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ANASTASIA  作者: 桜依 夏樹
Afterglow Restart&Reunion.
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2-2 リコリスの言葉 2



 その衝撃がやってきたのは一瞬、あまりに早過ぎてなにが起きたのか彼には最初分からなかった。

 右腕に軽い痛みがしてすぐ、薙ぎ倒されるように身体が倒れてしまったようだ。

 ただ一番近い人里かまたは馬車などの移動するものを目指して第一歩を踏み出した、たったそれだけの行為で気絶したりましてやバランスを崩して倒れたりなんてことは絶対にない。

 いくら魔法が弱体化し銀弓が使えず、病み上がりだったとしてもリオン・ファレルという男はそんな柔な肉体構造はしていないと自他ともに認める事実がある。

 だというのに、気付いたら柔らかな緑の草原に横たわり動けなくなっていた。


「……っ?」


 ただのドジならいつものクールを気取ろうと声を出そうとしたが、上手く出てこない。叫ぼうとしても浅い音がするだけで果たして声と認識すべきか難しいものだ。

 ならばまずは立ち上がろうとすれば両手足には力が入らない。左腕はくっついているだけなのでまぁ仕方ないと言える範疇だが、他は彼が生まれもって備えていた自分の四肢なので、()()()()()()()()()がなければ動かないはずがない。

 ────そう、外的要因。たとえば麻痺毒とか。


「見つけたぞ!」

「まさか本当にこの座標とは、あのお方には驚かされる」


 突如後方から響く下卑た男たちの声は少なくとも知り合いのものじゃない。

 声は二人分だったが、他に歩く足音は全部で10人ほどだろうか。もしや鹿と間違えて麻痺の魔法を撃ち込んだのではあるまいか、当たっていたら互いにとんだ間抜けだが──。


「オズ様、ターゲットの無力化は成功です」

「ご苦労」


 どうやらハンターたちのミスではなく、意図した行いのようだ。


「君と話すのはこれきりだが一応"初めまして"と言っておこう。私はオズ、ヴェルメリオ帝国軍でこの小隊を束ねている者だ」


 "ヴェルメリオ帝国"。

 アーテルやアルブスがあるこのヴァルプキス西地方において、アルブス王国から北に位置するアーテルに次ぐ大国であり別名は"赤の国"。

 黒と白の王国はとても良い友好関係にあるが、ヴェルメリオはその逆だ。アーテル王国とは前王時代に激しい戦争があり、アルブス王国とは温暖な気候を巡る領土問題を抱えている。

 リオンの故郷たるカエルレウム連合公国にも約30年前に攻め入ろうとしたらしいが、船でしか行き来できず慣れない海上から攻めるのは難しかったためあえなく撤退したとか。

 数百年もの長い年月をヴェルメリオ一族が治め、今や圧政を敷き西地方で最も過激な国と呼ばれている要注意対象。

 そんな連中が、まさか自分を狙ってこんな辺境で待っていたなんてリオンには想像もできなかったし、なにより目的が解らなかった。


「……っ、もく、てきは……!!」

「おやおや、銀弓の魔術師相手では生半可な麻痺毒はすぐに解毒できてしまうか。毒をもうひとつ寄越したまえ」

「こちらに」

「素早いな。さすが、私の部下だ」

「い、ッ」


 迅速な対応の部下を労う片手間に魔法ではなく注射針をリオンの右腕に突き刺したオズと名乗る男は、見事に罠にかかった獲物を上から眺めて話を進める。

 勝手に喋らせるのは癪なので口を挟みたいが、わざわざ二本目が注入されたということは「黙っていろ」と言いたいらしい。


「我々はファレルの一族の力を借りたい。そのためには君に話してもらう必要がある、一緒に来てもらおう」


 力を借りたい? それは穏やかな解決法ではなく、こんな強行的な手段でなくてはならないのか。

 ようやく分かった。

 ファレル領に度々起きた異変、ジュノンの誘拐未遂やエルシオンの病の原因がヴェルメリオ帝国にあるということ。そして、ジュノンがダメなら()()()()()()()()()()と発想を変えた連中が次は今のようにリオンを狙っていることも。


