1-16 胎動 1
「…………」
────漸く帰ってきた。
紆余曲折あったが凶悪な変異体"ゼピュロス"を倒し、一颯と別れ、本来いるべき宵世界へとオリオン・ヴィンセントは戻ってきたのだ。
明世界での生活に馴染みすぎて町に入るために壁があるという絶妙な文明の差に少し困惑するが、こっちにはこっちの便利さがある。二日か三日も寝たり食ったり動いたりすれば元通りになるだろう。
要は休息のためにヴィンセント邸に戻りたい。いくら万全になるまで魔力タンクを満タンにしたと言っても、彼の中では超が三つくらい付くほどの必殺技こと黒夜流星を放った後だ。疲労というよりは倦怠感が全身を包んでいる。
……が、剣士として役割を担う彼が自宅に直帰するわけにもいかない。まずは国王に討伐の報告をしなければならないし、キャロルが全てを正確に伝えたなら一颯を巻き込んだことに関する罰が待っているだろう。オリオンもそれが如何に危険で愚かな行為だったか理解しているため、甘んじて受け入れるつもりだ。
第二の故郷たるアーテル王城都市の外門にはいつものように兵士が控え、彼の顔を見た途端ソイツの眠そうで冴えない顔がやけにニヤついていたこと以外は特に変わらずいつも通り。
しかし、雲に覆われた空は太陽の光が射さないように、一歩踏み行った都市の内部にも彼の予想だにしない光景が広がっていた。
一言で表すなら、活気がない。
昼は遊び回る子供たちや見守る親、出店を出す商人たちが笑顔を振り撒きながら街中に展開し、夜は暖かな灯が照らす月下でロマンスを感じさせるアダルトな雰囲気を造る大人たちが穏やかに過ごす。兵士たちが闊歩していてもそれは決して悪いように作用せず、街の人々との交流は華々しい都市に相応しいものであったはずだ。
だが今はどうか。雨が降りそうな天気とはいえ人が少なすぎる。いつもパンを売り出している門に一番近い出店はピシャリと閉められ、無限の体力を武器に外で遊ぶ子供の気配はない。
乾いた風が吹き、落ちた草が流される閑散とした一本道は正面に鎮座した王城が妙な圧力を放っている。
さっき一颯と話した時にはその期間がとても長く感じたと思ったが、365日の内の約10日間は物凄く短い時間だ。そんな短期間になにが起きたというのか。
あまりに変わりすぎている街中を観察しながら巡り歩く。住居が固まる西側を特に注視しながら万が一に備えて剣を握り、敵の気配────殺気だけは必ず逃さないように一歩ずつ、一歩ずつ。
「剣士のおにーちゃん!!」
と、至近距離で呼び止められ、背中からささやかなタックルを食らった。
張り詰めていた糸を突然切るような呼び掛けに思わぬ大ダメージを受けたが、その無邪気な声の主はオリオンを傷つける意図は持っていないし、彼自身もよく知っている少年だ。
「ユカ、お前っなんだなんだ? 相手してほしいのか!」
オリオンの腰にしがみつく少年ユカの頭を髪が暴れるほど撫でてやる。
可愛らしい年頃の幼児は、悪ガキの代表格みたいな剣士オリオンに憧れいつかは彼のようになりたいと剣の教えをせがむほどの勉強熱心だ。
家が城への一本道から近い位置に在り、今日もたまたま街を歩くのを見つけて遊んでほしいから家から飛び出たのだとオリオンは推測するが、腰に顔を擦り付けて首を振る姿を見るにどうやら違うらしい。
「なにしてるのユカ! 戻ってきなさい!」
ユカの家がある左に曲がって正面の道から声がする。それが血相を変えた少年の母親であると判って姿を見た時、顔が痩せた女は怯えきった表情でオリオンを見ていた。まるで恐怖の対象を見つけてしまったような、なにかから逃げるような顔だ。
「……ユカを連れていくのですか……」
