卯月と冬威 巡り合う奇跡
卯月と冬威、なぜか引き合うふたりは巡り合う奇跡に気が付く
そして来世へと思いをはべらすふたり
校門の入ってすぐの講堂の前で冬威が誰かを待ち構えるようにたたずんでいる。
そして目当ての人物を見つけると大きな声で名前を呼びながら階段の方へ足早に進んで行った。
「卯月先~輩っ」
「冬威…?」
卯月と呼ばれる両手に杖をついた女が振り返る。
「そっ冬威~。またそばにいて良い?」
「冬威…この時間狙って来てる? 私は大丈夫だよ?」
「わかってるけど…そばにいて良い?」
「別にいいけど…」
そう言うと講堂へ向かう階段をぎこちなく昇る卯月。
その卯月のそばにぴたりと寄り添う冬威。
卯月は数段ある階段を懸命に昇りフロアにたどり着く。
「冬威さ、前に私が階段で転びそうになったのに居合わせてからずっとこの時間になると来るよね?」
「ん? 別にそんなの関係ないよ? この時間ここに来れば卯月先輩に会えるからだよ?」
「冬威って変な子…別にサークルが一緒なわけでもなくって学年だって私の方が2つも上だよ? 普通絡まないでしょ?」
「だからでしょ?」
「だからって?」
卯月が怪訝な顔をして聞き返す。
「そんな顔しないでよ卯月先輩。サークルが一緒なわけでもなくて学年も違って…卯月先輩との接点ってここだけじゃん?」
「だから?」
「だからここでなら卯月先輩に会えるから」
「だからなんで?」
「卯月先輩ってきれいじゃん? 普通何の絡みも無くって卯月先輩みたいな美人で雰囲気ある女の人と絡めないじゃん?」
「って冬威? 本気でそんなこと言ってるの? こう見えても私彼氏いますけど?」
「知ってるよ~超イケメンで背の高い彼氏! この間一緒に歩いてるとこ見たもんね」
「だったらなんで?」
「卯月先輩に付き合ってもらおうなんてそんな恐れ多いこと考えてないよ~。ただせっかくこのガッコに入学してこんなきれいな先輩がいるの見つけちゃったからさ~」
「ぷっ本当変な子ね、冬威って」
「そっかな~普通男だったらそう思うけどな~」
「思ってても普通は行動に移さないでしょ?」
そう言いながらまた卯月が笑う。
「卯月先輩の笑った顔超可愛い~これ見るだけでもこのガッコ来て良かったって感じ」
「冬威? そんな事ばっかり言って! 本当はこの階段を昇るの手こずってる私のこと心配して毎週この時間になるとここに来るんでしょ? でも大丈夫よ、私は自分でなんとかするし出来るだけ人の手は借りずに自分でやっていきたいの。この杖は今までも、そしてこれからもたぶんずっと私の相棒だからこの相棒と一緒にね!」
「わかってるよ卯月先輩。先輩は強い。きっとどんなことでも自分で乗り越える強さがあると思う。だから余計にきれいに見えるんだ。でもさ、万が一の時に誰かがそばにいるとのいないのでは大きな差が出るよ。それに…俺は先輩が怪我したり痛い思いするの見たくないからさ…。だからお節介に目をつぶってそばに居させて。俺は先輩を助けるとかそんなおごがましい気持ちじゃなくて…毎週この時間だけでも先輩のそばに居たい…。何でこんな気持ちになるのか正直良くわからないんだけど…」
冬威が思いの丈を卯月に伝える。
「ありがとう冬威…優しい子ね。『何でこんな気持ちになるのか正直良くわからない』って思ってるんだ。不思議だね…私も同じように思ってた…。毎週この時間に冬威が私のところに来てくれるようになってから、なんだろ? ずっと前から冬威のことを知っていたみたいな感覚? そんな気がしてしょうがなかったの…。もしかして冬威も私と同じ感覚なんじゃない?」
「卯月先輩…実は俺もそう感じてた…。初めて先輩のこと見かけた時この階段でバランス崩してて俺は先輩に駆け寄って体を支えたよね? 俺先輩の身体に触れた時なんだか懐かしい感覚がしたっていうか…上手く言えないけど…」
ふたりは顔を見合わせる。
「冬威? 袖振り合うも多生の縁って知ってる?」
「知ってるよ~。多生は仏教用語で何度も生まれ変わるってことや前世を表しているんだよね? それで袖が触れ合うようなちょっとした出会いも、前世からの縁によって起きるっていう諺だよね」
「正解。ふふっ前世からの縁なんて考えるととてもロマンチックね」
「そうだね! なんかイマジネーションが膨らむね! 俺は先輩の…弟って感じかな?」
「あら? わからないわよ。冬威が私の旦那さんかも?」
そう艶っぽい目で言う卯月。
「う~ん…それだったらきっと、もうちょっと嫉妬に苦しんだりしてそうだからやっぱ弟か下手したらお父さんかな?」
「あははっ冬威って本当に面白い子! 冬威とはきっとまた来世でも逢う気がするの、その時は私が冬威のお嫁さんね?」
卯月が小首を傾げて冬威に言う。
「おしっ! そう言うことならどうしたって来世も男に生まれなきゃな!」
冬威が気合を入れてそう言う。
「あははっそうよね、冬威が男の子で私が女の子でないとね。それに年もだいたい近くなきゃいけないし、生まれる場所もアメリカとアフリカじゃあ巡り合うの無理そうだし…」
「そう考えると今こうして巡り合っているのも奇跡的だね? 卯月先輩?」
「そうだね…奇跡だよね」
何となく無言になるふたり。
「冬威? なんだか校門のところで揉めてたって噂聞いたけど?」
「心配ないよ先輩」
「冬威のことだからきっと何か事情はあると思うけど、あまり無茶しないでね、この間体育館の脇で女の子とお弁当食べてるの見かけたけど、その子の関係?」
「う~ん…まっそんな感じかな」
「冬威が誰かとご飯食べてるのって初めて見たからなんとなくそんな気がしたんだよね」
「卯月先輩、でもその子がなんか悪い事したわけじゃないから誤解しないであげて。俺はちょっと手を貸しただけだからさ」
「わかってるよ冬威。でもあんまり無茶しないでね? 約束よ」
「大丈夫だよ卯月先輩、じゃあ、またね」
「冬威、またね…」
卯月は遠ざかる冬威にいつまでも手を振った。
冬威も何度も振り返りながらその度に卯月に手を振った。
校庭の大きな木がふたりをそっと見守っていた。
人の時を超えて生きるその大きな木は、ふたりをずっと見守っていた。