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由起の悲劇 今度こそ由起の『願い事』を叶えるんだ! 俺が由起を絶対守る!

過去に起こった悲劇を振り返る冬威。

冬威はかつての過ちを繰り返さない。

今度は必ず由起を守る!

由この悲劇を打ち破れ!


わかりにくくてすみません。

繰り返しではなく、過去に帰った冬威目線での物語の進行です。わかっていただけたら嬉しいです^_^

「早く、ここ、ここ」

由起が冬威を引っ張るように体育館そばのベンチに誘う。


『そうだ、この日由起が俺に弁当を作って来てくれてここで食べたんだっけな…』

冬威は目を細めて由起を見つめる。

冬威の意識は完全にあの頃に戻り当時の由起との再会を果たしていた。

何食わぬ顔で当時のままの会話をしながらも心中は懐かしさと由起に再会で来た喜びで溢れていた。


「こんなとこあったんだ~知らなかったよ」

『本当は良く知っているよ…由起とここで過ごした時間を忘れやしない』

心の中で呟く。


「良いでしょここ。誰もいないし…。ここに座ろ」

そう言うとベンチに座り弁当箱を取り出す。


「休み時間無くなっちゃうから早く食べよ!」

「ん? あ、ああ」


『俺は…本当に過去に戻って来たのか。峠道で転倒して谷底に落ちたんじゃなかったのか?』

そう心の中で呟くと自分の体を見渡す。

どこにも怪我のひとつもない。


『おかしい…なぜ怪我のひとつもないんだ? 俺は夢でも見ているのか?』

訝しがりながらも由起の弁当を開ける。


「由起ちゃん弁当作るの上手だね。彩りきれいだしうまそ!」

そう言うと冬威は弁当に箸を付ける


「ほんとに? うれしい。口に合うかな?」

『口に合うよ、由起の料理は最高に美味いんだ…』


「う、うう…」

弁当を一口した冬威が突然呻きだす。


「冬威どうしたの? アレルギー? 冬威! 大丈夫…って冬威? その後『う、うまいっ!』ってやる気でしょ?」

初めは、さも心配気に声をかけていた由起が何かに気が付いたように冷たく言う。


「う、うまい!って、あれ? ばれちゃってた?」

「うちのパパも良くやるそれ…」


「あ、そ。うちの親父も良くやるんだは」

「ぷっ、あはははは」

ふたりが同時に笑い出す。


『あの時と全く同じ会話。俺も良く覚えている。何のよどみもなくあの時と同じセリフが出て来る。なんて愛おしい時間だったんだ』

谷底に落ちたはずの自分の成り行きが気になったがそれを忘れてしまうほど再会した由起との会話にのめり込む冬威。


「なんか似たような父親に育てられた様ですな由起ちゃん」

「みたいね、おっかしい。子供って結局親の背中しか見られないみたいね? 冬威だって家でパパがそれやってるの見て『またやってるよ…』って思ってるんでしょ?」


「ま、まあね…由起ちゃん鋭いね」

「だって由起もそう思ってるもん」

そう言うとまたふたりで笑う。


『父さんに由起を紹介したかったな…。いや本当に過去に戻れたのであれば今度は由起を必ず救う。そして父さんにも母さんにも由起に逢ってもらおう。…由起と一緒に鋸山にでも登りたいな』

