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自然と人が一緒に作った山、鋸山! ヤッホー冬威! ヤッホー由起ちゃん! 

鋸山を登る冬威と由起と美夏と美優。自然と人間が共同で創り出した山に触れる。

『ピピピピッピピピピッ』

高台の開けた場所でアラーム音を聞いて覚醒する冬威。

『201x年5月…10時…問題なく着いた』

腕時計を見つめながら心の中で呟く冬威。


「冬威! 美夏ちゃん美優ちゃん先に行っちゃったよ!」

由起が忙しなく冬威を急かす。

「あいつらはここを走って登りきっちゃうから同じペースで上るなんて無理だよ。いつも最後は姉妹で競争になっちゃうから焦らなくていいよ。きっと先で待ってるよ」

そう言いながら眼下に広がる街と東京湾を眺める。


「ここから見える街と海が好きなんだ」

「確かにきれいだよね、街と海が一望できる」

登山道のピッチの小さい階段を昇り切った先に開けた高台。

冬威、由起と双子姉妹は鋸山を登っている。


鋸山頂上へのルートはいくつかあるがそのうちの比較的容易なルートを選択した。

美夏と美優はいつの間にか姉妹で競争になり、ものすごい勢いで登っている。

負けん気の強い双子はいつも競い合うように登って行くのである。


『本当は双子ちゃん達由起に気を遣ってくれてるんだよね…』

そう呟きながら冬威の腕に絡みつき携帯のカメラを起動する由起。


「冬威、山の方向いて海をバックに写真撮ろっ」

「あ、うん」

鋸山の中腹でツーショットで写真に納まる冬威と由起。


「山登り、なんかこう言うのもいいね! それに昨日の夜は楽しかった…」

由起が冬威を見つめながら話をする。


ドライブインかなやでの入浴を終え自宅に帰ってからのことを振り返る由起。

「お母さん本当にお料理上手! 美味しかった~。でも由起全然準備のお手伝いできなかった」

「気にすることないよ、母さん手早いから。それに後片付け手伝ってくれたじゃない。母さんうれしそうだったよ。双子は出来るくせに全然家事手伝わないからさ」


「お母さんよろこんでくれてた?」

「もうニッコニコだったよ」

「よかった…」

由起が空を見上げながら小さく呟く。


「それからね! 由起結局双子ちゃんのお部屋で一緒のベッドで寝かせてもらったじゃない?」

由起が興奮した様子で冬威に言う。

「ごめん、狭くなかった? 本当は別の部屋に由起が寝られるように準備してあったのに双子が由起と寝たいってせがむから…」

冬威がすまなそうに言う。


「全然いいの! 由起は双子ちゃんに一緒に寝ようって言ってもらえてすごくうれしかったし! 眠りながらいろんなお話も出来たしね。それに…」

由起の表情がなぜかはにかんだ様になる。


「それに?」

「…美夏ちゃんと美優ちゃんに挟まれて寝てるとね…なんかこう…ファンタジーの世界にいるみたいだった…。ふたりとも女の子の由起から見てもすっごく可愛いから右を見ても同じ可愛い女の子、左を見ても同じ顔の可愛い女の子。由起なんだか軽くパニックだったよ」

そう言いながら笑う。


「あぁ…それ、なんだか気持ちわかる。双子が小さい頃にさ、よく絵本を読んであげたんだけど、俺を挟んで右に美夏、左に美優。 それでお話読んでるとさ右から『それで?』左から『それからどうなるの?』って交互に言われるとさちょっと混乱したよな」


「あはは小っちゃい時の美夏ちゃん美優ちゃん可愛かったろうなぁ」

「今もそうだけど負けん気が強いからいつも競争してたよ」

「なんか想像できる~」

「だろ~」

ふたりが同時に笑い出す。


「冬威…」

「どうしたの?」

あらたまった顔をする由起。


「ごめんね突然押しかけちゃって…」

「全然気にすることないよ。母さんには初めにお弁当作ってもらった時から由起のことは話してたし、毎日弁当作ってくれてることもね。『由起ちゃんにお礼しなくっちゃ』っていつも言ってたし。だからいずれこう言うことにはなったと思う。母さん…どう言うわけかものすごいネットワーク持ってるからあっけなく由起までたどりついたと思うし」


