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プロローグ 冬威ストリートファイト!

あたしは、あの時のお兄ちゃんにもう一度逢いたい。

優しくて強くてなんでも知ってるお兄ちゃんに。


いつも誰かのために一生懸命なお兄ちゃん。

今、お兄ちゃんはあたしの手の届かないところにいる。


本当は、いつだってすぐそばにいるのにね。

あたしはいつも願っている。


あの時のお兄ちゃんが不意にまたあたしの前に現れることを。

あの時と同じ様にヒョッコリと。

あたしは信じている。


お兄ちゃんは必ずまた帰ってくると。

きっとあたしのそばに帰ってくる。


それがあたしの願い。

それがあたしの願い事‥



「それでお前わざわざ埼玉から千葉まで来ちゃたんだ? そんなに惚れてんならもっと大事にすりゃ良かったじゃん?」

そう言いながらも白いポロシャツを脱ぎ上半身裸になる。


「冬威、やめてこの人柔道でインターハイまで行ってる‥」

傍らの女の忠告を遮る様に冬威と呼ばれる男が言う。


「だろうな、体つき見ればわかるよ。だから服脱いだんだろ? 何すると思ったのお前? 元彼の前で俺がお前になんかすると思った? 前に柔道家とか言う奴に絡まれた時に随分めんどくさかったからよ。ベタベタひっついて来てさ」

