あなたより好きな人
「思い出の中から」。
各行、「た」で終わらせてみました。
ブラバンではアンサンブルの楽しさを教えてもらいました。ひとりきりではなく、みんなで音を出し、その音がハーモニーになったときの気持ちよさといったら。
同級生のキミは器楽部の部長だった。
コントラバスを担当し、演奏でも部を支えていた。
ピツィカートもアルコも上手だった。
ボクはブラバンでテナー・サックスを吹いていた。
ときどき器楽部と一緒に活動した。
そしてキミと出会った。
文化祭の前だった。
文化祭では合同演奏を体育館で披露した。
ブラバンの友人から、キミがボクに興味を持っているらしいと聞いた。
なんだそれ、と思った。
友人の彼女は器楽部の子だった。
ボクはからかわれたのだと思った。
友人のセリフは聞き流した。
ボクはその頃いろいろ参っていた。
それどころじゃなかった。
或る日、友人とその彼女、キミとボクの4人で映画を見に行った。
初めて友人の顔を立ててやった。
投げやりに、まあいいや、と思っていた。
友人とその彼女は、明らかにたくらんでいた。
紅茶を飲んで解散した。
キミとボクは帰り道でようやくまともに話した。
どちらも告白はしなかった。
なのに、やがて彼女と彼氏になっていた。
ボクはたくさんの初めてをキミと分けあうことになった。
キミがボクを支えてくれた。
進学した後、ボクは精神的に不安定だった。
キミはボクにかなり手を焼いていた。
成人式が終わって、その年初めて会った。
『あなたより好きな人ができるなんて思わなかった』と言われた。
ドラマのようなセリフを初めて生で聞いた。
でもこれはリアルだった。
ボクは彼氏ではなくなった。
ますます不安定になった
果てしなく長い坂道を転げ落ちた。
転がりながら15kgほど痩せた。
これも初めてのことだった。
16/9/24 Sat. ~ 16/11/4 Fri.