7 イケメン魔導師と精霊
結論から言うと、なんと私には風の精霊がついているらしい。
ついてるって言うと、取り憑いてるみたいでなんかコワイけど。
守護霊みたいなものだって。わお。
「上位な風の精霊の、かなり強い加護を受けているよ。
傷が浅かったのも、軽い身のこなしも精霊の力が大きいと思うな。あと、傷の治りが早いのも」
キースの言葉に納得する。
あの時、何度も見えない力に助けられた。紙一重で敵の攻撃を避けられたり、敵の剣の切っ先に乗ったりもした。
女の力でガタイのいい男達を倒せたのも、風の精霊の助力があったからだと考えると納得いく。
あり得ない動きしてたもんね、私。
「風の精霊、どうもありがとう」
目を閉じて、見えない相手にお礼を言った。
こうして命が助かったのも、精霊のおかげだっていうならお礼は言わないと。
「どういたしましテ!
デモ、いっぱいけがさせちゃって、ゴメンネ」
カワイイ男の子の声がしたかと思うと、突然、びゅうっと風が私の周りで渦を巻き上げた。
「きゃあ」
驚いて目を閉じたけど、目を開いて、もっと驚いた。
目の前に、絵本に出てくる妖精みたいな男の子がいた。小学1年生くらいの。
私が目をパチパチさせてる間にも、男の子はきゃっきゃと笑いながら私の周りをくるくると回った。
「あえてウレシイ! ずっと、あいたかったカラ」
「うわあ、ファンタジー万歳!
すごい可愛い! 風の精霊って、シルフ?」
男の子は目がぱちくりっと大きくて、にこにこ笑っていてすごく可愛い。
テンション上がって思わずバンザイなんて言ってしまった。
ゲームとか小説とかで一般的に使われてる風の精霊の名前って、通じるのかな?
「しるふー? それ、ボクのなまえ? うれしいナ、わあい!」
男の子はエメラルドみたいな瞳をさらにキラキラさせて、はしゃいで私の周りをぐるんぐるんと回る。
ちょ、それ、地味に目が回って気持ち悪いから! やめて!
風の精霊に気を取られていてすっかり忘れていた王様達に目をやると、つい吹き出して笑ってしまった。
「ぷっ。王様もキースもどうしたんですか? 固まっちゃって」
二人は読んで字のごとく、目を大きく見開いて口をぽかんを開けて、ピタリと固まっていた。
「信じられん。すごいな」
「風の精霊が、実体化してる。そんな、可視レベルまで密度を上げてる? そんなことが!」
ほうっと感動している王様と、ブツブツ一人でなにか物思いに耽るキース。
状況がつかめずに首を傾げると、キースが説明を始めた。
「キラちゃん。精霊は普通、目に見えないんだ。僕達、精霊魔法を使う者でも、精霊達が多く集まっているのを感じることができる程度で、精霊とは実体のないものだと認識してる。いえ、そう思ってた。
でも、今、君のそばにいる風の精霊は実体化している。
すごい!触ることは可能なのかな・・?」
キースの手がすうっと伸びてくると、「イヤん」とかわいく拒否って風の精霊シルフは私の後ろにささっと隠れた。
肩に乗っているようでも重さはない。
「ずいぶんとキラに懐いているな」
王様が感心するように言うと、シルフはえっへんと胸を張った。かわいい。
「だって、ボク、リィのために ココにいるんだモン。
ね、リィ、しるふってボクにつけてくれた なまえ?
だったらボク、ずっとリィのそばに いてもいい?」
え? りいって私のこと?
凛子って本名知ってんの? え?
なになに? 分からないことが多すぎてついて行けない。
「精霊に名前を付ける行為は契約なんだ。
文献でしか見たことないけど、契約を交わした精霊は、その身を尽くして契約者を守り、力を貸してくれると書いてあったよ。すごいね。
精霊との契約!!すごすぎる!」
キースが興奮しちゃってシルフが怖がるから、悪いけど王様とキースにはちょっとの間、退室してもらった。
「契約なんてあるんだ。なんか、ごめんね、勝手に名前をつけちゃって」
風邪の精霊の子に謝ると、にっこーと満面の笑みで返された。
「ウウン。ボク、リィと ケイヤクしてもらうために きたんだモン」
「え?そうなの?」
「ウン」
なんか、あっさりと頷かれるけど、契約って言葉、裏がありそうでなんか怖い。
代わりに命を差し出せーとか、なんかあるんじゃないのって疑っちゃう。
まあ、この純粋そうな精霊に限ってそんなことはないか。と思いたい。
それに今は味方が多い方がいい。
何があるかわからないし。
「ありがと、シルフ。でも、命を懸けて守ってくれるのは止めて欲しいな」
自分のせいで誰かが死ぬなんて、まっぴら。
そういう重いのは勘弁して欲しい。
「ええー? なんで? ボク、リィを まもりたいよ」
「シルフが死んじゃったら悲しいから。それを約束してくれるなら契約するよ」
途端にぱあっとシルフの顔が輝いた。
さっきまで首を傾げてたのに。ちゃんと話、分かったんでしょうね?
「えへへへー。よろしくね、リィ。
ボクは ねてたり、サンポしてたり、いろんなとこに いってたりするケド、
リィがよんだら、いつでもトンデくるからネ。
いつでも、そばにいるヨー。いつでも よんでネ」
ふふふとうれしそうに笑って、シルフは姿を消した。
そしてその後、戻ってきた王様とキースに、精霊との会話とか契約についてアレコレ聞かれた。
キースの目に興味津々って書いてあったよ。ホント、ランランしてた。
引くわぁ・・。
あまりの加熱ぶりに、王様がストップを入れて部屋から追い出してくれた。
「すまんな。あいつは精霊の研究をしていて。研究バカなんだ。
精霊のこととなると周りが見えなくなるんだよな」
遠い目でそう言われた。
はあ、そうですか。
イケメンで研究オタク眼鏡。急に残念感が高まっちゃったなあ。
契約のことはよく分からないけど。
右も左も分からない異世界の中で、いつでもそばにいるよ、なんて言ってくれる存在があることは心強いものだ。
いつまでのものかはわからないけど。
試しに「シルフ」って呟いてみたら、本当に目の前にまた男の子がひゅるっと風をまとって飛んで来た。
「なになにー?」キラキラした目で私を見る。
あ、ごめん。呼んでみただけ。
顔が見たくなったから、呼んだだけだよって言ったら、
「わあ、うれしいな!」
って無邪気な笑顔をもらった。
ナニこの子、癒されるわあ。かわいいー!