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ANASTASIA  作者: 桜依 夏樹
Dear Moonlight 流星編
68/133

1-55 夜空に翳り、影を穿つ



 一颯が所定の位置に着いた頃、すでに事は始まっていた。

 手招きしたオリオンが見せたのは小さなガラス片に映った反対側にある五階建てマンションの屋上にいる璃音の視点だ。

 この便利アイテム自体はただのガラス片だが、シキの目に宿る能力を銀腕・アガートラームの"神域(しんいき)加護(かご)"で擬似的に再現したもので、彼の目に見えるものがタイムラグもなく生中継されている。

 彼らが別々の場所に分かれた理由は二つあった。

 一つ目は璃音の提案だが、単独行動と思わせ相手を油断させること。もし彼が気付かれて反撃されてもこちらからかっ飛んでいけば不意を突くことができる。

 二つ目は最も重要かつ勝利条件に絶対含まれる──()()()()()

 一点に固まっていては狙い撃ってくださいと言っているようなものだ。

 高町のアドバイスを受けた一颯はこの戦いの直前に「明星が何者かに操られている可能性」をオリオンに提示した。

 アクスヴェインが変異体に関する情報と力を得ていたことからその考えは実際にあり得なくはないし、明星を監視している存在Xが常に近くに居る場合や彼本人が黒幕だった場合もある。

 なんにせよ三人まとめて吹き飛ばされてはなにも救えない。だから回復力で圧倒的な優位を誇る璃音が危険な攻撃係に回り、一颯をすぐに庇えるようオリオンは二人組での待機になった。

 そして、事態はまさにこの二つ目の理由が現実のものになる方向で急展開を迎えたのだ。


「今世の僕は明星東(みょうじょうあずま)という人間……その正体は、かつて幻想として生きた──赤き邪竜"ヴォーテガーン"さ」





 まばたきする余地もなかった。

 数秒先の未来を視られるからこそ振り返ることができたから回避できたとはいえ、璃音が背後で牙を剥いた怪物の存在に全く気付けなかったのと同じように、彼らもこれほどの近距離にも拘わらず普段なら機敏に反応できるはずの異形相手に全く気が付かなかったである。

 屋上から転落するのを最後にガラス片は元の状態に戻ってしまった。


「先輩は!?」

「ギリギリでかわしてたみたいだから多分大丈夫……」


 不自然にステップしたのが回避行動なのはさすがに分かる。彼視点で見る異形のサイズがそこまで巨大ではなかったことから当たっていてもさして重傷にはならなかったと思いたい。

 それよりも、二人にはこの距離にして聞こえていたものがある。

 彼女が信じたくなかった可能性の現実化。

 彼がついに見つけた黒幕の正体。

 ────明星東が自ら発した人間ではない人間という宣言だ。

 思わぬ出来事に驚きはしたが、オリオンには邪竜ヴォーテガーンの名に聞き覚えがあった。

 理由は大したことじゃない。剣の出どころが同じだからと、療養中にマーリンから王の伝説に関する物語を聞かされ、少しその後が気になって詳しく教えてもらっただけ。


 赤い竜が持つ性質は暴虐と支配。

 二つの種族を煽動することで無益な争いを呼び、何も知らない民衆に剣を取らせ、身体と心に大きな傷を負わせる。

 最後は新たな王に討たれてこの世から消滅し、あってはならない混乱を招いた魂は怒れる神々の裁定によって明世界から切り離され、幻想が蔓延る宵世界に縛られたという。

 だからありえない。

 邪竜にして王であるヴォーテガーンが明世界に転生してくること自体が、まず理に反している。


『いつまで隠れているつもりだい? まぁ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から関係はないけど』


