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リアル~変われなかった男~

作者: 恵 輝

 俺は、バカだった。正真正銘のバカだった。俺はリスペクトしている人達に自分自身を見て欲しかったし、その人たちに追いつきたかった。

「先輩~またやっちゃっいましたよ」

「なになに。今度はなんだよ、浜井」

「いや~この前、駅に女の子いて声かけたら無視されて」

「で、無視されてなに」

「それでも、俺は女の子に声かけ続けたんですよ」

「え。それで」

「警察よばれました。マジ、リアルにしんどかった」

 俺は、そんなくだらない嘘をバイト先の加藤先輩に言った。先輩は驚いてくれて俺は嬉しかった。みんなが驚いてくれれば俺は救われる。たとえそれが作り話でも。

 実際に女の子は駅にいたけど、声なんてかけてないし警察も呼ばれてない。ただ見掛けただけだ。俺は自分でもなんでこんな自虐を言うようになったのかと考えた。

 小学生に頃、俺は学校に行きたくなくて良く母さんに愚図っていた。それは、俺が学校で目立たない存在で女子達に言われたあの一言からだ。

「浜ちゃんって、暗くない」

 正直がっかりしたし落ち込んだ。これじゃあ、俺の学生ライフはただの根暗な奴で終わってしまう。それから自虐を言って周りから目を向けてもらおうと、俺は必死にネタを考え始めた。

 大学で東京に出てから、それが余計に酷くなった。今まで洗濯も掃除も飯も母さんが面倒みてくれていたけど一人暮らしをしてからは何でも自分でしなきゃいけないし田舎から出てきて友達もいないし、初めての一人暮らしで心は病んでいた。

 ただ、大学で知り合った男友達を俺はリスペクトした。同じく地方出身なのに、音楽のセンスも良いし、顔もカッコいい。勉強も出来るし女の子からもモテル。

 俺はスゲーと思った。

 その人の名前は山木和也。俺はカズって呼ばせてもらっている。カズは本当にいい奴で皆に優しい。服のセンスもあるし、バイト先のスゲー美人の女の子と付き合ってた。

 俺はそんなカズに認めてもらいたくてまた自虐を言った。

「カズ。俺。彼女に捨てられたわ」

「なに、浜ちゃん彼女いたの?」

「まあ、地元の子なんだけど腐れ縁でさ」

「へぇ~。で、なんで捨てられたの?」

「いや~。この前実家に帰ったら彼女が遊びに来てさ、些細な事で喧嘩になったんだよ」

「うんうん。それで何些細な事って」

「いや~。昔の女のピアスがベッドにあってさ・・・」

「マジ!それは元カノ怒るんじゃん」

「で、彼女がこれ何、誰のってキレて怒ったからさ、この前、女友達上げた時落としたんじゃんって嘘ついたら何で遊びに来ただけでベッドに落ちているのってキレてさ」

「そりゃ。言い訳にしか聞こえないわな。浜ちゃんそれマジごめん浜ちゃんの嘘って超苦笑だし」

「いや~リアルにきつかった・・・・」

「で、元カノどうなったの?」

「部屋飛び出しちゃっさ。俺一応追いかけたけど」

「マジ~。追いかけてどうなったの?」

「どうせ、俺は東京、あいつは地元だしまあいいかって思って小声で「あゆみ~待てよ~」って言っておいたけど多分あいつには聴こえてないね」

「マジ!そりゃ~浜ちゃん元カノ可哀相じゃん」

 やっぱりカズは食いついてくれた。俺は嬉しかった。嬉しかったけどカズがアパートから帰った後スゲー虚しくなった。

 それから俺は地元でも美人で有名だった女の子に久しぶりにメールしてみた。この子は地元で人気のあった子で俺もひそかに好きだった。

『俺、今大学で東京』

メールを送信して一時間後返信が来た。

『ねえ。久しぶりに話さない』

『オッケー今からかけるね』

 俺は速攻で電話をかけた。

「もしもし」

「あ。浜ちゃん元気にしている?」

「あー相変わらずだよ、でそっちは?」

「うん・・・・・」

 深雪は元気がなかった。昔から深雪は元気も良いし明るい子だったはずなのに久しぶりにかけたらスゲー暗かった。俺は笑わせてやりたくなった。

「なーに元気ね―けど。どうかしたん?」

「うん・・・・彼氏に殴られているの」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 俺はかける言葉が見つからなかった。普段くだらない嘘で皆を笑わす事は出来てもリアルに辛い深雪の事実を聞いて絶句していた。

