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ニーチェと雅樹とブロック宇宙論 現在は過去を変え、未来は現在を変える

時間は不可逆性で一方向にしか流れない。

そんな時間の特性が最新の量子力学において否定されつつある。

時間は未来に向かって流れるだけでなく過去にも流れると…

現在が過去を変え、未来から見て過去である現在をも変える。

「もう一度この時代の由起ちゃんに逢うこと、それが冬威の願い事」

由起の目をしっかりと見つめる奈々。

「冬威の能力はこの強い願い事から生みだされたんだと思うの。これは冬威自身も言っていたわ。未来の冬威は後悔の念に押し潰れそうだった…。自分の人生を振り返った時、振るい切れない後悔の念がちょうどこの時期に重なるように起きたことに気が付いた様なの…」


「それで冬威はこの時期の自分にタイムスリップしたってわけ?」

美夏が奈々の言うことを要約する。


「そうね、冬威はどうしてもこの時期に戻りたい、戻ってもう一度やり直したい。そう、強く願った」

奈々は噛みしめるように冬威の心情を語る。

傍らの雅樹は軽く目を閉じ、じっと奈々の言葉を聞いていた。


「でもママ? そんな事って本当に起こるの? 美優はなんだか信じられない」

「う~ん…そうね冬威だってそう思ってたくらいだからね。後悔の念が強すぎて過去に戻った夢から覚められないじゃないかとか、精神が崩壊して妄想の中にいるんじゃないかって本気で悩んでいたみたい」


「それで奈々ちゃんとマサのところに来て真実を話したって感じだったよ。今ここにいる自分が果たして実態なのかそれとも夢幻なのかってね」


「あの日に戻りたい、戻ってあの時取るべきだった行動を取りたい。悔いを残したくない。もっと自分に素直に、もっと人に優しくなりたい。冬威はそう願った」

奈々が母親の表情になる。


「奈々? だけどさ、ブロック宇宙論では過去現在未来は同時並行して完全体として存在していて、時間は流れるのではなくその時々でスポットライトの様に照らされ、照らされた部分が取り上げられる…みたいなこと言われてるじゃん? それで、各々完全体だからタイムトラベルが出来たとして、過去に戻って行動しても過去は変えられないって美夏は本で読んだよ。それだったらいくら冬威が過去に戻ってやり直したところで何も変わらないんじゃないの?」

美夏が最新の宇宙論を奈々にぶつける。


「美夏は随分勉強しているのね感心感心。そう言う理系的な思考は奈々に似たのね。美優は奈々の記憶能力を色濃く受け継いでいる。冬威は…強い意志で思念を現実化させる…願いを叶える力を受け継いでくれた。マサの飛び切り優しいところは子供達みんなにちゃんと受け継がれている。奈々もマサもそれがとてもうれしい」

奈々は聖母の様な目で子供たちを見つめる。


「オイオイ? 奈々ちゃんマサに似たのは優しいとこだけ? ってかマサは優しいしか取り柄がないみたいじゃん」

雅樹が拗ねた様に言いそれを聞いた4人が声を出して笑う。


「マサ? 優しいに勝るものはないと奈々は思うけど? 美夏美優、由起ちゃん、男の人は絶対優しい人じゃなきゃダメ。見た目とか財力とかも大切かもしれないけど最後の最後で信じられるのは誠実な愛と真の優しさだけ。これだけは絶対よ。そ・れ・か・ら・由起ちゃん」