連れていく────誘拐する、を指すのか。いやいやおかしい。声で誰であるか判るくらい交流のある母子の子を誘拐するわけなんてない。
しかもオリオンは犯罪者じゃなくてアーテル王国の王が選んだ黒き剣士。生きるために他人を巻き込むことはともかく、自らを慕う子供を母親の前で連れ去る外道な行いは絶対にしない。
だから彼ははっきりと言った。
「連れてくって……なんのことだよ」
ユカの母親はその一言に混乱した。目を大きく開き、譫言のように「うちの子だけは」と繰り返す。
なんのことかさっぱり分からないオリオンはとりあえずユカを腰から引き剥がし、ひどく狼狽える母親を連れて一旦家に戻ることを提案した。もちろん被疑者疑惑のある彼も一緒だ、疑いは晴らさなくてはいけない。
その意味が分かった時にはこの街の静寂の理由も明らかになるかもしれない、そう信じて彼はユカの家へお邪魔することになった。
家の中もやはり街中と同じ、どこか寂しげで色がない。
家族三人が囲むテーブルでユカの母親、隣にユカ、母親の正面にオリオンの形で座る。
「で、こっちは誘拐犯扱いされたんだ。どういうことか説明しろよ」
「────ユカ、玄関と窓を閉めてとカーテンを閉じてきて」
「うん!」
元気よく駆け出したユカを見送った母親は、オリオンに対して「話の前にお願いがある」と言った。どうせ黙っていてほしい、とかだろうが今にも人が死ぬくらい深刻そうな顔で言われては聞かないわけにはいかないので、快くオーケイの返事を出す。
「では、外に兵の気配や魔法での盗聴があったらすぐに教えて」
「盗聴? いいけど、そんな疚しい話なのか」
「いえ……でもこれを聞かれたらユカはどうなるか……」
まただ。さっきオリオンにしがみつくユカを見た時と同様、彼に対して異様な過保護になっている。
今のアーテルを包むなにか得体の知れないものを前振りの時点で感じながら、ユカの戻りを待ち、きちんと言いつけを守って椅子に座ったところで母親は話を始めた。
五日前、アーテル王城で事件が起きた。
王国の今後について話し合う二十席議会が始まった正午、突如鳴り響いた爆発音が街の関心を惹いた。その時はまだ魔法の訓練でまた誰かが失敗したんだろうと呑気なことを言っていた街の人々は、次の日現れた兵士の様子が今までと違うことで平和な日常を奪われた。
身体は大きくても顔が怖くても陽気で優しいアーテルの兵士たちは一転、黒いローブを纏った怪しい集団へと変わり、略奪や強姦などの犯罪行為に明け暮れる悪魔と化した。同時に、毎朝決まって街中にモーニングコールを発する明朗快活な国王が姿を全く見せなくなる。これが三日前まで。
一昨日、すでに街では恐ろしいものとして見られていた兵士たちが城のとある人物の命令の下、子供を集め始めたのだ。武器を持ち、侵略する男たちの前に為す術も持たない人々は大人しく子供を差し出すか、抵抗し殺され無理矢理連れていかれるかの二択。
泣き叫ぶ子供たちの悲鳴が耳にこびりついて離れない凄惨な出来事だったとユカの母親は語る。
「待てよ、子供がみんな連れていかれたならユカはどうして無事なんだ」
「……実は、私の夫が……バルトが────いえ、まずはこっちを話しましょう」
子供たちを集めろ、などと命じた人物について。その男は命を下した際、一人の女従者を侍らせながら姿を見せた。
元々嫌な雰囲気があった、と語る母親から発せられた名はオリオンもよく知りよく会って話をする男だった。意外性はなかったものの、「どうして」という疑念が少なからず心に芽生えるほど愛国心を持っていたと彼は思う。
ユカの父親であるバルトは遊撃部隊の隊長を長く務める兵歴30年の古参だ。耳が痛くなるくらいよく笑い絵に描いたような熱血で、ハルバードを振るう彼とは何度も演習をやらされた記憶がある。
