番外編 真っ白なドレスと誓いの指輪 1
番外編は五話完結予定です。お楽しみください(^。^)
「婚姻の儀を行いましょう。キラ様。盛大に」
「え?」
突然背後でキッパリと断言されて、私は後ろのマアサを振り返る。
マアサは長くなった私の髪を結い上げ、にっこり微笑みながら鏡の中の私に向かって話す。
今日は外に出る用事がないから、とマアサとメイドさん達に捕まってドレスや宝石で着飾って髪をいじられて遊ばれている。
疲れるけど、私も女だし綺麗なものや可愛いものは嫌いじゃないから、まあいっかと思って好きにさせてる。皆きゃっきゃと楽しそうだし。
「こんなにお美しくなられたキラ様を、隠しておくなんて勿体無いですわ。
せっかく、キラ様のおかげで国同士の諍いがなくなり、穏やかな毎日が続くようになったんですもの。
先延ばしにされていた、婚姻の儀を執り行うべきですわ。
国中の皆さんも、キラ様とアルファ様との婚礼姿を心待ちにしておりますのよ」
熱く語る鏡の中のマアサをぼんやりと見る。
・・・婚姻の儀ねえ。なんか、今更って感じだけど。
私とアルが将来を誓い合ったその数時間後。
アルはすぐに婚姻書を持ってきて、署名して神殿に提出しに行った。
仕事、早ッ!
ラビさんや大志、神官達に加えて、どっから湧いたのかキース師匠やジェイも、騎士達もわんさか集まって来て、神殿は人で溢れた。
たくさんの皆に「おめでとう」の言葉と祝福の祈りをもらい、そのまま流れで宴会となった。
騎士達はおめでとうございますうと叫びながら泣きじゃくって酒をがぶ飲みしていた。
お酒に強いアルが酔っ払うくらい、その日の宴会は飲めは騒げのどんちゃん騒ぎになった。
実感も何もないけど私はアルと夫婦になった。
とは言え、初めての体験。当たり前だけど。一体、何をしたらいいんだろう。
男なんて興味なかったし、まして結婚なんて、両親を見てて夢も希望もなかった。夫婦のイトナミとか、そういうの知識が何もない。まあなんとかなるのかな。どうなのかな。
とか私なりに色々考えてた。
なのに! ところがどっこい。
その後、アルが他国との平和協定の交渉で出掛けたり、大雨が降って何軒もの民家に被害が出て、その後処理に追われたりと、トラブルがやたら続出。
婚姻の儀とか、それどころじゃないって感じで、アルも私もバタバタと駆け回る日々がしばし続いた。
これが敵襲だったなら、ふざけんなってブッ飛ばしに行くんだけど、天災に文句もつけようが無い。
それが落ち着いたのが先週ぐらい。
ようやくのんびり街を散歩して買い食いしたり、広場で子ども達と遊んだり、アルと一緒に楽しむ時間が持てるようになった。
そこに来て、マアサのこの提案。まあ、わからなくもないけど。
なんか、タイミングを逃した感があるというか、正直ちょっともういいんじゃないかって思うくらい。
・・・なんて、こんな期待に満ちた目で見られたら口が裂けても言えないんだけど。
「そうね、そろそろ皆落ち着いたみたいだし、やってもいいのかな」
「きゃあ!」「ドレスはどんなものがいいかしら!?」「すごいですわ!」
メイドさん達がわっと黄色い歓声を上げる。
「キラ様、それでは、そのように、進めて行きますわね」
マアサの輝かんばかりの笑顔がコワイ。
この顔、マナー講習の鬼教官の時の顔じゃんか!
ビシバシ扱かれた地獄のレッスンを思い出してブルリと震えた。
「お手柔らかに・・お願いします」
髪と服が仕上がると、バンとドアが乱暴に開いて、肩で息をしたアルが私めがけて突進してきた。
鬼気迫るその様子に、思わず逃げようとするもののアッサリ捕まった。
ちょ、抱き上げるなっつーの!
「もう、アル!」
「リン! 婚礼の儀を執り行うぞ! 二週間後くらいか? ああ、もう待ち切れないな。明日にでもやりたいぞ」
明日!?
気が早い! 突っ込もうとしたら、マアサが後ろから冷ややかな目で王様に進言した。
「アルファ様。わが国の歴史に残るような盛大な行事の支度を舐めないでくださいませ。
会場の準備、食事の準備、皆さんを招待する手はず。そして何よりも花嫁花婿の衣装! これらは今日明日では用意できませんわ」
「あ、ああ。わかってるわかってる。そのくらいの気持ちってだけだ。そう怒るなよ」
アルもマアサには逆らえない。なんだろうね、マアサって最強なんじゃないかな。
「それでは、キラ様。私共は一旦退席させていただきます。
用がございましたら、遠慮はいりませんのでお申し付け下さいませ」
「ええ。わかったわ」
深々と綺麗な淑女のお辞儀をしてドアから出て行くマアサ。
ひょいっとドアから顔を覗かせ、にっこりと私に向かって笑う。
「婚礼の儀は女の子の憧れですわ。キラ様。希望する形がありましたらアルファ様にお伝え下さいませ」
「は、はあ」
アコガレ、ねえ。
そんな、夢見るオンナのコみたいな、可愛い性格してないんですけどー。