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にがつの女王

作者: ユリイカ

 むかしむかしあるところに、『きせつの女王』と呼ばれる4人の女王がいました。

 それぞれ春の女王、夏の女王、秋の女王、冬の女王といいます。


 4人は王様の命令で、きせつをコントロールする『きせつのとう』に入って、春から冬までの一年を過ごすように言われました。


 4人の女王はみんな別のくにに住んでいる女王なので、他のきせつの女王がどんな女王なのか知りません。


 遠いくにからやってきた4人の女王は、ドキドキしながら、それぞれ別の入口からきせつの塔の中に入り、真ん中にあるテーブルに集まりました。


 そして4人はそれぞれ自己紹介をしました。


 まずは春の女王からです。


 春の女王は『のないくに』の女王です。

 詩がないので、春の女王は気持ちを文章で表わす事ができません。


 なので、春の女王はその場で声を出して歌いました。

 その歌は秋の女王と冬の女王を感動させるほどの見事な歌声でした。 

 どうしてそれほど見事なのかというと、『詩のないくに』のひとびとはいつも色んな声色こわいろを使って歌っているので、歌がとっても上手なのです。


 さて、夏の女王だけはどうして感動しなかったのでしょう。

 それは、夏の女王が『歌のないくに』の女王だったからです。 


 夏の女王は歌がどんなものか知らないので、春の女王の歌の良さが分かりませんでした。

 その代わり、夏の女王はとても見事に楽器をひきます。

 どうしてそれほど見事なのかというと、『歌のないくに』のひとびとはいつも色んな楽器をひくので、楽器をひくのがとても上手なのです。

 

 夏の女王が演奏えんそうした音楽に、春の女王と冬の女王は感動しました。


 しかし、秋の女王だけは感動しませんでした。どうしてでしょうか。

 それは、秋の女王は『楽器のないくに』の女王だったからです。

 

 秋の女王は楽器がどんなものか知らないので、夏の女王の演奏えんそうの良さが分かりませんでした。

 その代わりに、とても見事な詩を書きます。

 どうしてそれほど見事なのかというと、『楽器のないくに』のひとびとは、音楽がないので詩ばかり書いていたからです。


 その美しい詩に夏の女王と冬の女王は感動しました。

 しかし、春の女王は『詩のないくに』の女王なので、詩の良さが分かりませんでした。

 

 さて、冬の女王はどうでしょうか。

 冬の女王は恵まれています。『なんでもあるくに』の女王だったからです。

 なので、冬の女王は特に何もしませんでした。

 

 ここでおさらいしましょう。

 春の女王は『詩のないくに』、

 夏の女王は『歌のないくに』、

 秋の女王は『楽器のないくに』の女王です。


 そしてそれぞれのくににないものは、他のくにの女王が持っています。


 三人の女王は喜びました。自分のくににないものを他のくにの人が持っているので、自分のくにに持って帰るおみやげができたからです。




 やがて春は終わり、春の女王が『詩のないくに』に帰ります。

 春の女王は秋の女王から、とっておきの詩をもらいました。

 そしてそのお返しとして、夏の女王に歌をプレゼントしました。


 やがて夏も終わり、夏の女王が『歌のないくに』に帰ります。 

 春の女王からもらった歌をもって帰ります。

 素晴らしいプレゼントのお返しとして、夏の女王は楽器を秋の女王にプレゼントしました。


 やがて秋も終わり、秋の女王が『楽器のないくに』に帰ります。

 夏の女王からもらった楽器を持って帰ります。

 春の女王に詩をプレゼントしていたので、秋の女王はそのまま帰りました。


 のこされたのは冬の女王だけです。

 冬の女王は、『なんでもあるくに』なので、何も交換する必要がありませんでした。


 冬の女王はさみしい気持ちで、一人で塔の中にいました。



「どうして私には交換するものが『なんにもない』のだろう」



 冬の女王は涙をこぼしました。


 一人でいる事がさみしいのではありません。

 他の女王と仲良くなれなかったことが残念で仕方がなかったのです。


「私にも何か才能があればよかったのに」


 冬の女王のさみしさは、冬の寒さをいっそう厳しくしました。

 そしてもう次の春はやってこないのではないかというほどの、吹雪ふぶきを呼んだのです。


 冬の女王は窓から外を眺めました。

 白一色の世界です。


 しかしよく見ると、吹雪の中に小さな点が見えました。

 冬の女王は涙をぬぐって、もう一度その点を見ました。


 小さな点は、なんと見知らぬ女の人でした。

 しかもその女の人がこっちに向かってやってくるではありませんか。


 そして塔に辿り着いたかと思うと、冬の女王が住んでいる部屋のドアをコンコンとノックしてきました。

 冬の女王は恐る恐るたずねました。

 

「どなたですか?」

「冬の終わりを告げるものです」


 その人は一年が終わる事を教えてくれる人だったようです。

 冬の女王がドアを開けると、そこには、女王達にもひけを取らない美しい女の人が立っていました。

 

