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遺跡にて 2

 

 オークがまた一歩近づく。


『むう』


 ちらりと横を確認したテッドは唸る。ステラはまだ胸を押さえていた。羞恥からか、頬も些か赤くなっている。


 彼は呆れた。敵が近づいている状況で胸を抑える? ステラ(巨乳美少女)を造った技術者は、相当なアホに違いなかった。

 テッドはそう決めつけると、オークに向け一歩踏み出す。同時に、部屋に置かれていた机を掴む。武器にしようとしたのだ。


 ボロリ。


 乾いた音。机は傷んでいたらしい。彼の腕の中で脆くも崩れ去る。考えてみれば道理だった。木製のドアも傷んで壊れたのだ。同じく木製の机だって、そうなるに違いなかった。そこで戦術を変更。他に武器になりそうなものを探す。だが、見つからない。この部屋にある他のものといえば、木製の椅子が二つのみ。


 ――椅子も腐っていよう。


 テッドはそう判断。素手で立ち向かうことにする。幸い、オーク共の動きはかなり遅いことだし。テッドは口の端を上げる。


「オオオオオオオオ!」


 オークの雄叫び。同時に、棍棒を大きく振りかぶってテッドへの疾走を開始。振り下ろされる棍棒。テッドはそれを斜めに後退することで回避。同時に拳を突き出す。


「プギャ!」


 短い悲鳴。オークの顔面に、複合装甲で覆われた拳が直撃。その豚頭を粉砕したのだ。同時にテッドは素早く体を捻って、オークの持っていた棍棒を奪い取る。


「gu!」


 オークの断末魔。後続のオークの内、右側の一体の顔面、そこにテッドの振るう棍棒が直撃したのだ。


 ――脆いな。


 テッドは内心で唸る。彼の振るった棍棒。オークの顔面に直撃したそれは、豚の頭骸骨を粉砕したのと引き換えに、半ばから折れてしまったのだ。


「ブモオオオオオオ!!」


 憤怒の雄叫び。生き残った最後のオークだ。棍棒を振り上げ一直線に向かってくるオークに向け、テッドも疾走。一気に距離を詰め、棍棒の間合いの内側へと侵入する。


「ブモ!?」


 テッドが近過ぎて武器を振るえないオークは、困惑の声を上げる。


 ――愚かな。


 そんなオークに対して、テッドの人工知性回路の内部に嘲笑が走る。彼は


「GUUUUUUUUU!」


 オークの悲鳴。脂肪で大きく膨らんだオークの腹部を、テッドの左腕が貫通したのだ。余りの激痛。オークは苦しげに膝をつく。

 そんなオークから、テッドは強引い腕を引き抜く。


「GYAAAAAAAA!」


 悲鳴を上げるオーク。激痛の余りに、鮮血をまき散らしながらゴロゴロと床を転がる。その姿はまるで駄々をこねる子供のよう。

 テッドの右腕が、そんなオークへと伸びる。ガシッという音と共に、テッドの腕がオークの頭部を掴む。

 そして無造作に、力を込める。


「っ!?」


 悲鳴にならない悲鳴。それがオークの最期だった。オークの頭蓋骨はひしゃげ。脳漿が飛び散る。テッドの腕に付けられた人工筋肉機構が、頑丈な筈のオークの頭部を軽々と粉砕したのだ。


 三体のオークを誅殺したテッドは、視線を横へと向ける。そこにいるのは無論、ステラ。その傍らには二体のオークが倒れている。オーク達はしかし、死んではいない。多目的センサーによると生命反応がある。どうやら気絶しているだけのようだ。


「むう」


 テッドは唸る。こんな連中を生かしたところで何になるというのか? 尋問して情報を得ようにも、そもそもコミュニケーション能力が備わっているのかすら怪しい。というよりも、知能もないのではないか?