「由起のことお母さんに話してくれてたんだね、うれしい…」

「えっ? 嫌じゃない?」

「どうして嫌なの?」

「だってさ、なんか普通嫌がるかなって」

「そんなことないけど、どうして?」


「いや、由起に弁当作ってもらうようになってから母さんには作らなくていいって言ってたから気になったらしくてさ。それで由起に作ってもらってるって話したら感激するやらお礼しなくちゃって騒ぎ出すわ大変だったよ」

そう言いながら冬威が笑い、由起も笑い出す。


「親に彼女のこと話すなんて嫌がられるかなって…」

冬威が海の方を見ながら小声で言う。

「え? 今なんて言ったの冬威?」


「ん? 別にそんなすごいこと言ってないけど…親に何でも話すとか女の子は嫌がるのかなって」

「そこじゃないっ!」

由起が眉をひそめて言う。


「…」

何を言われているかわからず無言になる冬威。

そんな冬威を見てあきらめ顔になる由起だったが一転笑顔を作り冬威の腕に絡みつく。

「彼女って言った…。由起のこと彼女って言ったよ…冬威」

由起の表情がみるみる艶っぽく変わっていく。


「あ、あぁそっか」

冬威が照れたように頭を掻きながら言う。

「あぁそっかってなに~」

今度は拗ねたような顔を作る由起。

恋する女の子は忙しいのである。


「なんでもないよ、つい気持ちが出ちゃったみたいな」

はにかんだ様に言う冬威。

「そっか~つい気持ちが出ちゃったか~。冬威もだんだん素直になって来たね~」

 そう言うと冬威の腕にすり寄る。


「素直…か」

冬威が遠くの空を見つめながら言う。

「どうしたの冬威?」

そんな冬威を由起が心配げな顔で見つめる。


「なんでもないよ由起っ」

『ヤッホー冬威~由起ちゃ~ん』

『早くおいで~由起ちゃ~ん、お兄ちゃ~ん』

遠くから双子姉妹が呼ぶ声がする。


冬威と由起の横を頂上へと向かって登る登山客がふたりを見ながら通り過ぎていく。

「っとあいつらおっきな声で呼んで~恥ずかしいな」

「あは、美夏ちゃんと美優ちゃんが呼んでる! 冬威っ行こう!」

由起が冬威の手を引く。


しばらく由起が手を引いて先行するが段々と登山道は狭くなり荒れた岩場を登る様な格好となる。

すると冬威が前に出て由起をエスコートする。


「大丈夫由起? 足元気を付けてね? このルートは比較的安全だけど登山道の中には時々遭難するコースもあるから油断しないでね。崖の下に転落してしばらくしてから発見…なんてこともないわけじゃないからさ」

「わかった…気を付ける」

そう言いながら足元をしっかり確認して慎重に登る。


細い岩場を登ると冬威が順路とは違った方向に進む。

「冬威? こっちじゃないの?」

「大丈夫、ちょっと寄り道。双子もきっとこっちにいるはず」

冬威の言った通りふたりが登った先に双子が待ち構えていた。


「遅いよふたりとも~。何してたの~」

双子が声を合わせて冷やかすように言う。


「ごめんごめん~待った~」

由起がそう言いながら斜面を登りきると石切り場の開けた場所にたどり着く。


「ここは金谷石を切り出して下に運ぶための場所なんだよ。この切り出された岩の部分が好きでさ」

冬威はそう言いながら切り出されてなめらかな岩肌を触る。

「ほんと、すごい滑らか」

由起も冬威を同じように岩肌に触れる。


「鋸山ってさ自然と人間が一緒に創り出した山だと思うんだよね。どれだけ昔かはよく知らないけど300m級のこの山がさ、海の中からすごいパワーでググーッとせり上がってそれでその後に人間が石を切り出してこんな風にノコギリみたいな山になった。自然の力だけじゃない、人間の力だけじゃない。両方が結果的に力を合わせてこの景観を作ったんだ」

冬威が切り立った岩肌をポンポンと叩きながら由起に言う。


「この岩肌を触っているとなんか得も言われぬパワーが伝わってくるんだよね!」

「うん…由起にもなんとなくわかる。自然と人間が創った山…鋸山か…なんか素敵!」

「美夏もこの場所大好き」

「美優だってここ大好き! なんか落ち着くしパワーも感じるんだ」


4人が並んで岩肌に触れる。

ひんやりとした岩肌が登山で火照った体に心地良かった。











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