと届いていた。


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