咲いた花
生徒には目もくれず、教員がボソボソと教科書を読み、ひたすらに板書をする。
そんな退屈な授業がチャイムの音で終わりを迎える。
次回の内容などを軽く伝えて、教員は教室を出ていった。
教科書とノートを雑に机の中へ片付け、ボクは後ろを振り返った。
次の授業までの休み時間、友人と雑談でもして暇をつぶそうと考えたのだ。
友人は、組んだ両腕を枕にして机に突っ伏していた。
眠っているようだが、寝たふりだとも考えられる。
横からのぞきこみ、確認をする。
眠っているらしく見えた、かすかに寝息も聞こえてくる。
しかし、ボクをあざむくためにそれらしくしているだけかもしれない。
筆入れを友人の頭に乗せて、中から油性の黒い太マーカーを取り出した。
友人をながめ回し、落書きできそうな場所を探す。
友人の腕に一オクターブ分のピアノの鍵盤、白い鍵盤七つと黒い鍵盤五つでなる計十二個を描きいれた。
腕の鍵盤の『ド』を人差し指で押した。
反応は返ってこない。
いつもの友人ならば気を利かせてクチで音階を唱えてくれるはずだ。
これでもう寝ていると断言してもよいだろう。
ボクは小さくため息をついた。
『友人と暇をつぶす』ことをあきらめ、『友人で暇をつぶす』ことにした。
うろ覚えで一曲たたいてみる。
ど、れ、みー、ど、れ、みー、そ、み、れ、ど、れ、み、れー――
ぽんっ
と、いう音がした。
音の方向を見ると、席に座り談笑していた女の子の頭部にチューリップが咲いていた。
毒々しいほど赤い花だ。
当の女の子は話をすることに夢中で気がつかない。
相手は気がつき戸惑うが、話の中断を言い出せず聞き役をしている。
ボクは続きをたたく
ど、れ、みー、ど、れ、みー、そ、み、れ、ど、れ、み、どー――
ぽんっ
と、もう一本生えてきた。
透明感のある真っ白い色をしたチューリップだ。
聞き役の女の子は、驚きで大きくクチを開いて固まってしまった。
花の増えた女の子は、相手の様子なんて気にも留めずに話をヒートアップさせていった。
曲の終わりには、きっと赤・白・黄色のチューリップが並ぶはずだ。
だが、ボクはこの続きを知らない。残念だがここまでだ。
タイミングよく、次の授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。
友人が起きる様子はない。
花の生えた女の子も話を切り上げ、机に向かい授業の準備をはじめる。
その女の子の後ろに、聞き役だった女の子がいつのまにか回りこんでいた。
驚きの表情は影もなく、ニンマリとした笑みを浮かべている。
そして、手には太いカッターがにぎられている。
二本のチューリップをわしづかみにし、逆手に持ったカッターで勢いよく刈り取った。
刈り取った女の子は満足そうに自分の席に戻り机に花をかざった。
刈り取られた女の子は徐々にしぼんでしまう。




