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想像力と創造力って

クリエイティビティについて冬威と由起が語り合う。

冬威のラインの着信にヤキモキする由起。

ローソファに並んで座る冬威と由起。

テレビも付けることなくふたりで話し込んでいる。

並んで座っているため真っ直ぐに座れば視線はおのずと平行線になる。


その位置関係がふたりの緊張感を和らげているのか時折視線を合わせながら徐々にその距離感が縮まって来ていることを当人同士も感じていた。

ふたりは想像力と創造力について語らっていた。


「クリエイティビティについては俺はこう考えている。つまり…何かを解決するための方法や何かをより良くするためのシステムを創り出すっていう観点から想像力で導き出した相互の関係性の中でのギャップを埋めるために行動する、みたいな」

「なんかちょっと難しいけど…」

由起が眉間にしわを寄せる。


「だね? これはちょっとううまく説明するの難しいな…。う~ん…簡単に言うと…そうだな恋愛で例えるならば、お互いの違う部分や好きになれない部分、二人が一緒に居るために障壁となる物をどう取り除いていくかって考えて行動することかな」

「ふ~ん…行動することなんだね?」


「そう、行動すること! イマジネーションで考え、そしてクリエティティビティの部分で行動する。その行動って言うのはつまり言葉を使ってお互いのギャップを埋めるために、つまり相互理解を深めるためにコミュニケーションを取ることに始まって広義には表現することだって思うんだ」

「表現することって…」

由起が冬威の次の言葉を探りながら呟く。


「表現するここと、自分が考えていることを言葉や非言語的な身振り手振り表情を遣って相手に伝える事、これがクリエイティビティの第一歩だと思う。想っていても伝えなければね。どんなに優しい心を持っていてもそれを表現しなければ伝わらないよね。伝える事、行動する事で何かが変わっていくと思うよ。逆に何も表現せず行動をしなければ何も変わらない。まず考えることが大事、そしてそれを行動に移すことがもっと大事だって思うんだ。思考や意志も確かに物事を変える力はあると思うけどやはり行動こそが事態を変える一番の力だと思う。これってさっきレポート書いてるときにもちょっと話したっけね、ゴメンくどかったね」

