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由起 007 ボンドガール!

由起が冬威と共にJR内房線まで一緒に歩く。


いつもの体育館脇のベンチで弁当を食べる冬威と由起。

昼下がりのキャンパスはザワザワと騒がしい空気が流れていた。


「ごちそうさま~美味しかったよ由起! いつもありがとうってかごめんね」

「いいのいいの気にしない~こうやって一緒にご飯食べるの楽しみだからね~」


「って冬威? 今日は午後から講義ないでしょ? それで…明日は土曜日でお休み…」

「だよね~すごい解放感っ。って俺はガッコも講義も嫌いじゃないから休みじゃなくても良いんだけどね~」

冬威が伸びをしながらそう言う。


「それでね…今日は駅まで冬威と一緒に行こうかなって?」

由起がこれでもかというほど良い笑顔を見せる。

飛び切りの美人というわけではないが整った顔は美しく魅力的だ。


「え~別に駅まで一緒に来たって面白いことないよ?」

「でもいつも冬威は由起を送り迎えしてくれるでしょ? それで由起が冬威を駅まで送るって言うと『女の子が夜道を独りで歩いちゃダメっ』っとかパパみたいなこと言って止めるじゃない? だから今日なら駅まで行っても帰りは明るいからさ?」

言葉数多く冬威に捲し立てる。


「う~ん…そっか、明るい内なら心配しなくてもいいか…。わかったじゃ一緒に行こうか!」

「やった~」

由起は冬威に悟られないようにしてやったりという顔をする。


由起と冬威は荷物をまとめると足早に校門へと向かった。

蘇我駅まではスクールバスも出ていたが冬威は徒歩で駅まで行くことを常としていた。

校門の大きな木のところまで来ると大勢の学友たちと顔を合わせるが、各々サークルやらバイトに忙しく互いに手を振るくらいであっさりキャンパスを後にする。


「冬威? バスに乗らないの?」

「乗らないよ? 乗ったら行きだったら由起のマンション通り越しちゃうし帰りは由起と一緒に帰れないでしょ」

「そっか…ごめんね冬威…」

「え? 全然気にしっこないよ? 俺はどっちにしても歩くから」

「なんで? 蘇我駅まで20分くらいあるでしょ? 大変じゃない?」

「全然っ歩くと車とは違った風景が見えるよ? 近所のおばちゃんとかとも顔見知りになるしなんか自分の街になるって感じで楽しいし、バスの時間気にしなくっていいからね~。基本時間に縛られたりするの嫌いだし。電車で限界…。人のことを時間で縛るのも好きじゃないしね」


