番外編 真っ白なドレスと誓いの指輪 2
マアサも他のメイドさんも出て行き、アルと二人きりになった途端、ガバリと抱き着かれる。
「ぎゃあ!」
驚きすぎて変な叫び声が出てしまった。
アルはお構いなしにぎゅうぎゅう抱きしめて、何がそんなに楽しいのか、ニコニコ笑ってる。
「ちょ、アル!」
「リン。リンの花嫁姿はきっと女神のように美しいだろうな。楽しみだ」
だから、そういうキザったらしいセリフをサラッと言うなっつーの!
アルは私から体を離し、傍のワゴンからリコの実のジュースをグラスについだ。
ソファに座るアルが私を手招きするので横に並んで腰を下ろした。
二人してリコの実ジュースを飲みながらまったりする。
「・・・リン。リンのいた世界では、婚礼の儀はどのようなものだ?」
「うーん、そうねえ。花嫁さんは白いドレスを着てー、えっと、なんだっけ。
誓いのキスをして、ブーケトス・・花嫁が持ってる花束を皆に投げるの。
それを受け取った女の人は次に結婚するーとか言ってさ」
「良いじゃないか。黒髪に純白のドレスか。それに花束を持つのだな。マアサに言っておこう」
アルは私を抱き寄せ、腰にぐいっと腕を回す。
密着し過ぎ! キラキラしたアルの王子様スマイルは近過ぎるとまぶしいんだってば!
「他には?」
「あとは、うーん、指輪を交換することかなあ」
「指輪か。いいな」
「あ、でも、何もついていないリングだけのシンプルなものなの」
こっちの世界での指輪は女の人だけのもので、キラキラ輝く石がついているのが一般的だ。
結婚指輪とかはそんなイメージじゃないよね。
「ペアリング・・対になってる指輪は二人ともずっと外さないの。だから、余計な装飾はいらない。ゴテゴテしてると日常生活に邪魔でしょ?」
「なるほどな。男も嵌めるのか。それは素敵だ。夫婦の証だな」
「まあね」
・・・うちの父親は嵌めてなかったけど。
母親はギラギラした宝石のついたものを日替わりで嵌めていたし。
夫婦の証なんて、聞いて呆れる。
「特注品だから時間がかかるな。さっそく貴金属店に注文しに行こう。
で、それができた頃にはドレスもできているだろう。そしたら婚姻の儀だ!!」
ちょっと荒んだ気分になった私を置いて、アルは盛り上がりまくってる。
「ちょっと、アル。落ち着きなさいよ。別に私の世界の結婚式を再現する必要なんかない。こっちの世界の・・この国のやり方でいいわ。憧れとか、別にないし」
「いや」
アルは私の両手を包み込むように大きな両手で握りしめ、真っ直ぐに私を見つめた。
「お前はこの世界で、この国で、俺と共に生きる道を選んでくれた。
しかし、向こうの世界で生きて来た十数年は、決して短いものではなかっただろう。
幼い頃はどんな子どもだった?
昔から剣術を習っていたと言っていたな?
どんな風に暮らしていた?
リンが嫌じゃなければ聞かせて欲しい。お前のことなら何でも聞きたいぞ」
「なっ・・」
相変わらずの、どストレート。キラキラした目は宝石みたいに輝いてる。
「お前の話を聞いて、イイと思ったからそうしたいと思っただけだ。
この国の婚姻の儀はつまらないぞー。ドレスは着るが、あとはただの宴会だ」
「そう、なの?」
「二人で対の指輪を嵌めるというのが、特にイイな。
リンが俺のものだって誰もが分かる」
アルはますます嬉しそうに私を抱きしめ、大きな腕で囲い込む。
暑苦しいけど、この腕の中は私にとって心地良い空間になってる。
もうずっと前から。
私も腕を回して抱きしめ返すと、アルはいつも本当に嬉しそうに笑う。
喜怒哀楽の表情が豊かな男だ。
王様なのにこんな性格でいいのかって思うけど、こういう奴だから、皆がアルを慕っている。
オモテ裏のない、素直な人間だから。
こーんなに捻くれた性格の私は、アルのバカ正直な性格にどれだけ救われてるか分からない。
コイツの前では、虚栄を張ることもいらないし、自分を偽る必要もない。
どんな私の姿を見たって、きっと・・・好きだーアイシテルーとか言うんだろう。
だからたまに私もつられて・・バカみたいなこと、言っちゃうじゃないの。
「・・・アル。アルのすべても私のものよ」
「ああ、勿論だ」
くくっと至近距離で笑い合い、吸い込まれるように唇を重ねた。
熱い、熱いキス。
精霊の名の元になんとかかんとかーって愛を誓われた日から、アルとのキスは激しいものになった。
キスってこんなに息がゼイゼイになるものなの!?って抗議したぐらい。
恋愛経験ゼロな私は、悔しいことにアルに翻弄されてばっか。
アルの舌が私の口の中で動き回る。
いつもはここで苦しくなって息継ぎのために離せって腕を突っぱねるんだけど、今日はなんだかこのまま終わるのは悔しい気がして反撃に出た。
アルの首に手を回して、私の方から舌をアルの口の中に攻め込んだ。
驚いたのか、アルの身体が一瞬強張る。
その反応に気分を良くした私は舌をさらに動かす。アルの歯をなぞり、舌を引っこ抜く勢いで吸い付いてやった。
その途端。
ぶわあっと身体が浮かんで、視界が揺らぐ。
「んっ・・、ッ?」
天井と、アルのどアップが見える。その目は分かりやすく熱に浮かされてて、私を見つめている。
え?
待って。そういう雰囲気になっちゃった!?
焦って手で突っぱねようとするも、呆気なく片手で両手をまとめあげられてしまった。
「アル、待っ・・」
「待てるか! もう十分待っただろう。リン」
確かに。
・・・初めてディープキスをした時・・アルはそのまま普通の流れで夫婦の営みにうつろうとした。
もちろん、そんな急展開についていけない私は「ちょっと待って」とお願いした。
お願いというか、叫んで、ちょっと殴ってしまった。そのくらい驚いた。
あまりの私の混乱っぷりに、アルはしぶしぶ了承し、キス止まりでいてくれたんだけど。
そっから今日までなんだかんだで数ヶ月経ってる。
分かってる。我ながら、勝手だとも思ってるよ。
一緒に寝たい、抱きしめて欲しい。でも、その先はちょっと・・・とか。
生殺し状態だよね。私は悪女か。
キスが気持ち良いのも、キスで身体が熱くなるのも自覚してる。その先に進みたいって心の中では思ってるって。
ただ、「えっちしてもいいよー」とか言えるわけない。
恥ずかしくてズルズルと今日まできてしまっただけなんだよね。
私は少し頭を浮かせて、目の前にある綺麗な男の唇にキスをした。
もちろんエロいやつ。
「ねえ、こんな風に拘束されてヤる趣味はないんだけど。アル?」
アルは目を瞬かせた後ニンマリと笑い、私は自由になった手で思いっきり抱きついた。
キス、キス、キス。
アルは器用にキスしながらするすると私の服を脱がしていく。
「この日を待ちわびたぞ、リン。俺の女神。・・ああ、お前は本当に美しいな。全部、見せてくれ、もっと」
恥ずかしい!
・・と思ってたのは最初だけ。
アルの両手が私の身体を触り始めると、・・・もう、なにがなんやら。
とにかくアルの、「リン、リン、愛してる」ってバカの一つ覚えみたいに何度も何度もささやく声が脳みそを揺すって、身体が熱くなって・・・ぐにゃぐにゃに溶けるかと思った。
マジで、ヤバかった。