 しかし、女の人は怒った様子でした。


「冬の女王、あなたのせいで冬が終わらなくて、みんな困っているわ」


 冬の女王は、自分が泣くことで周りを困らせている事を初めて知りました。


「ごめんなさい」 

「冬の女王、どうしてそんなに悲しんでいるの?」

「私には何の才能もないんです。それで他の女王に心のこもったプレゼントを何もあげられなかったんです」


 それを聞くと女の人は首をかしげました。


「心のこもったプレゼントができないということは、あなたには心がないの?」

「あります」

「じゃあ、あなたにも心のこもったプレゼントはできるはずよ。同じ人間でしょう。きっとできるわよ」


 女の人のことばに、冬の女王はハッとしました。

 そして、もしかして自分にも何かできるかもしれない、と思い始めたのです。

 女王は胸が少しずつ熱くなっていくのを感じました。


「私、やってみたい事があったの」

「じゃあそれをすればいいじゃない。心をこめてね」


 冬の女王は決心して地下にある大きな部屋に行きました。

 そして『アイスピック』と『ハンマー』を使って大きな氷のかたまりをけずり始めました。


「女王がこんなことするなんて変かしら?」

「そんなことないわ。それじゃあ、がんばってね」


 女の人はそう言うと、塔から出ていこうと背を向けました。

 冬の女王は急いで彼女を呼び止めました。


「待って。あなたの名前を教えて!」


 女の人は半分だけ顔を振り向かせて言いました。


「私は『にがつの女王』」

「にがつの女王?」

「そう。にがつの雪と、きせつはずれの桜の花びらが交わる日に産まれたの。雪と桜が一緒に降るって変でしょう?そのおかげでどのきせつの女王にもなれなかったわ」

「そんなの悲しすぎるわ!」

「いいの。あなたをはげます事ができてよかったわ」


 そう言って、にがつの女王はさみしそうに吹雪の中に消えていきました。

 冬の女王は何とかにがつの女王の悲しさを吹き飛ばすようなものをを氷の彫刻ちょうこくで表現したいと思いました。


 それから冬の女王は毎日毎日、氷の彫刻ちょうこくけずり続けました。

 疲れたら休み、また元気が出たら作り始めます。


 いつしか吹雪は止んで、春が来ようとしていました。



 ある日のこと、冬の女王が疲れ果てたように地下室で寝ていると、去年の女王達がみんな一緒に戻ってきました。

 

「冬の女王。久しぶり」


 冬の女王が眠たい目をこすると、そこには春の女王、夏の女王、秋の女王がいました。

 3人の女王は、冬の女王が作り上げた氷の彫刻を見て驚きました。


「すごい!これあなたが作ったの!?」


 地下室の真ん中に堂々とそびえ立っているのは、氷でできた『桜』の彫刻でした。

 大きなみきは氷で、花びらはゆきの結晶で表現していました。


 冬の女王は立ち上がって、自信たっぷりに言いました。


「これは冬にしかない『桜』よ。これで冬でもお花見ができるわ」


 それを聞いた3人の女王は寒いことも忘れて、その氷の桜の下に座ってお花見をしました。


挿絵(By みてみん)


 しかし氷の桜はまだ完成ではありません。

 花の形をした雪の結晶が、まだ花開いていなかったのです。


 3人の女王はお互いの顔を見合わせました。

 そして何やらコソコソと話し始めました。


 しばらくすると、3人は冬の女王の方を見ました。


「私達、3人で一つの曲を作ったの」


 3人はそれぞれ詩、歌、楽器を持ちって、一つの曲を作り上げていました。

 春の女王は詩を、夏の女王は歌を、秋の女王は楽器を作って持ってきていたのです。

 どれも、最初はそのくににはなかったものです。 

 冬の女王のように、他の女王もいっしょうけんめいに作っていたのです。


 女王達は3人で作った曲を演奏えんそうしはじめました。

 不思議な事にその曲は、この氷の桜にぴったりの、美しくて元気の出る曲でした。


 3人が気持ちよく演奏していると、とつぜん氷の桜に付いていた雪の結晶がムクムクと大きくなって、花を咲かせました。


挿絵(By みてみん)


 そしてそれはやがて満開の桜になったのです。

 植物に音楽を聴かせるとよく育ちますね。それはこの氷の桜でも同じだったのです。


 3人の女王は冬の女王を見ていいました。


「これは私たち3人からのプレゼントよ。いいものを見せてくれてありがとう」


 冬の女王は思わぬプレゼントに喜びました。


「私もプレゼントの交換ができたわ!」


 冬の女王の夢は、思わぬ形でかないました。

 こうして4人の女王はとても仲良しになったのです。




 

 春が来て暖かくなると、あれほど見事に咲いていた氷の桜は、溶けてなくなってしまいました。

 しかし、冬の女王はガッカリしていませんでした。


「今度はもっとすごいものを作って、にがつの女王に見せてあげるんだ」


 冬の女王はこれまでと違って、次の冬が来るのを今か今かと待ちわびるようになりました。

 新しい作品ができたら、次の冬はきっと誰もさみしい思いをしなくて済むことでしょう。



 おしまい

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