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由起、舞姫に怒る!

由起の部屋でレポート作りと由起のお手製ハンバーグ!

「冬威〜レポート出来た〜?」

「だいたい出来たかな。あとで一回自分で読み返して由起の言葉に変えな」

キッチンに立つ由起に冬威が促す。


「冬威が書いたままで良くない?」

「だめだよ、文章ってそれぞれ表現とかロジックに癖があるからさ。自分の言葉に変えなきゃ。高校の時の夏休みの課題で舞姫の感想文を友達の分と合わせて二本書いたことがるんだけど多分現国の先生にはゴーストがバレてたと思う。結局二本共入賞したんだけど、むしろ友達に書いた方が良い賞を取っちゃったりしてさ‥その友達、表彰式出るの嫌がって学校休んじゃうし、ちょっと失敗したな」


「どうして現国の先生にバレたってわかったの?」


「当時その現国の先生に毎日問題集添削してもらってたから俺の文章とかロジックの癖を見抜かれてたんだろね。表彰式の時こっち見てニヤニヤしてたよ。なんで自分の分として提出した方が評価低いんだって顔してた」


「ふ~ん、ほんとに文章書くの得意なんだ〜冬威って。良かったレポートやってもらって。冬威? 舞姫って確か悲しい恋の物語だったよね?」


「森鴎外の悲恋の物語だね。ドイツに留学したまぁ高級公務員的な主人公の豊太郎が、現地で知り合ったエリスって言う貧しい少女と恋に落ちるんだけど当時、明治時代は国際結婚なんてとんでもないって時代だからさ、主人公を妬む奴の密告で豊太郎は公務員の職を追われちゃうんだ。それでもふたりは一緒に暮らしてエリスが豊太郎の子供まで身籠もるんだけど、そのタイミングで豊太郎はエリートコースに戻るチャンスを掴んで結局、エリスを捨てて日本に帰っちゃったんだよね。豊太郎に裏切られたエリスはショックで発狂して、生まれてくる子供のために用意したオムツを見て泣くばかりの女になってしまった…って言う悲しいお話し‥ってか豊太郎許せないって話かな」


「酷い話しっ! 豊太郎って奴サイテー」

由起が憎しみを露わにして言う。


「俺もそう思う。だから自分の分の感想文では豊太郎を徹底的に叩いた。エリスが発狂したことについてもエリスが豊太郎を愛していたから奴の非道を責めきれず、だから自らを壊したんだって思ったんだ…」

「由起もそう思う! エリス可哀想‥」


「ところがこの話はさらに許し難いことにどうも実話だったみたいなんだよね。エリート医師の鴎外が実体験に基づいて書いたんじゃないかって言われてる。もっとも本人は否定してるけどね。実際、鴎外が帰国後、エリーゼって言う女性が鴎外を追って日本に来てるんだ。だけど結局鴎外の母親に反対されてドイツに帰って誰にも、それこそ子供にすら鴎外の事を告げず静かに一生を終えているんだ‥」


「許せない! 女をなんだと思ってるの! 冬威! そんなことしたら由起は絶対に許さないんだから!」

由起がムキになって怒り出す。


「なんだよ! 俺に八つ当たりするなって! 俺も男として許せないから感想文で叩いたんだろ? そんな事するかよ!」


「そっか‥そうだよね。冬威のイメージとは違うよね‥ごめん」


「でもさ…なんかエリス見てるとさ、愛ってなんかよくわかんないけど…ちょっと痛いよな…。発狂しちゃったエリスの気持考えると心が痛くなるよ…」

「うん…なんかわかる。愛するが故に相手を責められず自分を壊したってことでしょ? 心が痛いね…」

冬威と由起が神妙な顔をする。


「ところで冬威? その毎日問題集見てもらってた先生は女の先生なのかしら? ん?」

由起が小首を傾げて可愛らしく聞くがその目は笑っていない。


「あ、あれ? どうだったっけな‥ヤバイヤバイ由起? そんなに昔のことじゃないのに‥思い出せないよ‥え〜どうだったけ〜確か、ごついラグビー部の顧問みたいな奴だった気が…あれ? それとも…」

「‥」

死んだ魚の様な目で冬威を眺め無言の由起。


「あ、もういいや冬威さん? 今度千秋ちゃんに会ったら聞くから」

冬威はハッとした顔をして慌しく携帯を取り出し千秋との連絡を試みるが、まだ千秋から電話が来ていないことから当然登録がされておらずラインは繋がっていない。


「冬威? ライン禁止〜証拠隠滅は罪を重くするから」

「は? 何言ってんの? 俺千秋ちゃんとライン繋がってないし?」


「嘘ばっかり、後輩でしょ?」

「ほんとだって、ホラ」

そう言ってラインの画面を見せる。

が、由起が余分なものを見る前にサッと手元に戻す。


「そんなの瞬間的に見せられたってわかんないよ。ってか由起がその気になったら押収するからね冬威? それより千秋ちゃんともちゃんとライン繋げようね。由起、千秋ちゃんみたいな子好きだし」

「千秋ちゃんちょっと大人しいから由起が友達になってくれたら安心だよ」


「さすが先輩、後輩想いね。じゃあとりあえずレポートも終わったことだし…ご飯にしようか」

そう言うと由起がキッチンから料理を運ぶ。


「やった~腹ペコ~」

いそいそとレポートを片付けだす冬威。


「ひき肉いっぱい残っちゃってたからまずはハンバーグでしょ、でサラダとコンソメスープね!」

「おぉ~さっきからすっごい良い匂いしてたけどやっぱハンバーグだったんだ~手作りハンバーグ美味そう!」


「でしょ? 特大ハンバーグだからいっぱい食べてね冬威」

「いただきま~す」


「う、美味い!」

「あれ? 例の『う、うう、美味い』っはやらなかったんだ?」

「あんまり多用してもな~インパクトが…」

「もうバレバレだもんね~」

由起がそう言いふたりで笑い出す。


由起の部屋に楽し気な二人の影が揺れる。



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