奈々が由起を名指すと由起がびくっと反応する。

「は、はいっお母さん」


「冬威は奈々に似て一途だから何も心配しなくていいわよ? だ・れ・か・さ・ん・と違って」

そう言いながら雅樹の脇の辺りを肘で突く奈々。

「なんだよ奈々ちゃん? それじゃあ俺が一途じゃないみたいじゃないか!」

雅樹が奈々に抗議する。


「ふ~ん…しらばっくれるんだ…。奈々がどれだけ悩まされたか由起ちゃんや娘たちに教えてあげたいわ」

意地悪く言う奈々。


「マサが~? 嘘だろ奈々?」

美夏が横目で雅樹を見ながら嘲笑する。

「パパなに? 浮気とかしてたの? 信じられない不潔! もう一緒にお風呂入ってあげないんだから!」

突然、しかも事も無げにとんでもないことを言い出す美優。


「え?」

奈々、美夏、由起、そして雅樹までもが仰天する。


「ちょっとマサ! いくら娘とは言え美優、何歳になると思ってるの、変態! 信じられない」

そう言うと雅樹の腕をこれでもかという位つねり上げる。

「イテテテっちょっと奈々ちゃんそんなわけないだろ!」

奈々の手を振りほどこうと必死にあがく雅樹。


「マサ! いつの間に美優とお風呂なんか入ってたんだよ! 児童相談所、いや警察に突き出してやる」

美夏まで息巻く。


「え? みんなどうしてそんなに驚いてるの? 美優はお兄ちゃんともお風呂入ってるよ?」

周囲の喧騒を他所に平然と言ってのける美優。


「え、えっ?」

再び唖然とする4人。


「美優ちゃんと冬威が一緒にお風呂…。あのきれいなおっぱいを冬威が見てる…」

そう呟きながらなぜか自分の胸を隠すように覆う由起。

「美優! いくらお兄ちゃんっ子だからってあんたももういい年なんだからお兄ちゃんと一緒にお風呂入っちゃダメでしょ!」

奈々がすごい剣幕で捲し立てる。


「へへっお兄ちゃんと一緒…なんかそんなテレビ小っちゃい頃観てたよね?」

「ってそりゃあ『お母さんと一緒』だろ! 美優ヤバイよ? そんな事学校で知られたら究極のブラコン扱いだぞ!」

美夏もまた激しく捲し立てる。


「ってみんな冷静になれって! マサも冬威も美優とお風呂なんか入る訳ないだろ?」

ようやく奈々のつねり攻撃から逃れた雅樹が言う。

「美優…嘘だろ?」

雅樹が美優をとがめるように言う。


「いや…まさかこんなにみんなが信じるとは思いもよらず…」

そう言いながらうつむくがその口元は笑いをこらえられなくなっている。


「オイオイ…」

4人が同時にあきれた様に言う。


「びっくりさせないでよ美優! ママ、胸が破裂するかと思ったわ!」

「美優? やめてくれる? あたしら一卵性双生児なんだからあんたが見られるってことは美夏も見られるのと一緒なんだからね!」

「ほっとした…美優ちゃんのスレンダーな美しさにはかなわないわ…。本当にそうだったら由起はどう対抗していいか見当もつかない…」

別の価値観で胸を撫で下ろす由起。


「って本気で疑われて思いっきりつねられたマサの立場は…」

各々が胸の内をぶつけながら気が付くとみんなで笑っている。


「あ~可笑しい~みんな本気にするんだもん。ってママってやっぱり、すんごいヤキモチ妬きだよね?」

そう言いながら笑い出す美優。

「美優~ママのことをからかって! もうしばらくお小遣いあげないから。その分は美夏ちゃんにあげましょうね~」

「やった~奈々最高!」

「あ~んママごめんなさい~」

美夏が飛びつき美優が泣きつく。


「美優! 何が悪かったの!」

奈々が美優に言い放つ。

その姿を見てなぜか雅樹もビックッと反応する。


「嘘言ってみんなをからかって、ママのことをやきもち妬きとか言ったことです~ごめんなさ~い」

っと反省したような顔をする美優であったが泣きべそをかくふりをして後ろを向いた瞬間にべーっと舌を出す。

ちょうど部屋の隅に置かれた鏡にその姿が映り込んだが位置的に雅樹にしか見ることはできなかった。


「わかればよろしい。もうびっくりさせて~」

奈々の怒りがやっと治まった。


「ったく美優のおふざけのせいで何を話してたかわすれちゃったじゃんよ~」