薄笑いを浮かべながら不敵に言う男。


「なんだお前? 俺とやろうってのか? チビのくせに?」

「お前はデカイな。カッコいいよ、羨ましい」

手招きしながら挑発する。


「やめて冬威! 殺されちゃう」

そう女が叫んだ瞬間、大柄な男が冬威に飛びかかる。


「なめんなチビが!」

大柄な男が冬威の体をつかもうと手を伸ばしたその時、冬威の右手の人差し指と中指が男の目を貫く。


「うぐぅあ‥汚ねえぞ」

「そっか? じゃあこれは?」

そう言うと両目を手で覆いもがく男の股間を蹴り上げる。


「グッ‥」

両目を覆いながら無防備になった股間を蹴り上げられた男が体勢を崩し前屈みに倒れ込む。


「おっとチャンス! ちなみに俺は180cm級の奴の喉元に蹴り入るけど‥」

そう言うが早いか体をクルッと翻し回転した右足の指の付け根を男のこめかみに打ち込む。


ばたりと音を立てて男が地面に崩れ落ちる。

「ハイ、おまけ!」

軽やかに言うと地面にうつ伏せに横たわる男の太ももに踵を落とす。

男の身体がビクッと動くが呻き声も聞こえない。


「冬威! 手貸すか?」

長身で細身の男が遠くから声をかける。


「よっ大野! 大丈夫だよ? お前段持ちだろ? 凶器準備集合罪でしょっ引かれたらヤバイじゃん?」

「お前だってここまでやったらヤバイだろうが?」


「大丈夫大丈夫、計算尽く。こいつどう見ても180cm超じゃん? 俺は170cmもないちびっ子だせ? 判例では正当防衛が成立してんだよ」


「そっか。だがそいつもせっかくチャンス貰ったのにな」

「チャンスって?」

冬威はピンとこない顔で尋ねる。


「お前が服脱いだ段階で、その体見てどの程度やれるか判断できただろ?」

男の目の先には鍛えあげられ無駄な肉一つない鋼の肉体が立っていた。


「服脱いだのは、柔道やってそうな体つきだったからだよ? 前にめんどくさかったからな服掴まれて」

「フッ、余裕だな。まっお互いマズくなったら出ばろうぜ」


「オッケー大野ありがとね!」

そう言うと、大柄な男の襟元を掴みことも無げにズルズルと物陰に引きずる。


「冬威、ごめんね。私の為に‥。でも、何してるの?」

冬威の姿を追いながら女が言う。


「由起ちゃん大丈夫、心配な〜い。まっトドメをさす? 的な? 由起ちゃんの携帯貸して」

「え? あっ、はい」


「ありがとう」

そう言うと由起の携帯のカメラ機能を起動させ、仰向けに寝かせた男のズボンを下ろし下半身を露出させる。


「冬威‥何してるの?」

由起の問いかけには返答をせずに写真を撮る冬威。

「あっ! 俺の携帯でも撮っておこうっと」

ひとしきり写真を撮り終わると由起に向かって指示を出す。


「由起ちゃん、こいつの携帯に今の画像ラインででも送ってやんな」

そう言うと由起に携帯を返す。


「もう、この人の連絡先みんな消しちゃったから‥」

「そっかそうだよな、良い思い出ばっかじゃなかっみたいだからね。ごめんね」

冬威がすまなそうに言う。


「って‥冬威のそばにいるって決めたから全部消したんだよ‥」

おずおずと下を向く由起。


「そっか、由起ちゃんは優しいね、そんな子に酷いことするコイツはやっぱ、やっつけて正解だな」

立ち上がった冬威は横たわる男のみぞおちあたりを踵で押し込む様に蹴る。


「グッ」

そう呻きながら男が意識をもどす。

「おっ、目、覚めた?」


「な、なんでズボン脱いでんだ!」

目覚めた男は自分の姿に慌て、必死にズボンを履く。」


「これこれ…」

そう言うと冬威は自分の携帯の画面を男に見せる。


そこには下半身を露出しだらしなく横たわる男の画像があった。

「なっなんだそりゃ!」


「この画像お前に送ってやれって由起ちゃんに言ったんだけどさ。由起ちゃん優しいからお前の連絡先もう消しちゃってないんだって。おまえさ、大人しくしてないとこの画像どうすっかわかんだろ?」

「…」

無言になる男。


「それ、わかったってこと? じゃあもう由起につきまとうなヨ? 接近禁止令な? もしお前が約束破ったら…わかってるよな?」

「…」

男は無言でうなずく。


「よっしや約束ね? ちなみにお前、俺が不意打ちでお前に勝ったとか思ってるだろ? そうだよ? だけどな、ストリートファイトにルールなんてないんだよ? ルールの中ならお前の方が俺よっか強いだろうけどさ、残念ながら俺、柔道とかやんねーから。わかった? それからさ、お互いもう少年法の範疇超えちゃってるから? さらに言うならまたつきまとえば迷わず警察行ってストーカー防止法適用要請すっからね?」 


「まぁ仲間連れて仕返し…なんて考えないこった。 あっちにいる怖ーい極真流の使い手が、暴れたくてうずうずしてっからさ…。わ・か・つ・た?」


ズボンを履き終えた男は無言でうなずき振り向きもせず走り出す。


「もう来んなよ~」

冬威が男に向かって声をかける。


「ちっちゃいからってなめんなよ~はははっ」

走り去る男に手を振る冬威。


「冬威…ごめんね…」

「由起ちゃん乱暴なことしてごめんね。びっくりしたよね? でも俺普段はこんなんじゃないでしょ? だから嫌わないでね?」

そう言いながらお姉みたいに身をよじる冬威。


脱ぎ捨てた白いポロシャツを由起が拾い冬威に手渡す。

「ありがと由起ちゃん」

ポロシャツを着る男は小柄ながらも引き締まった肢体であった。

半面その容貌は遠目には女性であるかと見間違う様な長髪であった。


「だいたいチビで髪の毛伸ばしてる俺の事なんかみんななめてかかるんだよね。でも由起ちゃん、これでもうあいつ、つきまとはない思うよ? でもなんかあったらすぐ言って」

「うん…」

ぽつりと呟き冬威の腕をちょっとつかむ由起。


「由起って言ってた…」

「ごめんごめん、呼びつけしちゃったね~」


「ううん、いいの…これからは由起って呼んで」

「え~俺ってそう言うの無理かも」


「由起って呼んで!」

由起が思いつめたような顔をする。


「わかったよ由起ちゃん」

「だ・か・ら~由起って呼んでって言ってるのに~」

「ははっ慣れないといきなり呼べないよ、ゆ・きっ」

冬威がお茶らけていうが由起は満足気だ。


何もなかったように緑のキャンバスを並んで歩く二人。

「由起、ごめんね乱暴な所見せちゃって。でも俺ちゃんとわかってるから心配しないでね? 暴力なんて社会では認められない。認められるのは選ばれたファイター達だけ。俺は自分の大切なものをどうしても守らなきゃいけない時だけ。だよ?」

「大切なもの…。うれしい!冬威!」

そう言うと由起は冬威の腕にしがみついた。


「冬威、私のうちに行こ! レポート一緒にやろ?」

「オッケー!由起、お利功ちゃんだから、お・し・え・て・ね!」

「もう! なんか変なの。どっちが本当の冬威なの?」

そう言いながら微笑む由起。


「どっちも本当の俺だよ! ね! 由起!」

そう言うと自分の腕に巻き付いていた由起の手を取りつなぎまるで幼稚園児のように振りかざして歩き出す冬威。


由起はそんな冬威の横顔を見て、また微笑むのだった。

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