コマネチ! キープと有以と冬威と由起
地元の友人と出会う冬威。
キープと有以と冬威と由起の出会いは?
「お部屋から海が見えるなんて良いな」
由起が冬威を振り返る。
「そう? はじめはきれいだななんて思うけどそのうちなんて事なくなるよ」
「もう! ロマンチックじゃないなぁ冬威は! それはそうとやっぱり妹さんいたんだ」
「やっぱりって?」
「喫茶店で兄妹の話が聞こえて来た時に、やけに妹さんの肩持つと思った」
「別に肩持ってないよ」
お互いに聞きたいことは、山ほどあったがなぜかしばし沈黙になる。
「由起? お互い話したい事いっぱいあるけどとりあえず外に出て散歩でもしよう」
「え? なんで? 妹さん帰って来たんでしょ? 由起に紹介してくれないの? 妹さんって双子ちゃん?」
由起のクエスチョンが止まらない。
「由起の気持ちはわかるけど、とりあえず外で散歩しながら話すよ。今は一刻も早くここを出よう」
冬威がスプリングコートを羽織る。
「なんで? なんで外?」
訝しがる由起の手を引いて階段をそうっと降りる冬威。
口元に人差し指を当てて由起にも話しをしないよう牽制する。
玄関で素早く靴を履き静かに扉を開けると表に出るふたり。
冬威は門を開け曲がり角まで小走りに由起の手を引きながら進む。
「ここまでくればちょっと安心」
ほっとした顔で胸をなでおろす冬威。
繋いだ手を離してゆっくりと歩き出す。
「冬威? どう言うこと?」
由起が冬威を見上げて言う。
「それはこっちのセリフだろ? 蘇我駅で別れたよね?」
由起の目を見る冬威。
「お母さんにいっちゃお‥冬威君に責められたって‥」
わざと小声で囁く由起。
「別に責めてるわけじゃないけどさ〜」
冬威は慌てて弁解する。
「さっきお母さんと約束したでしょ冬威君!」
冬威の態度を見て強気になる。
「冬威君って‥」
「お母さんの前で呼びつけにしたら、お母さん気分悪いでしょ?」
当然と言う顔で言う。
「あざと‥由起怖っ」
「怖くない! 普通そうするでしょ?」
取り留めのない話をしながら線路沿いを歩くふたり。
「妹さん双子ちゃんなの?」
由起がもう待ちきれないと言った風に聞く。
「そうそう。たくましい双子ちゃんだよ。だから今頃母さんが上手く由起が来てること伝えてるよ。そうしないと、すっごくヤキモチ妬いて後で俺が当たられるし由起にも何言い出すかわからないからさ」
「ヤキモチ?」
「そう‥母さん自分が気に入った女の子がいるとすぐに『今晩泊まっておいで』って言って本当に泊めちゃうんだけどさ、美夏と美優はそれが気に入らないんだよね、なんか。多分母親を取られちゃうと思うんだろう? まだまだお子ちゃまだからさ」
「そうかしら‥由起は違うと思うしお母さんはその辺りちゃんとわかってると思うけど?」
なぜか不機嫌な顔をする由起。
「ふ〜んなんか俺にはよくわからないよ、由起、あっち行こ」
そう言うと由起の背中を押す冬威。
駅前の細い道を歩くふたり。
「海が見えるちょうど良い感じの喫茶店でもあれば良いんだけどさ、ここからだと結構歩くからとりあえずガストでも行ってお茶の続きしよ。一段落したら母さん電話くれると思うからさ」
「うん」
由起が短く返事をする。
見知らぬ土地のせいか今日は妙に素直だ。
「冬〜威ちゃん〜」
ガストの看板が見える辺りまで進むと冬威の名を呼ぶ声がする。
「キープちゃん! 元気〜」
声の主はセブンイレブンの駐車場から大きく手を振っている。
外人? と思わず見返してしまう風貌はまるでハリウッドスターのアーノルドシュワルツェネッガーだ。
体格も風貌に比例して大きい。
そして傍に背のすらっとした女の子を連れている。
ふたりは互いに歩み寄る。
「キープちゃん久しぶり〜。可愛い子連れてるね〜。由起ちゃんこれキープちゃん。ほんとは保って言うんだけどいろいろあってKEEPでキープちゃん。」
「こんにちは、キープさん」
「冬威ちゃんが女の子連れて地元歩くなんて初めて見たよ! きれいな人だね、由起さんよろしく! 冬威ちゃん紹介するね、有以ちゃん」
キープは傍の女の子の肩を掴み冬威達の前に誘う。
「コマネチ、」
不意に股間辺りに手をやり、その手を上下させる有以。
「‥」
しばし無言になる面々。
沈黙を破ったのは冬威だった。
「コマネチ! 有以ちゃんこんにちは」
有以を真似る冬威。
しかし有以はどこ吹く風で挨拶もそこそこにキープに話しかける。
「こんにちは、ねぇねぇキープちゃんっ、有以、鴨川シーワールドでテンジクスズメダイが見たいっ」
そうキープを見上げその服の袖を引っ張ってねだる。
「テンジクスズメダイ? って」
「行けばわかるぅ〜」
大きなキープを見上げ小首を傾げる姿は得もいわれぬ可愛さであった。
「そ、そうだよね行けばわかるよね! じゃ行こう行こう鴨川シーワールド! さぁ車に乗って乗って! っと冬威ちゃんまたね、由起さんまた」
有以の手を引き車に向かうキープ。
「冬威‥コマネチって‥なに?」
「わかんないけどなんか面白い子だったね」
「キープさんって冬威の友達? でっかくて強そうだね」
「キープちゃんはキックボクシングの使い手だよ。俺はキープちゃんから格闘技教えてもらってる。キープちゃん忙しいから時々だけどね」
「そうなんだ、すっごく可愛い女の子連れてたね」
由起がチラリと冬威を見ながら言う。
「バカだな由起の方がきれいだよ」
こともなげにそう言い放つ冬威。
「ほんとかなぁ〜冬威は調子良いからな〜。でもチラッとでも可愛いって思ったでしょ?」
さも優しげな顔をして懐柔する由起。
「由起の方がきれいだよ」
対して冬威は極めて真面目な顔で返す。
「そっか」
飾りのない言葉で言い切る冬威の態度に安心したのか柔らかな顔をする由起。
「由起が一番きれいだよ〜」
念を押すように冬威が繰り返す。
「そっか〜」
由起は満面の笑みを浮かべて冬威の腕に絡みついた。