「ううん、全然大丈夫! 行動…が大切なんだってもっと良くわかった」


「なんか小難しい話ばっかりしてごめんね。つまんなかったでしょ?」

「そんなことないよ! むしろ面白かった」


「そう? 由起って変わってるね?」

「って冬威に言われたくないよ~。会話がかみ合わないくらいヘンテコな方向に話が進むことがあるか思えばこんな話もするし~」


「ははっでも俺は楽しかったよ。こういう話しする事ってあんまりないからね」

「由起も面白かった! ってか…冬威のことをまた知ることが出来たし…」


「ところで冬威? さっきから携帯? ライン着信しまくってない? 音消してるからぶーぶー震えっぱなしだけど?」

「ああ、別に気にしなくてもたぶんスタンプ欲しくて登録しまくったコンテンツの配信がこの時間くらいになるといっぱい入るからね。由起もそうじゃない?」

「…由起もスタンプもらうのに登録するけど? さっぱり鳴りませんが?」

冬威の顔を見上げ小首を傾げ意味あり気な目つきでプレッシャーをかける。


「あっそう? 俺はニュースのコンテンツとか登録けっこうしてるからか夕方この時間は頻繁だね」

「はい」

由起がそう言いながら冬威の方に手を出す。


「はいって?」

「だ・か・ら・携帯みればすぐわかるでしょ? ほんとかどうか?」


「いやいやいや、それは無いでしょ~」

「どうして? 別に冬威が言うことが本当ならばやましいところないんだから由起に見せてもいいでしょ? ん?」

傾げた小首の顎を冬威の方に突き上げ視線でプレッシャーをかける由起。


「由起は何が見たくてどうしたいの?」

「なにが見たいって?」

「例えばさ俺のラインを見て、例えばだよ? 女の子からのメッセージがいっぱいあったらどうするの? またその逆で全くそんなラインが無かったら?」

「なにもなければそれでいいじゃん…。あったら…」

由起が言葉に詰まる。


「由起? どうして黙ってるの?」

「あったら…」

「あったらどうするの?」

「…」

無言になる由起。


「行動は正しい判断のもとに行わないと取り返しのつかないことになることもあるから、だから良く考えて行動に移さないとね?」

冬威が穏やかに由起に言う。


「って…なんかうまく誤魔化されている気がするんだけど…」

「誤魔化してなんかいないよ? じゃあほら、どうぞ由起?」

そう言うと冬威は自分の携帯を由起に差し向ける。


由起は一瞬手を伸ばすがすぐに手を引っ込める。

「ずるいよ冬威は…由起は悲しんでるからね!」

「どうして?」 

「だってそんな風に言われて何もなかったらそれはそれでいいけど気まずいし、何かあったら…どうするかなんて由起はどうしようもないし…」


「って判断したんだね? 由起は」

「そうだよ…だから冬威はずるい」


「ずるくないって、だいたい由起は俺の携帯になんか不都合なラインが入ってるって想像して不機嫌になってるんでしょ? でもさ俺がもしそんな男だったら由起とふたりっきりでこの部屋に居て案外健全じゃん? これって由起にとっての判断材料にはならない?」


「どういうこと?」

「だって例えばだよ? 俺がそんなモテる男でいろんな女の子からラインがじゃんじゃん入るような奴だったら…今頃由起は…」

そう言いながら両手を顔の位置まで持ってきて手のひらを微妙に曲げ伸ばしする冬威。


「いやっ冬威変態っぽい!」

「でしょ? ってなるじゃん? 普通? かどうかよくわかんないけど」


「まっまあね、そうかもね。由起も冬威がそう言う人じゃないと思ったからお部屋に上げてるしね」

「じゃあ良いじゃん? 由起の判断は正しかったってことだし。ってでも由起はもっと警戒しなくちゃダメだよ? だいたい男なんて絶対信用しちゃダメだから! こんな風に簡単に部屋に上げて手料理なんかふるまったら大概のバカな男は『こいつ俺に気があるな』って勘違いするからね? もっと警戒して?」

冬威が父親のような顔をして由起に言う。


「あれ? 冬威もっしかして今由起にさりげなく『他の男を部屋に上げるなよ?』って言ってない? ん? 冬威? ジェラシー? もしかして?」

「そうそうジェラシー、由起は警戒心足らないからおかしな男を上げないようにね? 女の子は絶対に油断しちゃダメだよ?」

そう念を押す冬威。


「もう冬威ってば素直に由起のこと他の男にとられたくないから部屋に上げるなって言えばいいのに~。冬威? 由起は冬威以外の男の子をお部屋に上げたりしないから、し・ん・ぱ・い・しなくていいぞっ」

「はいはいはい、そうですね由起を他の男にとられたくないからやたらな男を上げないでちゃんと鍵かけてね」

すっかり上機嫌になる由起。

が次の瞬間…


「でも考えてみたら…この場面で冬威が由起になんにもしてこないのもどうかと思うけど…」

人差し指を顎のところに持ってきて深長な面持ちで由起が小さく囁く。

冬威は敢えて聞こえないふりを決め込む。


「ん、んん~。冬威? 由起はどう?」

「は? 由起はどう? ってなんだそりゃ?」

「だから~由起はどうなの?」

「どうなのって…可愛いっていうか…どっちかって言うときれいな女の子だよね由起って」

由起の目を見ながら事も無げにそう言う冬威。


「…ほんとにそう思ってるの?」

「思ってるけど何で?」

「ううん…なんでもない。 なんか今はそれで満足って感じ…へんなの」

 

「由起もうそろそろ行くよ。明日の朝も迎えに来るからね?」

「う…ん。じゃあ駅まで送って行くよ」

「ダメだって! 夜道を独りで歩くようなことは絶対ダメだよ?」

「もうっ由起はちっちゃな女の子じゃないんだから! 冬威ってパパみたいなこと言うよね?」


「そうだよ? 由起も父親になればわかる…父がどんなに娘のことを愛し常に心配しているか…」

「ってなにそれ? それじゃあまるで冬威が父親みたいじゃん! ってか冬威? 由起は母親にはなれても父親にはなれませんが? 女の子なんだからさぁ」

「ははっそうだった」

ふたりは声を上げて笑う。


冬威が玄関に向かい由起がその後を追う。

冬威が扉を開けてまさに部屋を出ようとしたその時由起が冬威の手をしっかりと握り引き止める。

「ん? ちょっと待って冬威? さっきは笑って何となく済ませちゃったけど…冬威まさか本当に誰かのパパってわけじゃないよね? ほんとに娘がいるとかって落ちじゃないよね? 『由起も父親になればわかる…』とかなんとか言っちゃってたけど?  ん?」