40歳で漸く結婚し、二年後に子供を授かって清々しいまでの親バカになった男だが実力は折り紙つき。オリオンやもう一人最強格の女傑には劣るが非常に強い。
しかし妻はその彼になにかがあったことをほのめかしている。
「あの人は、ユカを守るために自分が実験の被験体になると言って……兵士たちに連れて行かれて……」
「なっ───!」
言葉が詰まった。
子供を守るため、そのために彼は自ら身を差し出したのだ。実力行使に出れば妻を危険な目に遭わせるかもしれないと、己の刃を持たず決死の覚悟で。
元凶の男は彼の実力や身体能力を評価しているからこそ、ユカを差し出すか自分を差し出すかをバルトに決めさせたのだろう。そうでなければわざわざ子供だと指定しているのに大人、しかも相当な歳の男を好んで選ぶわけがない。
結果としてユカは助かったが、バルトは自慢の鎧型魔装束や特殊な鉱石で造られた専用ハルバードごと兵士たちに連行され、帰ってきていない。
先程ユカとオリオンが楽しげにしているのを見て、連れていくのか、と聞いたのは彼が男側にいてバルトだけではやはりダメでユカがほしくなったと思ったかららしい。
元々いた明るい笑顔の兵士たちが揃って消えてしまった今、確かにオリオンだけがフラフラと街を歩いているのはおかしな光景だ。
彼にも自分の姿が周りにどう見えていたかを知り、誘拐魔扱いされたことが納得できた。
「人体実験か、あの野郎なにしてやがんだか」
「よからぬことになっているのは間違いないけれど……」
誰も戻ってこないし誰もその後について聞いていないのだから良い方向に事が運んでいるとは思えない。
実験の被験体と言われても、内情や実態は誰も知らないがロクなことになっているはずがない。
二十席議会の貴族たちも爆発があってから行方知れず、横暴な男の策謀を咎められない住民はただ震えて書き換えられた己の天命を待つのだ。
「そンで、ユカは俺になにしてほしいんだ? 遊んでほしいってわけじゃねえならなんかあんだろ」
「おにーちゃんつよいよね? わるものに負けないよね?」
「おっ! 最強無敗の俺サマに勝てるヤツはいねえぞ!」
変異体には別個体に二度も負けかけたけど、と言ったら子供の夢を破壊してしまうのでお口チャックだ。
「パパをたすけて! おねがいおにーちゃん!」
目の前で身代わりになった父親を取り返してほしい。
切なる願いは本来実の子供の口から言わせるにはあまりにも酷だったが、それを口にさせるほどこの都市は混沌としている。話を聞いただけのオリオンにだって解る非常事態、このまま野放しにしておけば前王───バルファス王朝時代より恐ろしい未来が待っているかもしれない。
この問題は、たった一人事情を知らず明世界にいたことで事なきを得た彼にしか解決できない。
「分かった。約束だ、父ちゃんは俺が連れて帰るからユカは母ちゃんを守れよ」
「うん!」
話は纏まり、オリオンのやるべきことも決まった。
一度城に戻り元凶を叩く。それがあの男ではなく王であったとしても、悪漢であるなら容赦はしない。
ユカの家には人避けの魔法を張った。詠唱の際、中にいた二人以外の人間がこの家に入ろうとするのを無意識に控えさせるものだ。周囲が誰も寄り付かなくなるリスクはあるが、背に腹は変えられない。
出ていく時、扉の隙間から顔を出したユカの頭をもう一度揉みくちゃになるまで撫でてその場を後にした。
彼らの明日の笑顔のためにもやれることの最善を尽くす。