 一方でステラの方もまた、テッドを見て眉を顰める。


「二等軍曹……。取り敢えずで何でも殺してしまうのは、どうかと思うのですが……」


 ステラがそう言って非難がましい視線を向けて来る。心外だ。それではまるで、俺が何時も殺して回っているかのようではないか。


「ふん。こんな連中に会話など無理だろう。尋問など時間の無駄だ。それに俺は、いつもいつも相手を殺している訳ではないぞ。たまには生かしておくこともある」


 テッドの反論。


「たまにはって……」


 ステラの呆れたような表情。彼女は軽く頭を振る。


「まあ、いいでしょう。今更言っても仕方のない話ですし」


 そう言ってステラは、気絶しているオーク達の股間を無造作に踏み抜く。


「GYUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」


 絶叫が響く。相当痛かったのだろう。飛び起きたオーク達は股間をおさえて悶絶する。


「くすくすくす」


 鈴が鳴るような笑い声。少女は小悪魔のような笑みを浮かべる。


人間(鈴木大佐)と同じで、股間が弱点の様ですね」


 そう言ってステラは、オーク達を傲然と見下ろす。





 ~~~~~     ~~~~~





 五時間後。


 遺跡の一角。大きな裂け目が生じ、外部との出入りが可能な部分。亀裂から太陽光が斜めに侵入し、幾分明るくなっている部屋。

 そこには3人の人影があり、小休止を取っていた。

 一人は大男。身長が250cmもある。その傍らには、小柄な少女。所在無げに、ポニーテールにしている金髪をいじっている。残りの二人はオーク(少なくとも二人の機械兵はそう呼んでいる)。醜悪なブタ顔で、デップリとしたお腹が突き出ている肥満体だ。オークもまた身長200cmを超える巨体なのだが、いかんせん最初の一人が余りにも巨大なため、子供にしか見えない。


 彼らはこの五時間歩き詰めだった。遺跡内部をくまなく探索していたのだ。ただし、その成果は皆無。この遺跡には、時空転移を行う設備は確認できなかった。

 そこで彼らは、探索範囲を拡大し遺跡の外も捜索することにしたのだ。そのために彼らは、この開口部の部屋にいるのだが、ここで問題が生じた。


 オークだ。機械兵であるテッドとステラは、疲労など感じない。彼らは、必要があれば何百時間という長期間にわたって探索を続けることが可能ではある。しかしながら、オークはそうもいかない。肥満体であるオークにとって、長期間歩き続けることは困難だったらしい。二人のオークは壁に寄りかかり、ゼーゼーと肩で息をしていた。


 そんなオーク達を冷ややかな視線で見下ろしながら、テッドが口を開く。


「どう考えてもいらないだろう。足手まといだ」


「そうでもありませんよ。罠感知には結構使えたじゃないですか」


 ステラの反論。このステラの言葉からもわかる通り、二人はオーク達を盾として使っていた。先頭にオークを歩かせることで、トラップを回避しようとしていたのだ。


「だが結局、罠はなかった」


 テッドはそう指摘する。この言葉どおりだった。この遺跡の設計者は、侵入者対策というものをまるで考慮していなかったらしい。罠といえるようなものは何もなかった。遺跡の老朽化が原因で、オークが床を踏み抜くというようなことは何度か起こっていたが、それは事故の類。落ちたオークも――分厚い脂肪のお蔭で――かすり傷程度で済んでおり、とてもではないが罠とは表現できない。


「それは結果論ですよ。これから先も何があるかわかりませんし、保険は必要です」


 ステラは反論する。


「だが、こうも簡単にへばるのでは話にならん。第一、危険察知であればセンサーでもできる」


 それも道理だった。彼らが歩いた時間はたったの五時間。その度に休息が必要なのでは、十分な探索時間が確保できない。


「それはそうなんですけど……でも、」


「オークを気に入っているのか?」


 テッドはそう言って、ステラの主張を封じる。


「え? ち、違いますよ!」


 耳まで真っ赤にしたステラが、ムキになって反論する。


「なにも隠すことでもない。機械女とブタ男。種族を超えた愛。最高じゃないか? これからは自由恋愛の時代だ。むしろお似合いのカップルではないのか?」


 テッドは生暖かい視線を送る。彼は未来の機械(ロボット)なだけあって、自由恋愛には理解がある男だった。


「だから違うって言ってるじゃないですか!」


 少女の癇癪が爆発した。


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