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5(アル)惹かれる

女神が目を覚ました。

俺の顔を見て天使だとか、ここは天国なのかとか、もにゃもにゃとハッキリしないことを言う。寝惚けているな。

戦場で見せた猛々しい姿とはあまりにもかけ離れていて、同一人物とは思えない。

ごく普通の、幼い少女だ。

声も仕草も、とても愛らしい。


戦場を思わせる言葉を発してしまい、それを聞いたとたん、彼女はサッと青ざめた。身体をがたがたと震わせ、吐き気を催す。

この感じは知っている。

初めて戦争に行った者は、戦地で見た地獄を決して忘れられない。

日常の中に戻って来てからも度々襲われる、悪夢の残像。


可哀想に、少女は気を失うようにまた眠りについた。失言だった。





漆黒の髪が布団に広がる。今は閉じられているが、さっきまで開いていた瞳もまた、吸い込まれるような漆黒だった。


我が国の民には無い色だ。

女神の色なのだろうか。





せっかく意識が戻ったと喜んだのも束の間、傷のせいか発熱した。

命も危ぶまれるほどの高熱だ。

風邪も怪我も重症のものは精霊魔法で治すのが当たり前なので、魔法が効かない彼女の看病には医者の二人も頭を抱えた。

どうにか昔の文献を探して、原始的な治療を施すが、とても効果があるようには思えない。

彼女の体力と自己治癒能力に懸けるしかない、と薬湯だけを飲ませ、傷口の包帯を毎日新しいものに替えた。

無数に傷の散らばる白い肌は痛々しかったが、そのほとんどが軽い傷なのが救いだ。数が多いので小さな傷でも油断できないが。






「王様、私達がついておりますから、お休み下さい」

シーリスが不安げな顔で俺に言う。しかし、俺も女神の側を離れているのは不安だった。もしも俺がいない間に容態が急変したら?心配でたまらない。


「どうせ、書類の事後整理だけだ。ここでやっても変わらない。ちゃんと睡眠はとっているから心配するな。

それよりお前達には看る患者がたくさんいるんだろ?こちらは俺に任せろ」


半ば無理矢理に、彼女を自室に運び、巨大なベッドに寝かせた。

ますます彼女の小ささが強調される。


始めは死んだように深い深い眠りについていたようだが、最近は何度も何度も魘されているようだった。


撫でてやったりそっと抱きしめてやると、次第に落ち着き、また眠る。

それの繰り返し。





少しずつではあるが、日々回復している。

目を開けても意識はあまりはっきりしていないようで、身体を支え、匙で薬湯を飲ませた。

うつろな表情で、ぼそぼそと小さく何か呟く。

耳を近づけると、「ありがとう」と。

感謝の意を伝えるのは俺の方だと言うのに、何度も、掠れた声で囁かれた。




頭を撫でてやると、うっとりしたように目を伏せる。

なんと、可愛らしいのだろうか。




大きな傷がふさがってきたので、包み込むように抱きしめて俺も眠った。

回復魔法は効かないが、普通の人間より怪我の治りが早い。やはり人ではないのだろうか。

小さな傷もどんどん治って、すっかり綺麗な顔になった。

白く、滑らかな肌だ。


小さくて頼りないが、少女の身体はあたたかく、ふわふわと柔らかかった。

悪夢から守ってやろうと添い寝を始めたが、俺の方が熟睡してしまった。







そしてついに、少女が目を覚ました。

今までにも目は開いている時間はあったが、本当の意味での目覚めだ。


俺の腕の中でもぞもぞと動いたと思うと、真っ赤に頬を染め逃げようとした。

もちろん、離さなかったが。

少女の漆黒の目はキラキラと輝いて見えた。生きている光だ。

表情もくるくると変わって見ていてあきることがない。


少女は小さな身体をピシッと正し、深々と頭を下げてお礼を言った。

俺の目を真っすぐ見る、その態度。

幼い姿形からは思いもよらぬ、思慮深いものの言い方。

すべてに惹かれた。

戦いの中で生きてきた俺にとって経験したことのない初めての感情だ。



彼女の話は聞けば聞くほど信じがたいものだった。

この世界とは別の、違う世界から来たと言う。そんなものが存在するのか?

だが、彼女に嘘を言っているような様子はないし、そもそもそんな嘘をつく必要がない。

それどころか、彼女・・キラは、自分が女神だということも否定し、もしも状況が違えば味方ではなかったとまで言い切った。

驚くほど真っ直ぐな姿勢だ。



どちらにせよ、今、俺の手元にいるのは事実。


キラのために最善を尽くそうと思う。



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