 直接脳に信号を送られたかのように響いた明星の言葉には妙な違和感がある。

 しかし今はそれを考える暇はない。

 信じられないといった表情で絶句している一颯を余所に立ち上がったオリオンは明星と同じチャンネルに魔力を繋げ、空に向かって声を上げた。


「テメエから出てくるとは思わなかったぜ、チキン野郎。なに、こちとら会いたくて会いたくて仕方なかったモンでな、嬉しいぜ」

『おや、学校での君は無口な方だと思ったんだけどなぁ……随分情熱的なアプローチだ』

「それなりに作ってた甲斐はあった──ってわけねえな、テメエどうせ知ってたんだろ」

『あぁそれも分かるか。すごいすごい』


 今この状況を"見ている"ということは、こちらの行動は常に監視されていたと見るのが妥当だ。

 どういった経緯があってわざわざ痕跡を残し追わせ正体を明かすに至ったかは謎が多いが、アクスヴェインの一件以来自分が宵世界の使者に追われていることにはまず気付いていただろうし、オリオンがこちらに異形退治に来たことも一颯が追想武装を纏ったのも全てを知っていたに違いない。

 まんまと手のひらの上で踊らされていた──そう思うと腹立たしいが、一方で反論の余地がないのも事実だった。

 余裕の姿勢が目に浮かび歯軋りする彼の隣で、声を震わす一颯はようやく立ち上がりこう言う。


「せ、先生は……雪子……立花さんたちを、覚えてますか」

『立花? あぁ、あの子たちか。()()()()()だったよ。お友達を庇って肉塊どもに食われていく姿を見るのは本当に夢心地で、君たちのことも含めてあの夜はこの25年間でも特別だったと言える』

「……見世物?」

『そうだ。君だって小さい頃やらなかったかい? 逃げる蟻さんを一匹ずつ踏み潰す遊びとか、似たようなものさ。だから月見さん、被害者ぶるのはよしてくれ。彼らは梓塚の夜が危険だと承知で肝試しなんてくだらない真似をしたんだ。死んで当然、じゃないかな?』


 普段の穏やかな明星からなら絶対に出ないような言葉の連発に聞いているだけのオリオンも思わずゾクッとした。

 とある有名作家は自分のために他人を踏みにじる者に対し吐き気を催す邪悪などという言葉を用いたが、彼らは今知る人の中でそれに該当するのは間違いなくこの男だと改めて理解できたはず。

 まだ愛する者という観点から見れば善人だったアクスヴェインや女の幸せを得られなかったがために憎しみをぶつけたクロエとは全然違う。

 意味はないし利益はない、ただ楽しいからそうする子供のような衝動。

 言葉も出なくなるほど身勝手な主張にうずくまった一颯からは啜り泣くような音がして、元から明星が気に食わないオリオンには苛立つ要素が増えていく。


「確かに、こんなふざけたところに遊びに出てくるのは自己責任だ。でもな、テメエが関与しなけりゃ梓塚は"危険"なんかじゃねえんだよ」


 ハッキリと物申したオリオンの目には明確な敵意と殺意が宿っていた。


『フッ……ハハ、ハァ。君は正しい、全くその通りだ。ならば僕は邪竜としての正当性を示すしかない、支配権は神ではなく我が手にあるべきであると。故に僕の抹殺を図る君達を消す必要があり、そのためなら何人死んでも構わない』


 軽快に指を鳴らした瞬間──梓塚の町には空から生えるいくつもの光の柱が出現し、その一本一本に小鬼に似た異形変異体の姿が確認された。

 檻のように狭苦しい光から解放された異形はどいつもこいつも相変わらず知能がないのか、一斉に町の道から他人様の家の敷地など色んな場所へと散らばっていく。

 はじめは戦力を分散させて逃げるつもりなのかと思った彼らも、次の瞬間変異体たちがとった衝撃的な行動を前に目を見開いた。


 ──────まず壁を、窓ガラスを()()()

