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追跡者 由起!

冬威の乗る電車に乗り込む由起。

冬威を追跡する由起だが…

南へ南へと走る電車。

由起は4人掛けのボックス席に座り隣の車両の冬威を見ている。


『おっといけない上着替えなきゃ…。冬威って鈍感だと思ってると妙に勘が鋭い時があるからね』

講義を受ける際には常に最前列に陣取る冬威なのだが、遠くから視線を送る由起の気配にいち早く感ずいたりするのである。

反面由起のちょっとした心の移ろいなどには全く気が付かない時もあり、由起としては『本当に同一人物なの?』っと疑いたくなることもしばしばであった。


由起はバッグから上着を出し着替える。

『まさか由起が同じ電車に乗っているとは夢にも思うまい…冬威』

そんなことを考えながら独りほくそ笑む由起。

乗車してからというもの冬威はずっと読書に夢中だ。


由起がこっそり冬威と同じ電車に乗る計画を立てたのは千秋とのちょっとした会話からだった。


数日前…。

学祖像が鎮座する広場に置かれたベンチに座る由起と千秋。


「千秋ちゃん? 冬威って昔っからあんな変な奴だったの?」

由起が千秋に尋ねろ。

「冬威君はそんなに変な人じゃないですよ? むしろ優しい人って言うのがだいたいの人の評価だと思います…」


「優しい人…か。それは間違いないよね。 千秋ちゃん? 冬威って妹いるの?」

「由起ちゃんごめんね…あんまりそう言うこととか昔のことを学校の人に言うなって冬威君に言われてるの…」

千秋は冬威からはそんなことを言われてはいなかったがなぜかけん制する。


「そうなんだ~冬威~あいつめ~」

いきり立つ由起。

「由起ちゃん…冬威君に千秋がそんなこと言ったって言わないでね…怒られちゃうから」

心配気に言う千秋。


「大丈夫だよ、由起は千秋ちゃんが困る様なことあいつに言ったりしないからさ」

「ありがとう由起ちゃん…」


「千秋ちゃん…冬威のお母さんってどんな人? 前にお弁当箱を由起が間違えて持ってきちゃった時に由起のお弁当箱にお菓子を入れて返してくれたんだよね…それでそのお礼がしたくって」


「冬威君のお母さんはとっても明るくて気さくで千秋たちにもすごく優しくしてくれます」

「そうなんだ、優しいお母さんなんだね。 冬威のお母さん何を贈ったら喜ぶのかな?」

「う~ん良くわからないけど…お菓子とかパンとかスイーツとか作るのが好きです…お料理もすごく手早くて美味しいし」

「そっか…お料理上手なんだね、だから冬威も料理については結構関心があるのかな…お母さんスイーツ好きなんだ」

由起が空を見上げながら想いをはべらせる。


「冬威君のママ、千秋好きです…とっても楽しい人」

「そうなんだ、どんな感じ?」

「千秋たちのこともとっても可愛がってくれます『今晩泊まっておいで』って言うのが口癖って言うか決まり文句で美味しい夕食をご馳走してくれたり、手作りスイーツを一緒に作ったり食べさせたりするのが好きみたいです。千秋や他の友達も何度かお泊りしてます」


「え? 冬威の家に女の子泊まってるの?」

由起が穏やかでない顔をする。

「っていっても冬威君はほとんど一緒に居ませんよ?」

「そうなんだ…冬威のお母さん女の子を家に泊めて一緒に過ごすのが好きなのかな?」

「う~ん…そう言うところあるかもしれません…千秋も初めてお家に行った日に『今晩泊まっておいで』って言われましたから」

「初めて来たのに?」

「千秋の母親と冬威君のお母さんが仲が良いってこともありますけど、そうじゃない子なんかもお泊りしてます」

「それって冬威が女の子を家に連れて行ってるの?」

由起がヤキモキする気持ちを悟られないように千秋に聞く。


「ちがいますよ~冬威君は女の子を家に連れて行くようなタイプじゃありません…なんだろ? 冬威君のお母さんすごく社交的だから」

「そうなんだ…。ふ~ん…」

由起はそう言いながら何かを企むような顔をした。


「そう言えば千秋ちゃんは独り暮らししてるんだよね?」

「1,2年時は授業が多いから遅くなるのも不安だからって寮に入る事になりました。でも週末には実家に帰ってますし父が千葉方面に通勤しているので心配してちょくちょく様子を見に来ます」


「そうなんだぁ~千秋ちゃん可愛いからお父さんも心配だよね? 冬威はなんで通いなんだろ?」

「冬威君は…たぶん地元が好きって言うか…」

「そうなんだ…」

語尾を濁した千秋に何かを感じる由起。

「ありがとう千秋ちゃん。ごめんね色々聞いちゃって」

「ううん…由起ちゃんごめんね、私もすっきりしない言い方しちゃって…」

「千秋ちゃんが悪いんじゃないから気にしないでね」

由起がすまなそうな顔をして千秋に言う。


『…冬威め千秋ちゃんに口止めするとは許せん…なんて、ほんとは人から色々聞いてヤキモキするより自分の目でしっかり冬威を知りたかったんだよね』

電車の中でそんなことを考える由起。


電車が停止し乗降客がのんびりと動き始める。

隣りの車両の冬威は二人掛けの席に一人で座っていたのだが乗り込んできた乗客が隣に腰掛ける。

『何? あの女の子? 他にも席が空いてるのに何で冬威の隣に座るわけ?』

自分から望んでコソコソと隣の車両に乗り込んでいるくせにたまたま冬威の隣に座った女の子にヤキモキする由起。


『冬威…今チラッと女の子のこと見たね…。むぅ~結構…可愛い子じゃない…。席を移れ冬威! ってだめだめ移ったら冬威を見失っちゃう。何となく千秋ちゃんに冬威が住んでるとことか聞けなかったんだよね…。千秋ちゃん良い子だから困らせたくないって言うか…』

しかし由起の心配を他所に黙々と本を読む冬威。


『ほんとに本読むの好きなんだね…。なんかちょっと安心…』

そんな冬威を見ながら思わずニヤニヤする由起。

しかしあまりに単調な外の景色と全く動きのない冬威、そして電車の心地良い揺れが由起をいつしか眠りに誘った…。


電車は走る。

ふたりを乗せて。

由起の思惑を包み込みながら…







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