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愛は時空を超えて 由紀に逢いたい、どうしても由起に逢いたかったんだ

由起への熱烈な想いが冬威に特殊な能力を呼び起こした。

量子と意識と過去現在未来。

愛は時空を超えて

リビングでにぎわう雅樹、奈々、由起、美夏、美優。

まるでずっと以前からの知人の様に何の違和感もなく溶け込む由起。

そんな雰囲気に一番驚いているのもまた由起であった。


『なんだろう…この雰囲気。なんだか懐かしいみたいな、ずっと前からこうだったみたいな感じ』

そんなことを考えながらも今は目の前にいない冬威の事を想っている由起。


『冬威…大丈夫かしら…』

そしてそんな由起の心の移ろいを敏感に察する奈々。


「由起ちゃん? 大丈夫?」

「お母さん…大丈夫です。冬威君どうしたかなって」

由起が冬威を気遣う様子を見て奈々と雅樹が顔を見合わせる。

そしてまるで目線で会話をするかような間が開いた。


「マサ? やっぱり由起ちゃんには冬威の事話しておかなくちゃって思うんだけど…」

「奈々ちゃん、マサもそう思うよ。きっと由起ちゃんは今の冬威の力になってくれる。それに美夏美優だってきっと気が付いてると思うし。家族なんだから冬威の事は伝えなきゃって思うよ」

雅樹が奈々にそう言いながら、由起、美夏美優にもそれとなく匂わせる。


「パパ? お兄ちゃんがどうかしたの?」

真っ先に問いかける美優。

「そうだよね…マサの言うとおり、ここにいるみんなにはちゃんと伝えなくちゃね」

「奈々っ! なんだよ、もったいぶらないで教えてよ! 冬威の事ならあたし達だって知る権利がある! 大事な家族だからね!」

美夏が勇んで奈々に詰め寄る。


「お母さん…冬威君に何か大変なことがあるんですか? それなら由起はどうしても冬威君の力になりたい…。由起は冬威君に助けてもらったんですから」

由起がおずおずとしかし強い意志を持って奈々に言う。


「由起ちゃん、その話は冬威から聞いてるわ。由起ちゃんを助けるために冬威は変わったの。そして今ここにいる」

奈々が謎めいた言い方をすると3人の女の子の顔つきが一斉に変わる。


「ママ? どういう事? お兄ちゃんが変わったって何が変わったの? お兄ちゃんがなんか違うのは美優はもう随分前から気が付いてるし美夏もそう! 最近のお兄ちゃんは時々違う顔をする」

美優が奈々にしがみつきながら訴える。


「さすがお兄ちゃんっ子の美優ね…違う顔か、美優の言うとおりかもね。ママもそこでピンと来たの」

「奈々! だからどういう事だって?」

せっかちな美夏がせっつく。


「夕べ遅くに帰って来てから奈々ちゃんと一緒に冬威の変化について話してたんだ。なんだか様子が違うねって。親って結構そう言うとこ気が付くもんなんだよ。そしたら冬威が2階から下りて来て、どうやら冬威に話が聞こえてたんだね」

「それで自分からママとマサに打ち明けて来たわ…どうして自分がここに来たのかを」

奈々が再び謎めいた言い方をする。


「それはつまり…」

由起が言いかけて言葉に詰まる。

「つまりどう言うことですかお母さん」

結局考えてもわからないと判断した由起は素直に奈々に答えを求める。


「驚かないで聴いて欲しいの、現実では起こり得ない様なことが起こるのもまた事実なの。私たち夫婦もそうだわ。現実では考えられないような事態を切り抜けて今こうして大切な家族に囲まれてるの」

奈々がそう言うとソファーから身を乗り出した雅樹がその後に続く。


「冬威は今、二人いる。いや、同じ人間が二人いるって言うんじゃなくてわかり易く言えば今の冬威と未来の冬威が二人いるってことなんだけどさ…」

「今と冬威と未来の冬威?」

三人の女の子が声を合わせて聴き返す。


「そう、今の冬威の中に未来から来た冬威が入ってるって言えばわかり易いかな…」

「何言ってるのママ? そんなことあるわけないじゃん!」

美優がソファーの背もたれにのけぞるように笑いながら言う。


「奈々…何を言い出すかと思えば」

美夏もまた嘲笑するように笑う。


「でも…由起はなんだかわかる気がする…。冬威君、時々全然違う人みたいな横顔します。由起は学校でもどっちが本当の冬威君? って聞いたことがあります…冬威君は『どっちも同じ俺だよ』って言って笑ってましたけど…」