そんなことを考えながらも抜かりなく当時の会話を再現する冬威。


「でも由起ちゃん料理上手だね。ほんと美味しいよ」

「独り暮らしだからね。何でも自分でやらないと。でも冬威? 男の子で料理の彩り褒めるとはなかなか女心がわかってますな?」


「ま、まぁ…鍛えられてますから否応なく日々…」

『ふっ…由起と美夏美優を合わせたら双子はどんな顔するんだろうな…』


「え? あ、そ、そうなんだ…なんかよくわかんないけど大変そうだね…」

「うん…」


「それよっか由起ちゃん? 独り暮らしってちょっと憧れるけど…めんどくさくない?」

「う~ん…確かにめんどくさいって言えばめんどくさいけど…冬威は独り暮らしとかしないの?」


「ガッコまで通える距離だからね。」

「ね、ね?…冬威?ほんとに由起の料理おいしい?」


「何?急に。ほんとにおいしいよ?」

間髪入れずに冬威が返事をする。


『ここだ! ここで俺は選択を間違えたんだ』


「冬威、今度…ううん、今日ウチにご飯食べに来なよ。美味しい物ご馳走するから」

「え~なんか悪いよ…お弁当も作ってもらってるし…」

歯切れ悪く返答する冬威。


「悪くないの。食材買いすぎちゃって痛んじゃいそうなの。だから助けると思って! ね? 由起の、お・ね・が・いっ」

由起は顔の前で手を合わせて冬威に言う。


「お・ね・が・い・ってなんか可愛いね~じゃあお邪魔しようかしら~」

「…ってなんで急にお姉みたいな感じ?」

不機嫌そうに由起が言う。


「あ、いや別に意味ないけど…由起ちゃん怒るからやっぱ行~かないっと!」

「あ、ごめんごめん怒んないから、一緒にご飯食べよ!」

再び拝み倒すように言う由起。


「オッケー! んじゃご飯ごちそうになるね! ん? ライン入ったね。 由起ちゃんも鳴ってるよ?」

「ほんとだ」

ふたりそろってラインをチエックする。


「…午後の講義休校だってさ由起ちゃん」

「やった…じゃあゆっくりお弁当食べられるね」


『そうだ! これでいい…由起のマンションに行くんだ。当時の俺は由起の本当の気持なんてわかってなくて、由起のマンションに行くことを断ってしまった。その結果本当に由起が言いたかったこと、由起が本当に求めていたことを俺は知ることが出来なかった…。そして…由起はフラれた腹いせに乗り込んできた柔道家の元彼に殴られ地面に投げつけられ大怪我をして入院…。怪我をさせた男は逮捕されたけど退院して来た由起はPTSDでひきこもり、結局学校を辞めてしまった』


春のやわらかな日差しの下でふたりならんでぎこちなく座る。

冬威は由起の横顔をそれと気が付かれない様に見つめる。

峠道の暗い谷底に落ちながら願った『願い事』が叶いあの頃の由起の横に座っている。

自分が今どうなっているのかは知る由もなかったが、熱望していたこの一瞬が手に入ったことに我を忘れる。


しばしの沈黙を破る様に話し始める由起。

「冬威ってさ彼女とかいるの?」

「由起ちゃんってさ彼氏とかいるの?」

由起に続けるように冬威が言う。


「由起が先に聞いたんだよ!」

「冬威が後に聞いたんだよ!」


「…なにそれ? じゃあ冬威が先に言いなよ」

「…なにそれ? じゃあ由起ちゃんが後に言いなよ」


「…うん、わかった後に言う。じゃあ冬威が先に言って」

「…うん、わかった先に言う。じゃあ由起ちゃんが後に言って」


「冬威…? これいつまで続くの?」

「由起ちゃんが何を質問したか忘れるまでかな~ははっ」


『たわいのない会話…この瞬間がどんなにか愛おしい物だったか俺はわかっていなかった。学校を辞めた由起とはその後会う機会もなかった。学校を卒業して数年後たまたま行き会った埼玉県出身の奈美に由起の現況を聞くまでは…。由起は学校を辞めた後ずっと家に引きこもっていたと言う。俺は奈美に由起の実家の場所を聞き出し由起に逢いに行った。しかし何度訪れても逢ってはもらえなかった。当然だ、由起が俺に助けを求め様としたその日俺は由起の誘いを断った。その結果次の日に由起に悲劇が訪れたんだ。そんな俺に逢うはずもなかった…』