「もしもし。浜ちゃん聞いてる?」

「うん。聴こえている」

「殴られて歯折れたの。これから歯医者に行くんだけど。別れた方が良いかな」

「そりゃ、暴力はいかんせんダメだよな」

「でも、私のお腹に彼氏の子いるの」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 俺は思ったマジかよ、マジでかよ。リアルにそれってしんどくないかって。俺はそんな可哀相な深雪に少しでも元気になって欲しくてホットな話があるって言って切り出した。

「ねえ。深雪。実は俺もきついんだわ」

「何かあったの?」

「う~ん。今バイト探してて、面接行ったら面接官にスゲーしんどい顔されてさ」

「え、なんで」

「俺、前の夜ニンニク食ってんだよ。それすっかり忘れて面接行ったら軽く落とされたわ」

 深雪は笑った。

 大きくは笑わなかったけど少し明るい深雪に戻って来てくれた。俺はスゲー嬉しかった。深雪は電話を切る時にこう言った。

「浜ちゃんありがとう」って。

 俺はそれからも、カズと深雪とは限らず年中人にホットな話題と称した自虐ネタを言って笑わせていた。俺は、深雪の事が気になってまたメールをしてみたんだ。また、面白い自虐ネタを考えたから深雪に聞かせてやろうと思った。

『今、暇?』

メールは十分で返って来た。

『うん。暇』

 俺は、電話をかけた。

「もしもし」

「あ~浜ちゃん」

「深雪。こないだはビックリしたよ」

「あ。子供の事」

「うん」

「で、どうしたあれから」

 深雪は、やっぱり暗かった。そりゃあ彼に殴られてそいつの子供を宿しているとなれば暗いよな、と俺は思った。

「うん。子供。おろした・・・・浜ちゃん私どうしよう・・・赤ちゃんおろしちゃったよ」

 深雪は泣いた。俺は掛ける言葉も見つからなかった。俺は後悔した深雪に電話をしなきゃよかったと思った。こんなリアルな事聞かされても俺にはそれに対応できる話術はない。   

 俺は切り出した。

「俺もしんどかった~」

「浜ちゃんも?何かあったの」

 深雪は涙声で俺に聞いてきた。俺は今まで温めておいた最大のネタを使った。

「俺、この前大学の連中と温泉行ったんだよ」

「それで」

「うん。混浴だったから、連中の一人が女の子に手を出しちゃってさ」

「はあ?本当に?」

「うんうんマジマジ」

 食いついた。やっぱりホットに温め話題は今の深雪にだって通用するんだ、さすが俺。

「で、仲間の一人が俺に『浜も女とヤレ』って言ってきてさ」

「え――――」

「俺、思わずヤベーって思って、若い女の子じゃなくて、知らない婆さんに抱き着いちゃったんだ」

「え・・・・知らないお婆ちゃんに・・・・」

「なんでお婆ちゃんだったの?」

「俺、EDなんだよ実は・・・・・」

 深雪は黙った。黙った後に深雪の口からとんでもない事を聞かされた。

「浜ちゃんさ、昔から思ってたこと言っていい?」

「うん。いいよ」

「浜ちゃんの言ってることって、私思っていたんだけど、注目浴びたいから作った自虐ネタでしょ」

「えっ・・・・・」

「そんな不幸なんて早々起きないじゃん普通・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 俺は泣きそうになった。深雪とは限らず皆そう思っていたのかと思うと、今にも涙が零れそうだった。そして深雪は続けた。

「そんなんじゃ就職も会社でもこれから彼女ができても浜ちゃんはただのピエロで終わっちゃうよ」

 俺は、深雪に言われて自分が可哀相になった。

 確かに、そんな不幸なんて起きないのかもしれないけど話として聞いてくれれば良かったのに、深雪はいくら自分がしんどい思いしているからってそんな言い方はないと思った。でも、俺のそんな言い分、深雪には通用しないと思って「しゃーねー、しゃーねー」ってお茶らけた。そしたら深雪は、こう続けた。

「浜ちゃんってさ、本当にバカだよね。本当に苦労している人を馬鹿にしているのと同じだよね」

「やむおえね―――」

 俺はそれしか言えなかった。深雪の言葉は本当にきつかったし、しんどかった。深雪はそれでも続けた。

「浜ちゃん絶対、そんな生き方してたら就職も蹴られるし彼女も出来ないよ。ってか、浜ちゃんもう電話かけて来ないで。最後に言うけど、自分に正直に生きたら。じゃあ切る」

 俺・・・・・・リアルにしんどい・・・・。あの頃は、深雪にしんどい言葉浴びせられても自分を慰めるのでいっぱいだった。結局、大学を卒業しても就職活動しても全滅だった。

 彼女も出来ず深雪が言ってた通りになっている。俺のせめての救いは風俗のお姉ちゃんが慰めてくれることくらいだ。

 そんな俺も、今年で三十一になる。俺は、この年まで何も変われなかった。

 そして、この歳で俺はニートだ。



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