大真面目な顔で由起が言う。


「あのね由起? そんなわけないだろ? いくらなんでもこんなに若いパパいる?」

「そんなのわかんないじゃん! 18歳で男の子も結婚できるんだし! 学生結婚する人だっているし、そうだとすれば冬威が一浪なのも合理的に説明ができるし…」

「ってオイオイ? 今すごーく失礼なこと言ってない由起?」

そう言いながら笑う冬威。

「そんなことないよね? 冬威? ちゃんと否定しないとこの手離さないから!」

およそ在りそうもない仮説を否定することを求める由起。

「心配ないよ由起」

そう笑って否定する冬威。


「由起は冬威のことが好きなんだから不安にさせないで! 恋する女の子はナーバスなんだから…ちゃんと不安は掻き消して…」

小さなやっと聞き取れるような声で由起が言う。


「由起? 心配ないよ? 俺も由起のハンバーグ大好きだからっ!」

「…」

冬威の言葉を聞き無言で怒りを表現する由起。

そして掴んでいた冬威の腕を引っ張り玄関の扉を閉じると、そのままこれでもかという位つねり上げる。


「いててててててっ、冗談!由起冗談だから!」

「由起のハ・ン・バ・ー・グ・が好きってどういう事? もうバカにして~」


「ごめんごめん言葉が足りなかった大好きなハンバーグを作ってくれる由起が好きっ」

「ってなんでハンバーグ絡めるか! だいたいハンバーグが大好きで由起が好きってどゆこと!」


「ごめん由起痛いからもう離して?」

「なにがいけなかったの?」

「ふざけてハンバーグが好きって言ったことですっ」

幼稚園児の様に言う冬威。

「わかればよろしい、じゃあ罰として由起の目を見て好きって言うこと!」

「ってそれって罰ってことで良い訳? ってか由起のこと好きだって昨日も言ってない?」

「冬威の好きと由起の好きは違うの!」

「違わないだろ別に?」

「良いから早く! そうしないと帰さないよ!」

「ったく…好きだよ由起っ」

「…」

無言になる由起。

「由起もだーいすきだよ冬威っ」

そう言いながら冬威の胸に顔を埋める由起。

「女の子はね、言葉にして形にしてくれないと不安なんだよ? 冬威。だから毎日言って…そしたらそのうち冬威だってね…」

語尾を濁らす由起。

「ん? 何?最後の方聞こえなかった…」

「いいの冬威には聞こえなくて!」

「なんだよ…まぁいいや由起元気なら安心して帰れる。じゃあまたね」

「うん…冬威また明日ね…」

「しっかり鍵かけて、ベランダもね」

「わかってる、ありがとう心配してくれて」

部屋を出た冬威。

由起は冬威の言うとおりきちんと戸締りを確認し部屋に戻る。

独りになった部屋はやけに広く感じた。


冬威は由起の部屋を出ると携帯を取り出しラインを確認する。

「っとなんだこりゃ、ちょっと遅くなるとこれだ…まったく世話が焼けるな…」

そう言うとラインを返す。

画面にはふたつの名前がザーッと並んび連続で送信されて来ている。


『これから帰るよ。なんも心配するようなことはないから大丈夫』 

冬威はそれぞれのラインに返信をする。


『怒怒怒』

ほぼ同時にふたつのアドレスから同様のメッセージが返信される。

それを見た冬威はため息をついて携帯をポケットにしまい歩き出す。


右足をやや引きずりながら歩く冬威。

朝のひと悶着での蹴りで足を痛めていたのである。


「殴ればさ殴られた方も殴った方も痛いんだよ…」

駅までの道のりを歩きながら冬威が呟く。


『相互コミュニケーションはさ、どんな形であれ最終的にはイーブンにならないとバランス崩れてロクなことにならないからね。出来るだけ同じようなスタンスで向き合うことが両者にとって破滅的な事態を回避するよ』

そんなことを考えながら駅への道を急いだ。

線路沿いの道の左手には内房線、外房線、京葉線の3つの路線の電車が忙しく帰宅に向かう人々を運んでいた。





 




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