「ってことは彼女いないんだ…」

「ってことで良いよ!」


「もう! 冬威! さっきの女心わかるって言ったの撤回だから!」

「ん? なんで?」


「普通さ、お弁当箱間違えると思う?」

「ん?」


「『ん?』じゃなくて! 由起は冬威にお弁当食べさせたかったから、わ・ざ・と、お弁当箱間違えて持って来たの!」


「…そんなに貧しく見えたのか? 俺って…」

「そうじゃなくて~もう鈍感! 嫌いっ」


「あっ! それわかる! 少女マンガだとだいたい『嫌いっ』って言うパターンは好きってことだよね?」

「は? 冬威って少女マンガとか読むの?」


「読むよ~ガラスの仮面とか王家の紋章とか…花より男子は全巻読んだし~あとは…最近ではオレンジも良かったなぁ~」


「さっきから時々お姉言葉になるけど…もしかして冬威って…ゲイなの?」

「なんで? って別にゲイでもなんでもいいけどさ、ノーマルだよ? 人間が好きってことならバイでもいいよ? ははっ」


「もう! わけわかんない…ノーマルなのね? ノーマルなんでしょ? 冬威、女の子好き?」

「女の子大好きだよ?」


「ってなんの話ししてたかわかんなくなっちゃった…バカなんじゃないの冬威って?」

「うん、バカだよ冬威って。由起ちゃん! お弁当美味しかったよ。ごちそう様ありがと」

イライラする由起を気にも留めない冬威。


「だ・か・ら・冬威にお弁当食べさせたかったからわざとお弁当箱間違えて持って来たの! なんでかわかる?」


「わかるよ由起ちゃん、なんでそうなのかはよくわかんないけど。俺が女の子だったら嫌いな奴にお弁当なんか作らない。ってことくらいはわかるよ?」


「…」

「由起ちゃんは彼氏いないの?」


「今は…いないよ」

「そっか~由起ちゃん色白できれいだから絶対彼氏いると思ってたよ」


「由起がきれい? 冬威からかってんの?」

「なんで? 色白できれいで可愛いし料理も上手で最高の女の子じゃん?」


「冬威の…バ…カ。調子いい感じで嫌い…」

「なんだよ今度は嫌われちった! ははっ」


「冬威…? 少女漫画で『嫌いっ』は?」

由起が冬威に迫る。

「いや…嫌いなものは嫌いだろ?」


急に冷静になる冬威。

「ち・が・う・で・しょ?」

「ってじゃあ由起ちゃん俺のこと好きなの? そしたら由起ちゃんの方がバカじゃん?」


「ど・う・し・て・そうなるのよ!」

「いや? 良くわかんないけど…」


「も~冬威っ! 由起は冬威が好きなの! バカっ! 嫌いっ!」

「好きなの、バカっ…嫌いって…? 由起ちゃん…わかんないよ?」


「好き…」

冬威の胸に由起が飛び込む。

冬威は由起をギュッと抱きしめた。


『由起、今度は離さない。俺は本当に女心なんてわからなかったんだ…。独り暮らしの女の子の家に行くなんて当時の俺にはすごく罪悪感や戸惑いみたいなものがあってそれで俺は由起の誘いを断ってしまった。由起が本当に俺に言いたかったことを遮ってしまったんだ。俺は俺のこだわりや体面のために助けを

求めていた由起の想いに目を向けなかった。今度は大丈夫! 由起の願いをきっと叶える。由起を守るからね』


春の陽が優しく射し、まだ少し冷たい風がふたりに優しく吹き付けた。 


『何度目かに由起の実家を訪ねた時、気の毒がった由起の両親が俺を由起と引き合わせた。俺の目の前に引き出された由起は当時の輝きを失っていた。俺は由起の力になりたいと申し出たがもう由起は俺を必要としていなかった。『なぜあの時に私の願いを聴いてくれなかったの…ただそばにいて欲しいって言うささやかな『願い事』を。もう今更何も変わらない。あの時には戻れない。失った時間は取り戻せない…』そう言うと由起は俺の前から消えた。その後も何度も由起に逢いに行ったが二度と顔を見せてくれることはなかった。俺はそれでも由起に逢いに行った。しかし何度目かの訪問の後、俺は二度と由起に逢うことが出来なくなったのだ…』


由起を胸に抱きながら苦悩の表情を見せる冬威。

失った時を取り戻す、もう一度やり直すチャンスを逃さない。

冬威は過去を振り切った。

そして苦悩の表情を決意に満ちた顔に変えた。


冬威がこの後しっかりと由起の『願い事』を叶え、その危機を救った事は既に物語の冒頭で知るところだ。

元彼の襲撃を見事に打ち破り由起を守った冬威。


由起の未来は大きく舵を切って変わって行った。

ラダーが海をかき分けるその小波は由起ばかりでなく冬威の流れも少しずつ少しずつ変えて行った。


今が変われば未来も変わる。

未来が変われば今が変わる。

今が変われば過去も音を立てて変わりだす。


行動が全てを変えて行く。

想いが全てを変異させる。


冬威と由起の時間の流れがゆっくりと大きく変わり始めていた。

冬威の腕時計がひっそりとその腕で輝く。

何かを記すかのような怜悧な光がひっそりと輝いた。


 












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