 ──────そのまま家に侵入したと思ったのも束の間、上がったのは女の悲鳴。


 最初の叫びが木霊し、ようやく傍観者という立場から抜け出すことができたオリオンたちの耳に入る数多の絶叫、破壊音。

 夜の静けさは瞬く間に地獄の阿鼻叫喚に塗り替えられた。


『コイツらはゴブリン種の変異体でね、家の中まで侵入できるようになるまでいやぁホント時間がかかった』


 梓塚の異形は昼に現れず、夜でも家の中には入ってこない──25年間積み重ねられたその常識が覆される瞬間はあっという間だ。

 慌てふためき家から飛び出てきた人間は容赦なく襲われ、どちらにしても助かる道がない。

 さすがに正気に戻された一颯も今度は違う意味で吐き気を覚えそうで心を正常に保っていられる自信がなくなってくる。


『じゃあ君たちにはそっちと奮闘してもらおう。早くしないと、家族とお友達がどうなっても知らないよ』


 堪忍袋の緒が切れ激昂しそうになったオリオンが怒りを声で表す前に見たのは顔面蒼白になった一颯の姿。

 騒ぎがどこまで広がっているか分からないが、ここが梓塚市の笹口である点を踏まえるとまずは一颯の祖母、次に近いのは華恋、そして尾野川町には両親がいて全員が全員眠っていることだろう。

 このままでは逃げる間もなく食らわれ死ぬ。

 ──絶対に放っておくわけにはいかない、しかし明星を逃せば次に接触するときはこちらが殺される可能性すら────。


『僕は逃げも隠れもしない。だって、ほら──』


 ぐぉんっという音と共に激しく燃える青い炎が舞い上がった。

 屋上に立ち不敵に笑みを浮かべる明星に襲いかかったのは銀弓・フェイルノートに炎熱を纏った矢を番えた璃音で、抉られたであろう脇腹も完全ではないがほとんどが元通りの状態だ。


「リオンか!?」

『お前達は行け! 明星の相手は俺がする!』

「分かった、頼んだぜ!! 行くぞイブキ!」

「う、うん!」


 このやり取りを最後に璃音も明星も念話が途切れ、二人は夜の町に放たれた恐怖の対象を狩るために駆け出す。

 急いで止めねば被害者はますます増える。

 これ以上はなんとしても食い止め、必ず平和を取り戻すと胸に掲げて空を舞った。




「医療神ディアン・ケヒトの加護──死なない限り、受けた傷を完全回復させるんだったか。まるで不死身の化け物だね」


 致命傷ではなかったとはいえ腹に一撃食らってなおかつ五階建ての屋上から転落したはずなのにほぼ無傷の様子で存命している。

 邪竜ヴォーテガーンすら化け物と形容するのだから神造(デミウルギア)遺装(アーティファクト)の治癒能力は確かに凄まじい。


「この程度で不死身か。どれほど優れた回復能力を持とうがいずれは死ぬ身だぞ」

「うんうん、まさかド直球の正論が飛んでくるとは思わなかった。────じゃあ遠慮なく、死んでもらおうかな」

「あぁやってみろ。だがお前の墓場になる場所はここじゃない、案内してやろう」


 璃音は淡々と魔法結晶(マギアジェム)を投げ、あの時のオリオンと同じ詠唱を口ずさむ。


「起動、追想空間────」


 割れた宝石から濃密な魔力が広がり、巨大な空間魔法が形成される。

 アトラスとの戦いで彼が用いたマーリン作成の魔法結晶は璃音も受け取っていた。一颯には秘密だったが、これで一人ひとつだ。

 さっきまでいた暗がりの世界と同じ状態を型どった無人の空間にはオリオンたちもゴブリンも人もいない。影も形も元の世界に置いてきて、取り残されたと言うべきか引き寄せられたと言うべきか、ここに今いるのは二人だけ。


