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ロオイカニア物語  作者: キューロッド
第1章 仇討ち
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第1章第5節 ロオイカニア概説

遅筆。この節は読みづらいと思います。

 帝政ロオイカニアは、大陸の中央大部分を支配する大帝国である。

 北と東に小部族、南に無法の砂漠を抱えているが、そんなものは問題にならない。かつては隣国のヘルゲルが国を揺るがすほどの影響を有していたこともあった。しかし、その公国を併呑してからというもの、繁栄を極めた。

 だが文化の発展は、やがて国家としての統率を衰退させる。

 今はまだ王家が強力な政府として権力を有し、抑え込んでいるものの、既にいくつかの特権は内政に分割されている。

 すなわち帝国議会は立法権を。教会は司法権を有し、一個の人間が抱えきれない力強い権力の、その溢れ出た破片をそれぞれ奪い去り、牛耳っている。皇帝の独裁を際のところで維持しているものの、人口の増加に応じて、権力者の持つ時間は薄まる。人々は、より強い影響力を持つ権力者に靡く。だからこそ派閥が生まれ、物事の高みは曖昧となり、やがて熟した果実は腐敗を始めるのである。

 そうとは言え、そのような腐敗を許さないという意思は確かに存在する。己の防腐処理に絶対の自信を持ち、これを行使して憚らない熱い志の塊である。世の人は、それを義憤と称し、その意思を確固たるものたらしめ、そして、加速させるのである。

 ロオイカニア議会には、エーデルハイアット派なる派閥が存在する。ディルの父にあたる老いた功臣、ジグラはもちろん、これらに連綿と続く歴史が、彼らを政治の怪物へと押し上げていった結果である。ジグラ=グランバールト=トルトロイには二人の息子がおり、その片方は"星の祝福"を持って生まれたためにエルケとなる宿命を有していた。

 そうなれば、エーデルハイアット派の顔となり、議会へ赴くのは兄の方である。家にとって幸運なことに、朴訥とした弟に比べて兄は人と交わる事にかけて長けており、エーデルハイアット派という集団を上手に使いこなして政務を行っていた。

 スデルファイン…今はオルドゥフという祝福名を与えられた、ビルバーン家の貴公子がそうであったように、名家に生まれた男子は政治に塗れ、派閥間の闘争に明け暮れることが生計となる。帝国議会には国の長たる皇帝を掲げる"皇帝派"、そして、エーデルハイアット派が支持している"神官長派"に二分されている。この二勢力が大ロオイカニアを左右していると言っても過言なく、名目ではない帝政を保っていられるのも、今はまだ皇帝派の勢力が強いためである。

 もちろん、神官長派にエーデルハイアット派閥や、その他、細々とした集団が存在している事と同じように、皇帝派も幾つかの派閥に分かれているし、歴史的にそれが当然となっている。だが、皇帝派が強固であるのは、偏に、"神の子"たる皇帝を錦の御旗として掲げていることにある。貴重な血縁を絶やすことなく何代も続けてきたということは、それだけのブランド力―信頼と言い換えてもいい―を持つに至り、そして、それは神官長がどんなに望んでも得られない特別な力である。

 人心というものは揺るぎ易く、地位や名誉、富を築き上げたとしても本質は変わらない。むしろ、大きなそれらを得たものこそ、より確かな主柱を欲するのである。貴族たちは皇帝という柱を欲し、時に支え、時に利用しながら処世しているのである。

 貴族だけではない。庶民百家もゆるぎなき主柱を求める。己らを虐げる悪しき貴族たちから身を守る術を。有象無象の集団と言っても、数を揃えればそれなりの力を形成し、無視することのできない流れを作る。これらをまとめ上げて、自らの力と為し、その流れを利用しているのが神官長である。言うなればこの対立構造は、旧来の支配層と、彼らから抑圧されてきた反発力とのせめぎあいである。

 エーデルハイアットは確かに貴族であるが、ビルバーン家のように元々からロオイカニアに連なる家ではない。古くはロオイカニアに併呑された、ヘルゲル公国…その首都ヘルゲを統治していた騎士、エーデルハイアット伯を祖とする家である。その歴史的経緯から、ハリ教に依存してきたエーデルハイアット家は、併呑の折には帝国の権威を必要としながらも、神官長の率いる教会に与するようになり、そして現在へと至った。

 ディルがエルケであるように、彼の義兄アルトゥスも、そのエーデルハイアットの古い歴史を背負い、自らの正義を信じて若き熱を迸らせている。彼の母は何より、奴隷の身分から彼の父ジグラに見初められて貴族となったのだから、生まれついて貴族の席に座し、帝国臣民にとって寄生虫にすら見えるプロパーの貴族達を、悪そのものとして断じて曲げなかった。

 人権派。奴隷たちの生活向上や、労働条件の改善に動いているアルトゥスは、一般的にそう言われている団体を立ち上げた。

 奴隷であっても、人の心を持たずに生まれてくるわけではない。卑しいのは出自であって、人品ではない。彼らだって、貴族と同じように教育を受ければ、貴族以上にこの国を強くするポテンシャルを秘めているのだと。

 若き義憤は天をも覆す勢いで燃え上がっていた。我の出自を蔑む者どもも、今やすれ違いざまに頭を下げ、目を合わせることすら憚られるようになったのだ。彼らの憎む卑しい出自が、彼らを凌駕する知恵と力を手に入れ、そして、権威をも手中に入れたのだ、と。

 アルトゥスは激務の傍ら、胸に付けた勲章を撫ぜて自らを奮い立たせる。

 彼の志に同調した、皇太子から授けられた勲章…皇太子の教師たる地位の証によって。

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