「人のことも?」

「そっ、自分もなるべく時間に縛られたくないし、人のことも時間とかで縛りたくないの」

「ふ~んそうなんだ…。変なの」

「そっか変か~」

そう言うと微かに笑う冬威。


「それはそうと由起? 今日はなんでそんな大きなバッグ? 重そうだから家に置いて行けば? ちょっと道逸らせば由起の家じゃん?」

「いいのいいの気にしないで。全然重くないからさ…」

と言いながらも肩のところがきつそうな由起。


「俺が持ってあげるよ」

そう言うと冬威は由起からバッグをヒョイと取り上げる。


「って結構重いじゃん? 何入れてるの…」

「見ないでエッチ! 自分で持てるから大丈夫だよ~」

冬威からバッグを取り返そうとするが冬威はその手をよける。


「わかったわかった、中なんか見ないから。でも帰り大丈夫?」

「大丈夫だって~。帰りも冬威が持ってくれればいいじゃん?」

「そっか~それなら大丈夫だね~ってそれじゃあ俺帰れないじゃん…」

「あ、そっか…ごめんごめん~。でも帰りったって駅からもそんなに離れてないから由起は大丈夫だよ、心配しないで」

「それならいいけどさ~」


そんなことを話しながら歩いていると蘇我駅まであともう少しというところまであっという間に着いた。

すると冬威が不意に小道に入る。


「ちょっと寄り道するね~」

そう言うと陸橋下の小さな店舗に入る。


「なに? ここ何屋さん?」

「古本屋さんだよ、妙子さんこんにちは~今日も来ちゃった~」

冬威は店に入るとレジに居る年配の女性に声をかける。


「いらっしゃい冬威君! 今日も来てくれたんだね~。本当に毎日本読んでるよね、関心関心。おや今日はまた随分きれいな女の子と一緒だね」

店の主は由起を見咎めて冬威に問いかける。


「でしょ~きれいな子でしょ? 由起って言うのよろしくね~」

「きれいなんてそんな…うれしい、よろしくお願いします」


「冬威君いつもありがとうね」

「こっちこそありがとうだよ妙子さん、ここができたおかげで小遣い助かる…。前はさ駅前の本屋で買ってたんだけど、ここだとあっちで買う分で5~6冊買えるからね」


「冬威ってどんな本読むの?」

由起が古本屋の本を手にしながら言う。


「由起ちゃん、冬威君は推理小説とか山岳小説とかいわゆる名作も読むし哲学書? みたいなのとか最近ではホラーものなんかもよく読むね~」

「へへったくさん買っても安いから何でも買って読んじゃうよ。だいたい往復の電車で1冊読むから本当に妙子さんには大感謝~」


「本を読むと人生が深くなるからね。最近の子はあんまり本読まないけど…冬威君は良い習慣が身についてるね」

「そうそう! いろんな人の人生を見ることも出来るしね! 本ってさ」


「往復の電車で1冊読んじゃうの? すごくない?」

「って片道1時間20分、往復で2時間40分もあるんだよ、1冊くらい読めちゃうさ」

冬威が当然と言った顔で言う。


「由起はあんまり本って読まないからなぁ~。ファッション誌とかは買って読むけど」

「どんな媒体だって良いんだって、他の人の考えや感性が受取れればさ! 俺なんか漫画も大好きだよ! ねっ妙子さん」

「そうだね、漫画も良く買ってくれるね」

「漫画なんて言って馬鹿に出来ないからね! 最近の漫画はいろんな情報が入ってるからさ! どんな媒介でもそれに向き合う姿勢で色んなものが手に入るよ」


「そう言うもんなんだね」

「そうだよ由起」

冬威は店内をうろうろしながら何冊かの本を選び購入する。

「毎度あり、冬威君また来てよね、きれいな彼女も一緒に」


「うん、妙子さんまた来るよ! ってほぼ毎日来てるけどね~惚れてまうやろ妙子さんっ」

そう言いながらおどけて笑う冬威。

「あはは、ほんとに面白い子ね、あんたって子は。こんなおばあさんにそんなこと言ってるときれいな彼女に怒られるよ~」


「そうそう~いつも怒られてるの~助けて妙子さん~」

例の如くお姉みたいに冬威が言う。

「冬威~由起は怒ったりしないでしょ~。ねっ! 妙子さん!」

そんなふたりを見てまた妙子が笑う。


「じゃね~妙子さん、また来るね~」

「お邪魔しました~また来ます、妙子さん」

手を振りながら店を後にするふたり。


「きれいな彼女だって言われちゃった…」

「ほら、由起はきれいなんだって、いつも言ってるでしょ?」

「うん…なんかうれしい。冬威も『きれいな彼女』って言われて否定しないし…」


「否定なんかするわけないじゃん~由起はきれいな彼女だよ~」

「なんか今日はいい日になったな…。冬威?」

「なに?」

「やっぱり行動するって大事なんだね!」

「ん? うん、そうだね!」


ほどなくふたりは蘇我駅に着く。

改札の前で立ち止まり冬威が由起に声をかける。

「じゃあね由起、ありがとね。気を付けて帰ってね? もうすぐに電車来るから行くね」

「うん…冬威わかった」

由起は言葉短く返事をする。


「由起またね~」

冬威は手を振り改札を抜け5番ホームに向かう。

「またね…冬威~」

由起は冬威が見えなくなるまで手を振る。

と、冬威をが見えなくなった瞬間由起が電光石火の勢いでSUICAをタッチしそのまま改札を通り抜ける。

由起はバッグからキャップを取り出すと目深にかぶった。


微妙な間合いを保ち冬威を見失わないようにホームに潜む由起。

ほどなく内房線下り電車が5番ホームに到着する。


由起は冬威を見失わないように注意しながら隣の車両に乗り込む。

平日の午後の電車は空席も多く由起は冬威の動向が見渡せる位置に座ることが出来た。


座席に座るなり本を取り出す冬威。

その姿を遠巻きに愛おしそうに見つめる由起。


電車はふたりを乗せて南へと進む。

由起は頬づえをつきながら冬威の横顔を飽きずに見つめていた。









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