 ────ふざけるな。


 湧いてきたのはごもっともな怒り。

 強制的に帝国へ拉致しようとするなんて、どうせロクなことは考えちゃいないし力を借りるなんて嘘で奪い取る気なのだろう。

 自分の家に愛着はない。だが、これから起きようとしているのが世界を正しい方向には導かないのは分かっている。

 なんとしても抵抗しなくては──と身体を動かそうと懸命に脳が語りかけるが、指先すら自由が利かず魔法を出そうにも魔力も上手く回らない。

 ただの麻痺毒なら普段は銀腕・アガートラームが即座に処理していた。しかし今はその治癒能力も失われ、ただの無力な人間に等しいリオンには単独で解毒する術がない。


「さて諸君、回収を」

「かしこまりました」

「丁重に扱いたまえよ。大事な客人だ」

「はい、オズ様」


 この危機を脱するための手段で瞬間的な思考がいっぱいいっぱいになるが、どれもまずは解毒と更には銀腕や銀弓なくしては不可能なものばかり。

 すべてを神造(デミウルギア)遺装(アーティファクト)に委ねていたことがここまで自らを無力に変えるとは────歯がゆさに頭が痛くなる。

 どうする。どうする。どうする。

 腕や胴を持ち上げようとしてくる赤い兵士たちの無機質な目線にかつて感じたことのない悔しさを抱き、振りほどこうととにかく声だけは出してみるもやはりうまく出ない。

 速効性だが効果時間が短いと思われる謎の麻痺毒薬の二本目はかなり効いているようだ。


「回収後はベレー将軍と合流だ。客人のもてなしは彼が一番上手いからな」

「では北西の方向でよろしいですか」

「あぁ、頼むぞ」


 なんの抵抗もできないまま勝手に話が進んでいく。

 ベレー将軍という名前には聞き覚えがある。全部隊統括とは名ばかりでヴェルメリオ国王の指示を聞き、全てを代理で部下に伝える操り人形──だとか。

 勝てそうな気はするが数で勝ち目がない。

 まずは逃げる、逃げないと決めたがこの場面は逃げるのが最適解だ。


「……、……!」


 ────誰か。


 こんな無様に誰かを頼るのは本当なら悔しいが、今はそうも言っていられない。

 声になっていない声で現れるはずもない救世主を探し求む。例えるなら、あの日すべてから救ってくれた小さな剣士のような……自由の翼を宿した彼のような。


 その願いは風に運ばれ、"彼"の耳に届いた。


 空を駆る疾風。光に照る銀装。

 暗雲立ち込めようとしていた青い空によく似合う白銀は、声なき声に呼ばれるようにその輝きを世界に描く。

 剣が踊るのはなんのため?