城の門は固く閉じられ、開いてくれそうな兵士の姿もない。仕方がないので強化魔法でジャンプ力を向上させ、三階からの侵入を試みる。明世界のマンションとは違い城は更にデカい巨大建造物のため、余裕とまではいかずとも外壁にしがみつければあとは己の筋肉で登ることができる。
例の男についてだが、ソイツ自身は戦闘はできないただの政治家だとオリオンは記憶している。なので負ける要素はないが、重要視すべきなのは女従者とやらだ。自分の身を守れない男が護衛にし、かつ従者がその一人だけという点を鑑みるに相当の手練れだろう。
「……誰もいないな」
三階外部扉から侵入に成功したが、ふわふわのカーペットが敷かれた廊下や奥に配置された部屋からは人の気配がない。城を護るべき衛兵や個々の役割を持つメイド、執事もいない。
小綺麗なのに不気味な雰囲気が漂う城内は、普段なら厳かであるべき静寂が逆に不穏だった。まるで侵入者を誘っているような、そんな気すらする。
もうひとつ上の階には玉座の間がある。辿り着くために上らなければいけない階段は常に二人の兵士が配置されているが、今日はどうぞ侵入してくださいと言わんばかりにがら空きだ。遠慮なく上り切り重い扉の前に出たが、やっぱり誰もいない。
演劇の筋書き通りに誘導されている気分になる。
いつ見つかってもおかしくないほど大胆に行動していたのにこの始末。これでは扉の先に本命の罠があることを先にバラしているのと同じではないか。
だからと言って罠を警戒して逃げ帰るなんて剣士として────否、正義の味方としてあるまじき暴挙だ。
深呼吸を繰り返し、右手に剣を握る。いつ攻撃されても反撃できるように魔力を高めて魔法の詠唱も準備した。扉を開くのは空いている左手で、ゆっくりと。
ドスン、と重い音が鳴ると共に開いた扉の奥はいつもと変わらぬ玉座────に本来座るべきではない男が一人。
「────アクスヴェイン」
国王に仕え、右腕として支える立場にいるはずの男──アクスヴェイン・フォーリスは玉座に座り、自身を睨むオリオンを感心なく家畜でも見る目で見つめている。
「生きていたか……」
「勝手に殺してんじゃねえクソ野郎。王サマはどこだ。いや王サマだけじゃねえな、ブランカも義父も街のガキどももどこに消しやがった」
「消した? 馬鹿め。子は皆、崇高なる実験の礎となったのだ。そしてオリオン・ヴィンセント、訂正せよ、王はすでに王ではない」
─────"前"王は私が殺した。
アクスヴェインは三年前から反乱分子を密かに集め、五日前に国王ゴドウィン・クロム・アーテルハルダと娘である王女ブランカを暗殺した。
それと同時に邪魔な二十席議会の貴族たちは、全員炎熱系魔法で爆裂に巻き込み、死んだ者は川へ下水口へ流し生き残った者は傷を癒さず牢に入れたと言う。
淡々とした口調で語られる恐ろしい反逆の一幕は、なにもかもが信じられない非道な行いに彩られた悪夢だった。
「それにしても貴様があの変異体を倒すとは、その実力は認めざるを得んな」
「バカにしてんのか、あんなヤツに俺が殺されてやると思ったのかよ。それにテメエが用意したヤツなら尚更だ」
「その様子ではゼピュロスの正体に気付いていたようだな」
「ンなモン最初ッから割れてんだよ!!」
ゼピュロスの正体───というよりは背後関係か。
オリオンはキャロルから話を聞いた時点で情報の矛盾に気が付いていた。しかし最初の段階では、"自分が知らない異形を梓塚に一歩も入ったことがないアーテルの人間が知ってるなんておかしい、これは裏がある"と疑うだけだった。その認識を確信に変えたのがユカの母親から得た証言と目の前のアクスヴェインだ。
王族と主要貴族の暗殺、自分に従わない既存の兵士の消失が彼の仕業なら、彼を嫌うオリオンを真っ先に消すのは当然だろう。
だが実際の問題はオリオンを消すために用いたその手段だ。