「へぇ、あの予言者はまだここまでできるのか。梓塚市自体を完全再現して閉じ込める完璧な空間魔法……人格は僕以下だが魔術師としてはさすがだな」


 そう、この空間はただの再現。

 たとえどんな建物を壊そうが被害は出ないし死者も出ない。

 解除する方法は術式を支配している璃音が死ぬか自力で世界を解くかの二択に絞られるため、明星は取り込まれた時点で逃げられなくなっている。

 今まではのらりくらりとしていられたが、今この瞬間は逃走は許されず正真正銘の一騎打ちだ。


「それで? 君はなにをしてくれ……」


 青の刃が夜闇を疾走し、首だけ軽く避けた明星の側頭部を掠めて闇に解ける。

 あくまで笑みとスーツは崩さない彼もこれには若干気に食わなかったか、眉をひそめて興味深そうな声を発した。


「不意打ちなんて、武の道を歩む者として恥ずかしくはないかい?」

「お前に言われては俺も終いだな、明星()()

「じゃあ本当に終わらせてあげよう──!」


 言葉を合図にして璃音を取り囲むように出現した空間の"穴"。

 そこから正体不明の巨大な爪が肉を裂こうと襲いかかったが、こんなものをそれこそ不意打ちで二度も食らうほど銀弓の魔術師は落ちぶれちゃいない。

 靴底に魔力を集中させジェットのように天高く飛び立ち、迫り来る凶爪を避けながら距離を離す。

 接近戦を敢行しても虚を衝けるだろうが正直言って未知の能力を相手にこれ以上近付くのは気が引ける。──実際、梓塚にいる限りこの未知の能力の射程内と言われてはどこにいてもジリ貧になるだろうが。

 ともかく浮上してから明星の姿が見えるか見えないかくらいの位置にまで逃げ仰せているものの、攻撃の乱打は一向に止む気配がない。

 今も月に負けないほど淡く輝いている黄金色、未来視の魔眼こと"物見(ものみ)心眼(しんがん)"をフル稼働させているおかげでどこから穴が現れ、何がどう牙を剥くのか手に取るように分かるのが唯一現状を変えられる要素になり得るはず。

 本当に皮膚をギリギリで掠めていく爪に一撃見舞おうと弓を構えるが穴はすぐに消滅し次がその瞬間にやってくる。銀弓操作(ブラッドヴァリー)で集中するのも間がなさすぎて難しい。