由起が思い起こしながら呟く。

由起の真剣な面持ちに双子の姉妹も呼応する。


「ママの言うことが事実かどうかは別として、美優が気がついてたのはお兄ちゃんの横顔や印象の違いだけじゃなくて腕時計。お兄ちゃんは腕時計をしている時としていない時がある。さっきまでしていた腕時計が次に見た時はなかったり…。美優がそのことをお兄ちゃんに聞いた時お兄ちゃんはちょっと外していただけだよ、みたいなこと言ってたけど、美優はすごく不自然に感じた」

美優は鋸山で気が付いた違和感を皆に伝える。


「さすが美優! やっぱりママの子ね。良く気が付いたわね! そう、どうやらその腕時計と冬威は一緒に時空を飛び越えているみたいなの」

美優の指摘から一気に話を確信に進める奈々。


「時空を超えるって!」

またも3人の女の子が声を合わせて言う。

由起も既に双子の姉妹と同じだ。

三つ子の様に同じ感覚で物を思うようになって来ている。


「とは言っても腕時計がタイムトラベルの道具ってわけでもないらしい。現在の冬威と未来の冬威を結ぶって言うか機能的にはアラームで存在する日時を把握するために使っているだけみたいだよ。腕時計の存在は…そうだな本当はこの辺りは奈々ちゃんの方が全然詳しいけど、つまり今の冬威と未来の冬威は一対のもつれた量子のような関係にあって未来の冬威の意志について来るのがあの腕時計らしい」

雅樹が考え考え言葉を絞り出す。


「つまりあの腕時計をしている時のお兄ちゃんが未来のお兄ちゃんてこと?」

「その通りよ美優。もつれた量子は観測された地点でどんなに離れていようとも同じ方向にスピンをし始める。たとえ宇宙の端と端に居てもよ。これはつまり量子が光の速度を超越すると言うかそもそも時空を超越する何らかの力を持っているってことなの。既に中国では地上と500㎞上空の宇宙空間に存在する量子が瞬時に同様の形態をとったことが実験で立証されているわ」

奈々が理論的な説明を始める。


「現在の冬威と未来の冬威はまさにそんな関係にあるみたいなの。冬威はこんな表現をしていたわ。冬威のいる未来でもタイムマシーンなんか開発されていない。どうして自分にこんな事が出来るのかは説明不能だけど自分の意識だけが過去と未来を行き来できるようになったと…」

奈々の衝撃的な発言に3人の女の子たちは言葉を失う。


「奈々? 美夏は量子力学に興味があるから『ニュートン』とかで特集されてると奈々の部屋でこっそり読んでたから少しは理解できるけど、最近の量子力学者たちの間では『人間の意識は脳内にある訳でもなく脳が作り出しているものではない。脳の活動は神経細胞の電気的な運動に過ぎない。意識、魂はもっと別な部分にある』って。奈々が今言っていることはそう言うことだろ?」

美夏がしかめつい顔をして言う。


「美夏、そうねニュアンスとしてはそれで正しいわ。最新の量子力学の意識に関しての認識はそんな感じね。奈々は常々考えていた。量子の特質から考えて、もし未来でタイムトラベルが可能になるとしたらそれは人間の体を何らかの装置によって物理的に運んで時空を超えさせるんじゃなくて、う~ん…つまりタイムマシーンや転送装置で送るって感じじゃなくて、量子の単位で存在するはずの意識だけを転送する装置、もしくは精神活動なはずだって。だってその方が全然理にかなってるし量子が時空を超えるだけのポテンシャルを持っていることはほぼ確定的だからね」

リビングがシーンと静まり返る。


「ただ冬威はこうも言っていた…。突然身に着いた能力だからいつまで機能するのかわからない。それに今現在コントロールできていることすら信じられない。もしかしたら単なる夢か、自分の精神が壊れて妄想を見ているんじゃないかって不安になったんだって。だからきっとマサと奈々に打ち明けて来たんだろうね」

雅樹の発言に聞き入る3人の女の子達。


「冬威がその力を得る直接のきっかけは…つまり時空を超えて現在未来、あぁ、冬威にとっては現在と過去ね。ややこしいわね。つまり意識のタイムトラベルが可能になったのは由起ちゃん、あなたの存在がきっかけなんだって冬威は言ってたわ。未来の冬威にとっての過去のあなたにどうしても会いたい、会う必要があるっていう強い想いが冬威に特殊な力を身に着けさせたんだって。『由起に逢いたい、どうしても由起に逢いたかったんだ』ってそう言ってたわ」

奈々は由起を愛おしそうに見つめながら言う。


「由起が…由起がきっかけ…。未来の冬威が今の由起に会う為に…」







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