そうなんだ…冬威、由起のこと考えながらレポート書いてくれたんだ…
由起と冬威がお互いをわかり合おうと寄り添う。
「さっ、お片付け終わった終わった~」
「…ありがと、冬威」
憮然とした顔ではあるが冬威に礼を言う由起。
「お礼を言うのはこっちだよ、ほんと由起のご飯は美味しいよ」
「うん…冬威? また食べてくれる?」
さっきまであらぶっていた事に後ろめたさを感じながらたどたどしく言う。
「ってこっちからお願いしたいくらいだよ? もちろんまたお呼ばれします~」
「良かった。今度は何を作ろうかなぁ…。冬威何が好き? 洋食? 和食? 中華? イタリアン? それとも~」
「って由起って何でもできるんだね! すごいよ、でも俺は由起の手作りなら何でもうれしいし…なんなら由起がレンジで温めてくれただけの物でもうれしいよ?」
「なにそれ? レンジで温めた物なんて由起が作ったものじゃないよ」
「それでもいいんだよ。俺のためにしてくれったってことが一番うれしいんだから」
「うん…わかった、由起、冬威のためにまた美味しい物作るからね?」
さっきまでの心の乱れはすっかりと治まり穏やかな顔をする由起。
「さてと…レポートも無事終わったしお腹もいっぱいになったしそろそろ帰ろっかな」
「え~もう少し居ようよ! まだ時間早いよ?」
由起が冬威の腕を取り引止める。
「ここから蘇我駅まで歩いて10分くらいでしょ? そしたら次の電車に乗るよ。下りは接続悪くってさ」
「それにしても、もうちょっと時間あるよ?」
冬威を見上げ小さな女の子の様にねだる由起。
「ちょっと…今日はいつもより歩くの遅くなりそうだからさ」
「どうして?」
「ん? なんでもない由起は気にしなくていいよ」
そう言う冬威は自分の右足をややかばっていた。
「…冬威? もう少し由起のそばにいてよ…」
泣き出しそうな顔をする由起。
「由起? もう何の心配もいらないんだから大丈夫だよ?」
「わかってるけど、もう少し一緒に居てくれないと一生泣くから…夕べだって由起は一生泣いてた…」
冬威の腕をぎゅっと握って離さない由起。
「う~んじゃあその次の電車にするよ…」
「うん…うれし…い。あっちに座ろ」
そう言うとベッドの頭の方に置いてあるローソファにふたり並んで座った。
「なんか…この二日間でいろんなことがあったね…」
「そうだね~お弁当箱から始まって、由起の部屋に来て、そんでなんだかんだドタバタあって。なんだか俺は結局レポート二本書いているし、でも由起の手料理が美味しくて…」
「へへっレポートは後で自分の言葉にちゃんと直します~。でもさっきちょっと読んでみたんだけど…あのレポートって…まるで由起の頭の中を覗いたみたいな感じだった。冬威に書いてもらっておいてなんだけど…由起が考えてることにすごく近いってうか…」
「そっか! 良かった。由起はどんなこと考えるのかなって一生懸命想像しながら書いたからね」
「そうなんだ…冬威、由起のこと考えながらレポート書いてくれたんだ…」
「そうだよ? だからなんか楽しかったよ。きっと由起はこんな子だな、とかどんなことを嫌ってどんなことを大事にする子なのかな? なんてね」
「え~なんかちょっと怖い…冬威が由起のことどんな子だって思ってるのかって考えると…」
「どうして?」
「だって…」
由起が不安気な顔をして冬威から顔を背ける。
「レポート読んだんでしょ?」
「うん…」
「なんか嫌なこと書いてあった?」
「ううん…」
「じゃあそれが答えだよ?」
「うん…なんだか冬威の温かさが伝わってくる感じがした」
背けていた顔を冬威に向けて言う。
「それは俺の温かさじゃなくて由起の温かさだよ? だって俺は由起のことを考えながら書いたんだからさ…って結局由起はズルしてんだから後でちゃんと自分の表現で書き換えなよ?」
そう言いながら軽く微笑む冬威。
「わかってる~。次は自分でちゃんとやるよ? 相手が何を求めているのか何を読み取りたいのか…あとはインパクト! だよね!」
「そうそう! それから当然自分の想いもね!」
「うん」
「そうだな…レポートに限らずだいたいのことって、想像する力つまり自分はこうだけど相手はどうなのかなって考えたり思いやったりする事とか、どうしたらどんな風にしたらうまく行くかなって、うまく行く方法を創り出す創造する力が大切だって思うんだ。う~ん同音異語だからややこしいね。つまりイマジネーションとクリエイティビティだね」
「想像力と創造力…考えだし創り出す力ってこと?」
「そうそう! およそ全ての人間活動はこの辺りが意識されていると大概うまく行く気がするよ」
「恋愛も?」
由起が小さな女の子の様な顔をして言う。
「恋愛にも当てはまると思うよ? 恋愛においては特に相手の気持って知りたいし知ろうとするよね?」
「好きになった人のことは全部知りたいもん」
「そうだよね、全部知りたくなるよね。でもだいたいは正しく知ろうとしていないんだよ?」
「正しく知ろうとしていないって…どういう事?」
「つまりさ相手のことを知ろうと一生懸命向き合って、相手が何を考えているのかを知るために頑張ったりするんだけどさ、だいたいは自分と相手をきちんと切り離して考えられないから結局、『私がこう考えるからあの人もそうだろう』って自分の思考を基準に考えちゃうんだよね。これだと正しく相手を認識することが出来ない。自分の考え方や価値観、感覚が主体になってるからね。つまり主観的な捉え方だよね。だからわかったつもりになって結局すれ違っちゃったりとか?」
「じゃあどうしたらいいの?」
由起が不安気に聞く。
「そうだな…『私はこう感じるけどあの人はどんなふうに感じただろう』って一旦は自分の考え方や感覚や価値観から相手を切り離して相手にきちんと向き合うって言う感じかな。つまり客観的に捉えるってことだよね。って言葉で言うのは簡単だけどこれがなかなかうまく行かないからみんな苦労するんだけどね。特に恋愛は客観的なだけでは恋が始まりもしなかったりするからね」
そう言いながら冬威が笑う。
「おもしろい冬威の恋愛観って!もっと聞かせて!今のはイマジネーションについてでしょ? クリエイティビティの方は? 何かを創り出すって…恋愛においてはどういう事?」
由起が興味津々といった風に答えを急かす。
「って由起? 別に俺は恋愛に特化して話してるわけじゃないし、恋愛なんて俺はほんと良くわからないんだからさ? 由起も言ってたでしょ? 冬威は鈍感っ的な」
冬威が自嘲的に笑うと由起もつられて笑う。
「う~ん…確かにさっきまではそう思ってたけど…今は冬威の考え方がもっと知りたい! これって悪くないでしょ? 相手をきちんと知ろうとする姿勢?」
「そうだね由起。由起が退屈じゃないんならもう少し話そうか」
「うん! もっと冬威の考え方を由起に教えて」
ローソファに並ぶ二人は寄り添って座っていた。
並んで座る二人は心も寄り添わせようと互いの想いをそうっと…大事に大事に胸の前に出した。