 ダメージ自体はなくともストレスは溜まる一方だ。

 しかしどこかに明星の懐へと繋がる一筋の道があるはず。

 風のない世界で風に乗り、可能な限りで魔法による迎撃を行いながら滑空する。


「どこまで逃げるつもりかな?」


 逃げる?──とんでもない。

 考えれば簡単なことだった。璃音には自動治癒能力があり、未来視があるのだから死ななければ大抵の行動は試すことができる。

 つまり初めからルートを探し出す必要など存在しないのだ。

 覚悟さえ決めてしまえばあとはこちらのもの。異形の魔の手が降る空を駆け抜け、明星に向かってまるで星のような速度で真上から落ちていく。

 なるべく回避はするが一点を通ると分かる以上全てをアクロバットに避けきるなんて到底不可能だ。

 速く、早く、切り裂かれる痛みに足を止めてはいられない。

 必中の弓を模した贋作遺装には渾身の魔力を込めた聖なる矢を番え、レオンとの戦いの時と同じくオート発射の準備をして構え────。


「食らえ!!」


 ほぼ(ゼロ)距離。

 放たれた矢は笑う明星の顔面を正確に捉え、僅かな破裂音を上げながら爆裂した。


「……やったか」


 爆発の衝撃で派手に吹き飛ばされながら住宅地の路地に着地した璃音は全身の傷口を淡い光で覆いながら呟く。

 いくら敵が幻想の竜とはいえ頭を射抜かれてはただでは済むまい。

 まぁ──当たっていれば、だが。


「──うーん、まぁまぁだ。僕じゃなかったら死んでいたかも」


 ……絶句した。

 着衣が乱れたのは恐らく爆風と燃え移った火で焼けたせいであって、魔力の残り香は微塵も感じられない。

 肩についた埃や砂を払いながら飄々とした笑顔を崩さず、ふわりと舞うように降ってきた男にはゴミはついていようと傷そのものはなにひとつ確認できなかったのだ。


「驚くほどのことでもないだろう。僕は宵世界の連中に追われていると知っていたんだ、対策を用意しない方がおかしいと思わない?」


 明星は宵世界の住民が持つ特有の力に対抗するため10年前から研究を重ねた結果、ある防護魔法に行き着いた。

 そもそもあちら側の住民の能力とはなにか──"魔力"である。

 明世界で成立していた魔術はほとんどがとうの昔に機械文明によって潰され、魔法なんて芸当に頼るのはまだ神の支配が続いている世界の人間だけ。

 いつか正体を明かせば彼らは必ず魔法攻撃を使用すると考えていた。

 だからこそ絶対的な守りを。

 一方的な蹂躙を可能にする力を。

 かくして自らを守る力を得た男は当たり前のように姿を現し、当たり前のように魔力で生成された矢に射抜かれ、無傷でここに立っている。


「魔力を弾いているのか……」

「弾くんじゃない、僕を覆っている"壁"は魔力を際限なく吸い取っているんだ。ゆえに高度な魔法を用いても僕には傷ひとつつけられない。そして吸収した魔力がどうなるかと言えば……」


 すぱっ──となにかが空気中で切れた。

 それがなぜ起きたのか、どこで起きたのかを考察する前に頬にだらりと垂れてきたのは赤い赤い鮮血。

 痛覚は機能していないし、何故か治る様子もない。

 一体なにがどうなったのか。

 それは目の前を見ているはずの視界が真っ白に染まったことでようやく分かった。


「な……っ」


 切り裂かれたのは璃音の両目だ。

 どちらも視力に致命的な一撃を加えたわけではないが、薄くぼやけていく明星の姿をうまく捉えられなくなるのが嫌でも分かる。

 ────詳しくは知らず、明星は物見の心眼が目自体が視る未来である考えた。

 心や脳が浮かべるのではなくあくまで目が見えるから未来も視える、そうした理由であの黄金色は発光しているのだ、と。

 失明させる必要はない。あくまではっきりと視えなくなればいい。

 その目論見は確かに当たっている。

 璃音が幼い頃から父に叩き込まれた戦いの基礎において、最も重要だったのも「物見の心眼の発現には視力が必要不可欠」「絶対に視力を奪われるな」だった。だから守り通してきた──さっきまで。

 しかし、こんな単純な攻撃が視えず回避もできなかったのは非常に奇妙だ。

 唯一考えられるのは、()()()()()()()()()

 恐らく明星の発動している防壁は吸収した魔力をほぼ同威力の魔法に転換するのだろう。それを先程から使う卓越した空間魔法で回避できないよう当たる場所を固定して同時に発動させた……としか思えない。

 消費する魔力はバカにならないが、シキや高位の魔術師にも実際行使可能な連続魔法なので納得せざるを得なかった。


「僕に魔法を撃ち込むのは自殺行為に等しい。今回はまけてあげたけど、君みたいな強い魔術師ほど僕との相性は悪いと思うんだ」


 全くだ。魔法が強ければ強いほどより強力に、しかも未来視も回避も意味がない必中攻撃になって返ってくる。

 よって魔力を駆使する銀弓の魔術師に勝つ術はない。


「さ、勝ち目がないと分かったろう? そのまま膝をつき降伏するなら命は助けてあげないことはない。君は強いから、いくらでも使い道がある。だから今はゆっくりと──────っ?」


 破裂音。


「がはっ……!?」


 また破裂音。

 合計三度木霊した音が静かになった後、かちゃりとまた音がした。


「手品のタネを明かすのが早すぎたな。……いや、俺も同じだ。対抗策、確かに用意していないのはおかしい。だがそれはお前だけではなく、俺たちにも同じことが言えるんじゃないか」


 左手が握り締めているのは銀色が輝く大きな弓じゃない。黒く滑らかでツヤが眩しく街灯に反射する現代的な()()だ。


「さぁこれで五分だぞ、明星東」


 硝煙を靡かせる銃口を睨む男の体には確かな傷が刻まれている。

 勝負はここからだ。



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