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千秋はみんなの知らない冬威君を知ってるんだからね?

由起と冬威と千秋の微妙な距離感。


「では今日の講義はここまで。来週までの課題を出します」

教授の声にざわつく学生たち。

「来週の講義が始まる前に提出してね。『人間の尊厳とは』というタイトルで400字詰め原稿用紙で…ん~1枚以上で良いわ。では、ごきげんよう」


「え~またレポート~。昨日の講義のもまだやってないのに…」

「由起ちゃん…レポートは苦手ですか?」

千秋が冬威越しに言う。


「あんまり…得意ではないかな…千秋ちゃんは?」

「私もあんまり好きじゃないです…でも…倫理の授業は好きです…先生素敵です」

「ねぇ~先生かっこいいよね!」

冬威が千秋の話しに乗っかる。


「かっこいいって…冬威、女の先生だよ?」

「背が高くって美形じゃな~い?」

「何でそういうこと言う時の冬威ってちょっとお姉っぽいの? ってか…ああいうひとがこ・の・み・な・ん・で・す・か? ん? 冬威さ・ん?」 

由起が千秋に見えないように冬威の二の腕をつねる。

冬威も何となくそんな体たらくを後輩である千秋に悟られたくないらしく我慢して声を上げない。


由起は目の笑っていない笑顔で、冬威は引きつった笑顔で互いに見つめ合う。

「…って別に…そう言うわけではな・い・ん・で・す・け・ど・ね…由起さ・ん?」

「そ・う・な・の? て・っ・き・り・年上の女性がお好みなのかと? ん?」

微妙なやり取りをするふたりに千秋が割って入る。


「由起ちゃん冬威君は、年…うぐっ」

冬威が由起の手を振り払い千秋の口をふさぐ。

「千秋ちゃん~お口に何かついてるよ? 大丈夫~?」

「…う、う、う~」

千秋が呻気ながら冬威の手を振り払おうとする。


「ちょっと! 冬威何してるの? 千秋ちゃん大丈夫?」

由起が冬威を千秋から引き離す。

その瞬間冬威はウインクをしながら小さく口の前に人差し指を立て千秋に合図する。


「千秋ちゃん大丈夫? 千秋ちゃん今、何か言おうとしてなかった? 冬威が年っとか?」

「えっと…年じゃなくて冬威君は…とっても文章が上手いんですって言おうとしたんですけど…」

千秋は冬威のサインを読み取り上手く話を変える。


「えっ? そうなの冬威?」

「んっ・んん~。んんん~?」

咳払いをしながら微妙な顔で千秋を見る冬威。

どうやら千秋はギリギリの線で冬威にプレッシャーをかけているようで、冬威に向かって小さく舌を出している。


「あ、いや~現代文はちょっと得意かな~って感じ?」

「そうなんだ…とんでもなくズレた読解力だから国語苦手なんだと思ってた」


「それは…あれだよ、俺の読解力が一周回ってこっちに来るから…常人には理解が難しいかな? って」

「なに? 一周まわってって? どう言うこと? 」


「だから~常人にはわからないだろうな~」

「それって? 国語力低いってことじゃないの?」


「あっ冬威君、由起ちゃん私、ちょっと約束があるから行きますね」

そう言うと千秋はふたりに手を振りながら逃げるように出口に向かう。


「またね~千秋ちゃん~」

冬威と由起が同時にそう言いながら千秋に手を振る。


千秋は振り返りながら冬威に意味深な視線を送る。

それはまるで、

『千秋はみんなの知らない冬威君を知ってるんだからね?』 

とでも言っているようで、それに気づいた冬威も、

『千秋ちゃん…あんまり余計なこと言わないように…』

と、弱気な視線を送り返す。


冬威と由起も昼食を食べるために二人並んで歩き出す。

「冬威、文章得意ならレポート書く時に教えてよ」

「うん良いよ~。レポートってさ、相手が何を求めていて何を読みたいかってとこと…あとはインパクトかな?」


「インパクト?」

「そっインパクト! 答えがあることだったらそうはいかないけど、さっきのレポートの課題みたいなやつだったらやっぱりインパクトも欠かせないよね?」


「そう言うものなの?」

「そう言うものだと?」


「そっか、じゃあ講義終わったら約束通りちゃんと由起をお家に送って…一緒にレポート書いて…夕ご飯一緒に食べるんだよね? 冬威?」


「なんだか急に元気になっちゃったけど、そうだよね~夕べ泣きべそかきそうな由起と約束しちゃったもんね~」

冬威はさっきつねられたことに対して仕返しする様に意地悪く言う。


「もうっ! 嫌なこと言うよね冬威は! あっ! それで思い出した! さっきの話の続き…。由起はね三姉妹なんだけど小っちゃな頃から優しくて強くて由起のことだけを守ってくれるお兄ちゃんが欲しいなって…ずっと思ってたの…。だから冬威が由起よりお兄ちゃんだってわかってすっごくうれしかったの…」


人影のないキャンパスの小路を歩き体育館脇のベンチに向かうふたり。

由起はさっきつねった二の腕に愛おしそうに絡みつき冬威のことを見上げる。


「そうなんだね。一浪だってことでよろこばれるとは思ってもいなかったけど? 普通嫌がられるでしょ?」

「そんなの気にしないけど由起は?」


「そっか、じゃあ由起のお兄ちゃんになりますかね」

「お兄ちゃんじゃないの! それだと由起は妹で、恋愛対象じゃなくなっちゃうでしょ? 冬威は冬威のままでいいの。由起はね、冬威が由起より年上だってことがすごく安心なの…」

やっと自分の想いが伝えられた由起はご満悦だ。

しかし冬威は…


「って恋愛に年齢って関係ないだろ?」

いつもは飄々(ひょうひょう)としている冬威が珍しく反論する。


「ん? 冬威? なんでそこにこだわる? …冬威はやっぱり年上の女が好きなの?」

「ってなんで年上って決めつけるか?」


「ん? 冬威? 今の問題発言だよ? 年下だと犯罪だよ? 捕まっちゃうんだからね?」

「じゃあ由起だって年下だから俺、捕まっちゃうじゃん?」


「由起はもう18歳超えていますか・ら・!ご心配なく」

「そういうもん?」


「ん? 冬威? 一体由起に何が言いたいのかな? あんまりわかんないこと言ってるとお弁当お預けだからね…」

「…あっ! なんかもう年齢がどうとかどうでも良いよね~。それぞれ心の平和と平静が保たれて気持ちが満たされれば~。ね? って…由起のお弁当…食べたい」

「そ~う、由起のお弁当食べたいの冬威ちゃん? よろしい…。ではこのベンチにお座りして食べましょうね~」


「ワンっ!」

「ワンってやだ冬威ってば! ワンちゃんじゃないんだから~」

ふたりの笑い声が春風に乗って空に舞い上がって行った。












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