9 メイドさん達による強制お着替え
王様と、午後のティータイム。
美味しい紅茶と甘いケーキ。ああ、なんて贅沢な時間なんだろう。
こんなに優雅な暮らしをしていていいのかな、って申し訳なく思う。
このまま居候してていいのかな。まだ部屋から出たことはないけど、ここってお城? 王様が住んでるところなんだからお城だろうな。
部屋の中はピカピカとか豪華絢爛って感じじゃなくてほっとしてる。
でも布団はふかふかだし、実用的な良いものが置かれているのは分かる。
こんなとこにタダで居座って、後から何日分かの宿泊費よこせって言われたらヤバい。お金はない。でも、タダより高いものは無いって言うよね。
見返りはなんだろう。
彼らが私を保護する理由は。
やっぱり私が異世界から来た珍しい人間だから? 女神だと思われてるんだっけ? 私。人間ですらないのか。
戦争で利用するためって考えるのが自然かな。もう、人を殺すの嫌なんだけど。
拒否権、あるのかな。
女神であることを否定して、普通の人間としてここで生活するとして。
どうやって? どこで働く? 私を雇ってくれるとこなんてある?
っていうか、いつまでこの世界にいるんだろう?
いつ、帰れるんだろ?
そもそも、帰る方法、あるの?ないの?
「キラ? キラ?」
ハッと気がつくと、目の前、あと1センチでぶつかるほどの至近距離に王様の美しい顔があった。
「どうした? どこか痛いのか?」
「いえ。大丈夫です、王様。そして、顔が近いです」
どうやらぼんやりしていたらしい。
心配顔の王様は、フォークに刺したチョコレートケーキをあーんと私の口につっこんでくる。
もぐもぐ。はあ、美味しい。
甘過ぎない、でも濃厚なチョコ。絶品です。
最後のひとかけを食べ終えると、マアサがおかわりを尋ねてくる。
毎回言うけど、そんなに食べれません。
一緒に食事をすると、王様やマアサさんにそんなに少ししか食べないのかと驚かれる。毎回。
遠慮するなと何度も言われたけど、遠慮してるわけではなく本当に満腹なんだと分かってもらうのに苦労した。
一度、無理してちょっと多めに食べたら気持ち悪くなってしまって、よけいに心配された。もう自分の許容範囲以上には食べるまい。
別に病的なほど小食でもない。小柄だからこれで普通だと思ってるのに。
まあ、心配して言ってくれてる人相手に、「うるせーほっとけ」とかは言えないから、オブラートに包んで何度も言うしかない。
紅茶を飲んでほうっと一息。まったりしていると、王様がぽんぽんっと頭を撫でてきた。
「もう動いても大丈夫だな」
「はい。シーリスさんも散歩から始めてくださいって言ってくれました」
「お前に会わせろとうるさい奴らがいてな。少しの時間なら問題ないだろう。おい、マアサ、キラに楽な外出着を」
はい、と脇に控えていたメイドさん達が前に出る。
え?
いつの間にこんなに人数いた?
マアサが白いドレスを手ににっこりほほ笑む。
「大丈夫ですわ、キラ様。今日はまだ本格的なドレスはお召しになられません。簡単なものですから」
ね? とにじり寄って来る笑顔がコワイ。
「ま、待ってください! わたしっ、じぶんで」
「さあ、キラ様、お召し替えいたしましょう!!」
私の声はメイドさん達のきゃぴきゃぴした声にかき消された。
「きゃあ! きれいなお肌!」「わたくしにも触らせてくださいませ」
「うらやましいですわ」「きゃあ」
「真っ白ですべすべ。お化粧はいりませんわね」
「この肌に傷を付けるなんて、本当に殿方は野蛮ですわ」
「どうかもうお怪我をなさりませんよう」
「まあ、細い腰。正装の時にもコルセットはいらないくらいですわね」
「スタイル抜群ですわね、キラ様」
「髪も目も黒でいらっしゃるから、どんな色も合わせられますわね」
ぎゃあーーー! なにこれ。
ナニコレ。私はどこに連れてこられてしまったの?
これも異世界トリップのお約束、メイドさん達にひん剥いて着替えさせられるってやつ?
ぎゃああ! マジやめろ!
ちょっと、脱がして着せるだけなのに、触りすぎ!
撫でないで! くすぐったい!
オカマバーに迷い込んだ、いたいけな少年みたいな気分。イジられまくり。
ああ、よく分からない例えをしちゃった。
もちろん、行ったことないよ。オカマバー。想像ね、想像。
着替えが済んだ時。何人ものお姉様メイドさんにお触りされて、私の体力は
ほぼゼロになった。
ぐったりしてる私を見て、大丈夫かと王様に抱き上げられる。
周りから「きゃあ!」と黄色とピンク色の歓声が上がる。
なにココ。アイドルのコンサート?
もう、どうにでもして。王様に降ろしてを言う気力もない。
「王様。私、次から着替えは一人でしたいです」
「あっはは。まあ、あれも彼女らの仕事だ。慣れろ」
私の訴えは笑い飛ばされた。
ちょっとぉ! 冗談で言ったわけじゃないんですけど!
本気の訴えなんですけど!
笑ってゴマかすなよ、コラ!