 そう、────大切な人のため。


「なんだ!? ギャッ!!」

「ぐわぁっ!」


 次々潰れるような声を上げて倒れる兵士たちに無理やり抱えられていたリオンも支えがなくなったせいで地面に叩きつけられた。

 突然の出来事に驚く間もなくまた上がる悲鳴の原因を知ろうと目線だけを動かし、わずかに視界に入ったのは消えゆく長細い何かと鋭いものに刺された兵士たちの血だまり。

 なにがどうなっているかは分からないが魔力残滓を感じるということは魔法による攻撃を受けたようだ。


「どうした!!」

「敵襲です! ()()()……()()()()()()()()()()()!」


 大量の剣。降ってきた。

 なんだかデジャヴを感じさせるワードに何者かの正体が割れていく。


「な、なんだうわぁ!!」

「来たぞ!」


 ある兵士の声を合図に、オズを含む残された四人の男たちが真正面を見る。

 彼らに迫っていたのは白銀に輝き青い宝珠が映える剣を持ち、白いローブで全身を隠した謎の人物。

 光にも到達しそうな速さでヴェルメリオ帝国兵たちの中心へと現れたその人は、まるでリオンを庇うように男たちの前に立って剣を向けた。


「……クラ、レント……?」


 やっと出てきた声が発したのはその剣の名前。

 前に立つ人が握ったのは紛れもない、見間違いもなく、かの反逆者が振るいし美しき銀剣・クラレントだ。

 つまりこの白い男の正体は────。


「貴様ッ! ぐあっ!!」

「う、おぉッ!」


 舞い踊るような男の剣に次々倒れる兵の中で、唯一彼に到達した者がいた。

 ローブを貫き、肉の質感を堪能したのか。やった、と歓喜の表情を見せた兵士は次の瞬間、自らの頭上から現れた無双の剣に貫かれて絶命。どうやら布は囮だったらしい。

 残ったオズともう一人は、距離を取り隠すためのローブから抜け出てきたその正体を見た。


「お、お前は──レオン・ファレル!」


 艶やかな黒の髪。未来の輝きを知らぬ金色の瞳。そして白銀が彩る剣と魔装束(スペリオルメイル)

 確かな強さと女を虜にする美貌を兼ね備えた彼はリオンの兄、レオン・ファレル。かつてアクスヴェイン・フォーリスに協力し、アーテル王国を混乱に貶めた正真正銘の反逆者だ。


「辞世の句は俺の名前でいいのか、オズ殿」

「っ──そこから動くな、レオン・ファレル! これに塗られているのはある植物の強力な毒だ、動けば弟の命はないと思え!」


 声を荒らげたオズは卑怯にも動けなくなっているリオンの白いマフラーを緩め、首筋に毒々しい色合いの短剣を突きつける。植物ということはトリカブト辺りか、刺されるだけで危険だが毒はマズい。

 ベタベタと触れられて不愉快そうに顔を歪めたリオンに反してレオンはあまり問題にしていないのか、剣を下向きにして両手を上げた。


「……あぁわかった、俺は()()()()()()()()。リオンは好きな場所に連れていけ」

「フ、物分かりが良い男は嫌いではな────」


 ほぼ接触しかけていた短剣を即座に反応できない場所まで下ろした瞬間、レオンの銀剣は幻想の剣でオズを串刺しにした。

 あぁ、確かに彼は動いていない。

 クラレントに秘められた魔法とはそういうもの。彼は剣にどの魔法を使わせるか命令するだけでいい。

 ぼとっと虚しく落ちた短剣を拾おうとするが届くはずもなく、男は呆気なく死んだ。


「ひっ……オ、オズ様ぁ……!!」

「動くな」

「ひぃっ!」

「動けばお前は死ぬ。動かなければ見逃してやるが、代わりにリオンはもらっていく」


 兵士は震え怯え悩み、最終的には自らの使命と上官の仇を討つことを決めたようで、ぶるぶると両手を振るわせながら剣を抜き……。


「う、うわぁぁぁあがッ!!」


 あっさりと銀剣の一閃に首をへし折られた。


「何事だ!」

「オズ様が!」


 一息つこうとしたレオンだが、向こうから集団でやってくる影と声を見聞きしては休んでいられそうにもない。


「っあ、兄上……!?」


 まだ動けずに地面に倒れていたリオンを無言のまま回収し、脇に抱えてこの広い広い草原から逃走する。

 最後におまけとして20人ばかしいた追っ手に対して幻想剣を大量にサービスしつつ、自らの拠点に向かって足早に駆けていった。



 ヴェルメリオ帝国とアルブス王国を隔てる大きな山脈は、かつて帝国軍の侵攻を幾度となく妨害し今や両国どちらであってもそのあまりに高く聳える山をわざわざ登ってまで敵国に乗り込もうとする馬鹿はいない。

