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遺跡にて 1

 



 光が収まり、時空変動も消滅。同時に、時間乱流によって撹乱されていたセンサーが回復。

 テッドは周囲を見る。現在地は屋内のもよう。石造り。かなり広い。縦横15m四方ほどで、天井の高さは約10m。

 壁や天井はかなり古びているようだ。長らく使用されていないらしく、所々にクモの巣が張られている。木の根の様なものが、壁を突き破って室内へと侵入。床には埃が積もっている。


 テッドは、見たままの感想を呟く。


『ふむ。どうやら長いこと使われていない部屋のようだな』


 これにステラも同意する。


『そのようですね。でも、なぜこの部屋に転移したんでしょう?』


 ステラの疑問。良い質問だな。テッドは思う。見たところ、この部屋には何もない。召喚魔法といえば、大掛かりな――それこそ帝国議会議事堂がすっぽりと入るほどの――魔導装置が存在しているのが常だった。

 そして、転移先といえば精緻な装飾が施されているものだ。今回はそれがない。


『部屋の外にあるのではないか?』


 テッドの指摘。


『かもしれませんね』


 ステラも同意する。


 取り敢えず、二人の機械兵はこの部屋唯一の扉へと向かう。その扉は木製。何の装飾もないただの木の板でできている。どうやらこの建物が放置されて長い年月が経っているのは間違いないらしい。その扉は、半ば以上腐っていた。テッドはドアノブへと手を伸ばし、


『む?』


 呻き声を出す。彼の視線の先。そこにあるのは彼の腕。そして、ドアノブ。

 そのドアノブは彼の腕の中でアッサリと折れていた。


『クスクスクス』


 鈴を転がしたような笑い声。ステラだ。テッドは傍らの少女を睨み付ける。


『老朽化が原因だ。俺の力加減に問題があった訳ではない』


 憮然としながら、テッドはそう告げる。同時に、用をなさない扉を強引に押し開ける。腐食した扉はあっさりと砕け、道を開ける。


「乱暴者……」


 少女の呟き。これまでのように通信回線を介したものではない。マン・マシン・インターフェース――発声機能――を用いたものだ。


『何か言ってかね? 三等軍曹?』


 そんな生意気な小娘に、テッドは自分の立場を思い出させてやる。


『いえ、何も。空耳では?』


 少女はすまし顔で、明後日の方を見る。


『そうは思えないのだが?』


 テッドの追及。武骨な外観に似合わず、彼は繊細なハート(知性回路)の持ち主なのだ。


『気のせいでしょう。空耳に決まっています』


『ならいい』


 他愛のないおしゃべりを続けながらも、二人は歩を進める。扉の向こうは廊下だった。高さ3m。幅は5mほど。広々としている。

 テッドを先頭にして、二人は廊下へと移動する。


『選択肢は二つ、右か左』


 テッドが重々しく告げる。


『どちらも同じでは?』


 ステラの指摘。その声には若干の呆れが混じっている。

 現状では、判断材料が少ない。こんなことで悩んでも意味がなかった。無論、多機能センサーを使えば壁の向こうの様子もかなり詳しく分かる。しかしながら、壁越しだと精度が落ちるのも事実。