美夏が話を元に戻そうとする。


「美夏ちゃん、ブロック宇宙論についてだったよね」

雅樹が美夏を後押しする。


「美夏ちゃんはブロック宇宙論における過去現在未来についてさっき話してたよね? それで過去は変えられないって」

「そうだよ、ブロック宇宙論ではそう定義されてた」


「マサもブロック宇宙論は宇宙の真理に近いんじゃないかなって思う。ビックバンからビッククランチまでの全てが既に完全体として存在すると言うのは仏教の宇宙観にとても近い。『仏は三世を見渡す』って仏教では言われているんだ。これはつまり悟りを開いた者は過去現在未来を見渡す、見ることが出来るって言うことなんだけどさ、見渡すことが出来るって言うことは既にそこに存在していなければならないことに通じるってマサは思うんだ」

雅樹がブロック宇宙論と仏教の宇宙観について話しをする。

3人の女の子は食い入り様にその話を聴いている。


「つまり過去現在未来は現に存在している。だからそれを見ることが出来るってこと。だけどマサは過去が変わらないとは思っていない。過去は現在の行動によって変容する。そして発展的には未来の行動が未来から見て過去にあたる今、つまり現在を変えることも出来るって考えている。」

雅樹が一旦言葉を区切る。


「過去が現在によって変わる…未来の行動が現在を変える?」

美夏は天井の方を見ながら雅樹の持論を繰り返す。


「ニーチェって知ってる?」

雅樹が問いかける。

「ドイツの哲学者ですよねお父さん。超人思想という概念とかの」

由起がニーチェについて雅樹に言う。


「そうそう! さすが由起ちゃん。ニーチェはこんなことを言っている『過去が現在を影響を与えるように、未来もまた現在に影響を与える』これは素晴らしい未来を信じてそれに向かって前向きに生きて行けば当然の如く未来は良い物となるし、未来を信じて努力することで現在も良くなるってことを意味しているんだけど、俺はまた違った解釈から未来が現在に影響を与えると考えていて、ひいてはブロック宇宙論には反するけど過去現在未来は完全体として存在はするもののそれを変えることができないわけではないって考えているんだ」


「マサの考え方は量子力学的にもマッチするって奈々も思う。もつれた一対の量子から類推してもそう言う認識が導き出せると思うわ」

奈々が雅樹を後押しする。


「過去は変わる、現在の俺達がどう向き合うかによって変容する。例えば人間関係がこじれて辛い過去があったとする。その結果学校や職場を辞める言った類の嫌な記憶も、時が過ぎやがて『あの時は随分人間関係に悩んだけれどそのおかげで今はいろんなことに耐えられる。あの辛い過去があったおかげで自分は強く成長した』何て感じで過去を振り返った時辛い思い出は、自分が成長するために必要な事だったんだって捉えられるようになったりする。そしてその瞬間嫌な思い出の過去は変容していくんだ」

一同は静まり返って雅樹の話に聴き入る。


「辛い過去は自分にとって修行、勉強の時期だったんだって。俺は同様に、現在と未来の関係も捉えられるってうんだ。だって未来から見たら今俺達がいる時空は過去なんだからさ。だから、過去と現在の関係における変容は未来から見て過去にあたる現在も変容させるってことに置き換えられるだろ? 美夏ちゃん?」


「う~んなんだか美夏もそう思える気がしてきたよマサ…」

「わかってもらえてうれしいよ美夏ちゃん。未来の自分の行動が未来から見て過去にあたる現在の生き方や状況を変えるって思うんだ。ちょっとSFチックだけど最新の量子力学はきっとこれを立証する日が来ると思うよ」

「マサ? 恐らくそれは量子力学的にも導き出せると思う。量子は過去にも戻ることが出来るのではないかって言われているから」

5人は銘々に想いを巡らせている。


過去現在未来は相互に影響し合って変容する。

窓の外には、まだまだ生き生きと太陽が輝き5人と部屋を照らしていた。








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