「元から気に入らねえヤツだって思ってたけどな、別世界じゃ神様気取りかよ笑わせるぜ」
痛々しいにも程があんだろ、と言われたところでアクスヴェインはようやく眉をひそめた。絶妙な中二設定を知られたくなかったのか、それともゼピュロスが余計なことを言ったからか、どっちでもいいがオリオンのやるべきことはなにも変わらない。
「ンじゃあ、反逆者には相応に仕置きが必要だ。────神殺し、楽しそうだしなッ!」
構えた赤色の剣は稲光を纏い、鋭い剣先が光だけで正義への反逆者を貫く。
──────が、
「貴様はやはり阿呆だな、この場で私を反逆者と言い切ったか」
「あぁ言ったぜ。その椅子は王が座るべき玉座だ、テメエが触れていいわけがない」
「確かに、王が存命だったならそうだろう。だがしかし、今ここで王に成り代わった私に歯向かう貴様の立場は────なんと言うのだろうな」
ここにオリオンが仕えている王はいない。王を殺し国を乗っ取った新たな王はアクスヴェインである以上、彼は最早反逆者ではない。逆に王たる彼の命を狙うオリオンが反逆者になってしまったのだ。
────背後に殺気。
嫌な汗を拭く間もなく振り下ろされた白銀の剣を瞬時に受け止め、後方へと身を逸らす。
「邪魔すんなッ!!」
話によれば女従者は片手持ちで細身の白い剣を所持していたとのことだが、目の前にいる体格がしっかりとした白いローブの人物は証言に似た白い剣を持っているが男だ。彼を女性と見間違えるのは無理がある。
「いいか殺すな、その男はまだ使える」
「……加減はしてやる」
アクスヴェインに短く返事を寄越した男はゼピュロスとまではいかないがとてつもない速度で襲いかかってきた。
薄暗い室内でも分かる美しい白銀はオリオンが持つ赤色を呑む勢いで目映く輝きを放ち、一振りするだけでその光に目が眩みそうになる。まるで小型の太陽だ。
オリオンとて正体を隠した男なんかに負けるわけにはいかない。強化で雷の属性魔法を宿した剣撃をぶつけ、火花が迸る雷鳴は次第に男の白銀を食い尽くす。
激しいぶつかり合いの最中、ローブの奥から黄金の瞳がチラついた。それは隠しきれない星の瞬きだ。
「お前、まさか……」
「覚えていたようだな、そうだ俺は───」
「いいや知らねえっ、な!!」
名乗りかけた男とのつばぜり合いはオリオンが勝利した。
弾き返され膝をついた彼は恨めしそうに睨んでいるが、オリオンにはなんの関係もない。相手が怯んだ隙にやることは無論、戦えない雑魚の襲撃だ。
「食らいやがれッ!!」
変異体の神を名乗ろうが所詮は人間。頭をかち割れば脳みそも一緒に潰れてジエンド、華々しい大勝利が待っている。
だから一点狙いの大振り攻撃。後ろの男には目もくれず、最速で最高の一撃をぶちかます。
しかし、オリオンはミスをした。
変異体を生み出した張本人、アクスヴェインがこの場所に無能な護衛一人で対峙しているなどと思い込んでいた。
瓦礫の吹き飛ぶ音が喧しく空間を引き裂き、粉塵が舞い上がった玉座の間にはなにかが現れた。
優に3mはあるだろう巨大な躯、膨れ上がった頭、口は大きく裂けて目はあらぬ方向を向いているグロテスクな怪物は雄叫びを上げながらオリオンに突進し、彼の身体を容易に壁まで撥ね飛ばす。
手に持っているのは────アダマント製のハルバード。
「なん、だ……こいつっ!?」
変異体? いや違う、かと言って普通の異形でもないし、宵世界に現れる個体でもない。
ではなにものだ。
眼前で猛り狂うこの怪物は、一体なんだと言うんだ。
「紹介しよう。彼は実験によって生まれ変わった元アーテル遊撃部隊隊長バルト・エインズ、──────異形・融合体だ」