 何よりの問題は天井と床。困ったことにこの建物、天井と床で使用されている石材に未知の磁性が存在。センサーが上手く機能しない。


 要するに、この階の上下がどうなっているのか――そもそもこの階の上下にも階があるのかどうかすら――分からないのだ。


『では、右だ』


 テッドは決断する。


『因みに、判断の根拠を聞いても?』


 ステラの質問。その表情はどこか面白がっているよう。


『動体センサーに反応がある。そして、そいつは二足歩行をしている。こいつを捕らえて尋問すれば何か分かるだろう』


 テッドの返答。その表情には、ステラの手には一切乗らないという断固たる決意が浮かんでいた。


『無関係の一般市民かもしれませんよ?』


 少女はそう指摘する。


『そのときは別の人間を探せばよい。何か問題でも?』


『いえ、何も』




 ~~~~~     ~~~~~




 暫くして、二人は目的の部屋。その前に辿り着いた。


『ふむ。ここだな』


 二人の前。そこにあるのは扉の残骸。何者かが押し入ったようだ。


『扉を壊して侵入するとは。ドアの開け方を知らないと見える』


 破壊された扉を見て、テッドが感想を漏らす。


『え? その感想を二等軍曹が言っちゃうんですか?』


 少女が疑問の声を上げる。


『何か問題でも?』


 テッドの質問。その表情は心底不思議そうだ。


『いえ……何も問題ありません』


 ステラはそう答える。藪蛇になりそうだったからだ。


『ふむ。では、入るか』


 そう言ってテッドは、気概も無く部屋へと入って行く。


『え? 待ってください、二等軍曹』


 ステラが慌てて後に続く。

 そして、部屋の中のニンゲンを見て絶句する。ニンゲンの数は五人。これはセンサーによって事前に分かっていたことだ。問題は……


『オーク?』


 少女の呟き。

 部屋の中のニンゲン。それは確かに二足歩行生物。腰には布キレを撒いている。肌は黒。筋肉質な体つきにと好対照な、デップリと飛び出た丸いお腹。だが、注目すべきはそこではない。そのニンゲン達、彼らの顔は豚だった。


 そう、おとぎ話でよく出てくる化物モンスター。オークにそっくりなのだった。


オーク(豚の化物)とは酷い評価をする。こいつらがこの星の住民なのかもしれんぞ?』


 豚人間を見て呆然とした様子を見せる少女に対して、テッドが注意する。


『いや! どう見てもモンスターですよ! こいつら!』


 そう言って少女は、オーク達を指さす。


『人を見かけで判断するのは良くないな、三等軍曹。よく見たまえ。股間を布で隠している。貞操観念の様なものも一応は存在しているようだぞ?』


 テッドはそう冷静に指摘する。


『その股間の布がさっきから盛り上がってるんですが!』


 狼狽する様子を見せるステラ。そんな少女を見てテッドは思う。こいつを作った技術者は何を考えてこんな性格を設定したんだ? 戦場では役に立たないだろうに。

 だが、とも思う。これはこれで面白い。そこで、もう少しからかってやることにした。


『民族特有の挨拶とかではないか? きちんと挨拶を返さないと失礼になると思うぞ?』


 テッドは空とぼける。


『あり得ません! そんな挨拶!』


 そんなテッドへと、ステラは突っ込みを入れる。


 実際、それは挨拶などではない。オーク達の様子を見れば、そのことは火を見るより明らかだ。

 彼らは全員、棍棒の様な武器を構えると二人へと近づいていた。テッドに三人、ステラに二人が向かう。ステラに、ニヤニヤとした笑みを向けている。種族が違えども、それが何なのかは明らかだった。


『ふむ、ステラよ。大人気な様ようだぞ?』


 オーク達の様子を見て、テッドが面白がる。


『まあ……そのようですね……』


 一方でステラの方は、同僚とは対照的に若干落ち込んでいる様子。まあ、下卑た視線を向けられて嬉しがる女というのも、余りいるものではないが。


『何を落ち込む必要がある? 設計どおりではないか?』


 テッドの指摘。これに少女は過剰に反応した。


『だから嫌なんですよ! 変態技術者どもときたら!』


 そう言ってステラは、オーク達の視線から身を守ろうと、大きすぎる胸を抑える。彼女は、73年式機械兵3B型。このタイプの機械兵は、意欲的な設計が多分に盛り込まれている。

 その一つが外観で、彼女は美少女風に設計されていた。

 この目的は二つある。


 一つは戦闘用。これは過去の戦闘データから導き出されたものだ。人間は女や子供を殺すときには強いストレスを感じ、殺害を躊躇するという特性を逆用しているのだ。

 人間兵だけでなく、機械兵にしてもこれは同様だ。女子供を殺すと世論の戦争支持率が低下するためだ。世論の余計な反発を抑えたい軍は、女性を攻撃するときは一段強い安全チェックを行うよう、機械兵をプログラムしているのだ。


 もう一つは治安維持用。

 言うまでもなく、犯罪者というものは女子供を狙うことが多い。筋肉隆隆のスキンヘッドのオジサンなど襲ってもリスクが高いだけだからだ。従って、犯罪者を釣ろうと思えば、少女型の外観をしていた方が良い。


 この二つの要素を考えれば、新型機械兵は、女で且つ子供であることが望ましい。


 ――であれば、少女型が最善だ。開発者たちはそう判断し、実際に彼女達を製造した。しかもこの際に、技術者たちは暴走したらしい。彼女とその同型機は単なる女の子ではなく、美少女風の外装を与えられ、胸もかなり大きく設計されていた。


 ちなみに、巨乳美少女の機械兵(どう見ても性的思考が暴走しているようにしか見えなかった)を国家予算で製造するという行為について、開発主任の鈴木大佐は帝国議会に呼び出しを喰らっていたりする。

 そして、その議会では、一つの名言が生まれた。


「むさい髭面オッサン機械兵なんぞ、誰も望んでなかとです! 美少女の方が心躍るとです!」


 鈴木大佐が放った魂からの叫びは、帝国議会議員の半分の支持を集める一方、残る半分を敵に回した。そして、この発言の是非を巡って、世論と帝国議会は分裂。議論は大いに紛糾。侃々諤々の議論が繰り返された。

 そして、そうこうしている間に、いつの間にか73年式機械兵3B型の量産化が決定。大量生産された一体が彼女(ステラ)という訳だ。


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