 逆に言えば、誰も近付いてこない絶好の隠れ場でもあるのだ。

 赤の国からすれば灯台もと暗しとはよく言ったものだろう。一年近く行方を眩ましていたレオンの隠れ家はこの山の麓にあるログハウスのような小さな小屋である。

 相も変わらず静けさと山特有の不気味な冷気に満ちているここは住めば都というやつだ。

 周囲に人影や追尾がないことを確認しつつ、室内に入ったレオンはとりあえず半強制で大人しくなっているお荷物を床よりはマシなベッドに叩き込み、まだ抜きっぱなしだった銀剣をレイピア状に変形して鞘に納めた。


「さてと、一年ぶりだなリオン」

「……俺は死んでも会いたくなかったがな」


 一年近く前になるある夏の日、約三年ぶりに再会した二人は互いが互いに激しい怒りと憎悪を抱き命の取り合いをした。

 結果は遺装(アーティファクト)の性能を加味しても余りある魔術師としての容赦のなさを身内に対しても遺憾なく発揮したリオンが当然のように勝利したものの、あれだけ恨んでいて殺したいと思っていた兄の命を奪う覚悟が最後の最後でできていなかった彼は、今回は見逃してやるから二度と現れるなと捨て台詞を吐いてまたもや逃げ出したのだ。

 現在、その二度と現れるなを思いきり破って現れたレオンは麻痺毒で動けないリオンを見下ろし笑っている。


 彼はこの日を半年、いいや約一年待っていた。


 忘れもしない夏の夜の戦いで強引に押し付けられた約束を蹴ったぐってでも弟の前に現れた理由に関しては語ればキリがない。とにかくレオンはリオンと再会する必要があったのだけは今分かる確かな事実。

 そうして、意を決したように深呼吸を繰り返したやたら緊張気味な兄はなにを考えたのか、弟の首に両手を据えてゆっくりと力を込め始めた。


「ぁっ……に、を……ッ」

「あんな雑魚どもにしてやられて無様だなリオン。邪竜に殺されかけて弱ったかなんだか知らないが、その程度の毒で動けなくなるほど無力になったとは思わなかった。今ならちょっと力を入れるだけで俺はお前を殺せるんだ、残念だなぁ……あの銀弓の魔術師がなんの能力もない俺でも殺せる! 悔しいか? あぁ聞くまでもない、お前は悔しがるだろうな!」


 ワケが分からないことを捲し立てるレオンの手に籠る力は徐々に強く、本当に酸欠になってしまうほど絞め上げられる。

 言っていることは一年前の夏の夜にリオンがそうだったようにツギハギだらけだが、内容はあながち嘘や妄想の類いではない。今のリオンはレオンが銀剣を振るうまでもなくこうして首を絞めるだけで死んでしまうし、回復する術はやはりないのだ。

 かすかに動かせるようになった手で兄の両手を離そうと試みるも握力は戻っていないらしく全く退く気配がない。

 本当に殺されてしまう──実の兄には色々思うことがあるが、死に直結する恐怖は感じたことがなかったがために今のレオンはリオンにとって恐ろしい存在であった。


「……次は必ず殺すと、お前はそう言ったはずなのに……なんてザマだよリオン」


 リオンには分かった気がする。

 兄に渦巻く感情は覚悟と反して弱った弟への失望。

 言葉を話せる程度には緩まった喉から酸素を取り込み、ほんの少しの間を置いて微かに憐れみを感じさせる表情で彼はこう言った。


「──俺は兄上には、負けない。お望みなら……いつだって殺してやる」


 未来視の金色が眼窩を突き刺す。

 今は控えめにしか輝かないが、これでもレオンを負かすには十分すぎる光が太陽の日差しのように彼を射る。

 リオンは弱くはなっている。しかし精神までは弱っていないし、むしろ逃げずに立ち向かい前を向いて歩ける分強くなったと言えるだろう。

 だから、強くなった心でこんなことを言った。


「兄上、力を貸してくれ」


 ────時が止まった気がした。

 あの、あの兄嫌いで有名などうか早死にするようにと七夕の夜に願うほどレオンのことが大嫌いなリオンがまさか口が裂けても言わなそうな言葉をこんなにあっさりと言うなんて……なんて。


「リオン……」

「なんだ」

「っ……────もちろん、良いに決まっている!!」


 ちなみにレオン・ファレルは大概変人(ブラコン)だ。

 愛し方とかその愛情の裏返しの方向性が世間一般と90度ほど異なっているだけで、大半から見た彼の評価は案外弟想いな良いお兄ちゃんだったりする。現在のリオンにはとても信じられないが。

 今の頼みも頼んだ側は超真面目だが、レオンの目線からは愛すべき弟フィルターがかかっていて「お願い兄上♥」くらいには補正されていた可能性は極めて高い。


「それで、どこに向かうつもりなんだ?」

「精霊の森に行くついでに里帰りだ」

「里帰り……ジュノンか?」

「そんなところだ」


 邪竜ヴォーテガーンとの交戦以降を知っているような素振りだったが、どうやらカエルレウムの異変に関しては詳しく知らなかったらしい。それでもジュノン関連だと当てているのはやはりちょっとアレだが。

 とにかくまずは精霊の森だ。ディアの元を訪ね、銀の腕を定着し復活しなければいつまでも弱体化状態のまま旅を続けなくてならなくなる。

 そして旅といえば先程の襲撃──ヴェルメリオ帝国の動向についてだ。


「兄上はなにか知らないのか」

「さぁな、最近活発に行動しているらしいってことだけ」

「ジュノンか俺か……戦力がほしいのか」

「それもわからん! 一番フリーな俺が眼中にないのはちょぉーっと寂しいけども」

「一番弱いからな」

直球(ストレート)ッ!!」


 とはいってもヴェルメリオ帝国軍に属する兵の数だけなら最大戦力と呼ばれるアーテル王国を遥かに上回っている。

 アーテルは確かに個人に化け物がちらほらいるようなところだけども、数という点では確実に勝てない。なのに今更戦力ほしさに拉致まがいの行動に出るかと聞かれたら多少違和感が残る。

 リオンとしてはファレルの力を借りたい、というオズの言葉がそのままヒントであると思っているが……今は謎が多すぎて考えても解決には至らないだろう。


「とりあえず近くの町に発着所があるから、そこから列車で森に一番近い南の町に行こう」

「何日かかる?」

「最速で四日ってところだ。帝国軍も都市部じゃ派手には動けない、一応停戦状態だからドンパチはしないって程度だけど──ってリオン? なんで必要以上に距離を開けて……」


 ようやくまともに足が動くリオンが最初に取ったのは距離だ。

 ただでさえ心の距離がかなり開いているのに、部屋の本当に隅っこも隅っこに寄っているその姿は最早兄への信用がないレベルと言える。


「そうだ、先に伝えるのを忘れていた」

「な、なにを……?」

「俺は──()()()()()()()()()()()()


 ……本当に信用がなかった。


「えぇぇ!? なぜっ!?」

「何故って……自らの行いを振り返れば分かることだろう」

「そ、そんな……せっかくリオンと……よよよ」


 確かに、言われてみれば動けなくなったところを拐ってきて家で首を絞めた──という字面で見るとレオンの不審者ぶりは余計に際立つ。

 リオンだって元から信用ならないこの兄にわざわざすべてを預けて「兄上と和解した」とは言うまい。協力関係ではあるが、彼は一切信用しないしできることならヴェルメリオ帝国軍と相討ちにならないかと考えている。


「ただ……」

「ただ?」

「……信頼はしている」


 当然だが、剣の実力のことを指す。


「り、リオン!!」

「黙れ近寄るな、っ……あぁもう触るな! どうして兄上は人の話が聞けないのか──っ!」


 ────こうして、兄弟の奇妙な協力関係と未だ謎多き赤の国を巡る物語が始まった。

 今はまだ一方的に嫌い一方的に構うという図式だが、これらがいずれ改善されて手を取り合う日は来るのだろうか?


 運命的で奇跡的な再会(リコリスの言葉)が描く未来は、まだ誰も知り得ない。



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