40 未来はきっと
最終回です!
この前、国境で小さな争いがあって、アルと一緒に出向いた。
敵はすぐにぶっ潰したんだけど、ちょっと怪我をしてしまった。すぐそばにいたのに私に怪我させてしまったとアルがすごく落ち込んだ。
とはいえ、今回の怪我も三日くらいですぐに治った。
治ったのに。もう痛くないって言ってるのに、アルは私を抱っこして移動するし、ご飯もあーんって食べさせようとする。
・・ちょっとウザい。
夕飯のスプーンを返してくれないアルに、いいかげんにしてよっと怒ってやった。
「ちょっと、アル。もう大丈夫だってば。親鳥じゃないんだから、雛鳥にするみたいに甲斐甲斐しく世話焼かないで」
「リン。俺はお前の親になったつもりはない」
冗談で言ったのに、真顔で返された。
「当たり前よ。なに言ってんの。アル」
アルはスッと身をかがめると、ベッドに座る私の足元で膝を折り、私の手を取って、騎士の懇願のポーズ。
「・・・俺はいつでも愛おしい女として、お前を見てる。いずれ俺の伴侶となる女として、な。」
「は、はああ?」
いきなりのビックリ発言に、すっとんきょうな声が出た。
「何をそんなに驚いてるんだ。いつも言ってるだろ。好きだって。お前には態度でも言葉でも示してきたはずだ」
「それは・・そうだけど」
アルは毎日ベタベタ触ってくるし砂を吐きそうな甘い言葉を言ってくる。
返事を求めてこないのをいいことに毎回スルーしてきた。なのに、こんな直球勝負かけてくるなんて。
「俺と一緒になってくれ、キラ」
金色の髪の下で私を見つめる青い瞳。まっすぐ見つめられて言葉が詰まる。
・・なんて答えたらいいのか、言葉が見つからない。
そんな私を見て、アルはふっと笑う。
「そんなに難しく考えることないぞ? なあリン、俺といて楽しいか?」
「そりゃあ、もちろん」
「手を握られて、嫌じゃないだろ?」
「う、うん」
「夜、抱きしめて眠るのは?」
「・・・もう、知ってるでしょ。アルがいないと眠れなくなっちゃったよ」
「なら、大丈夫だ」
「はあ?」
アルはにっこり笑う。
「嫌いな奴とは絶対にスヤスヤ眠れない。リンは俺といて安心してくれてるだろ?
抱きしめられてオッケーってことはその先にも進めるってことだ」
「そ、その先って・・・!」
自信満々に言われて焦る。
「リン、子どもは何人欲しい? 俺は大家族で育ったから、兄弟はたくさんいた方が楽しいと思うぞ」
「わ、私は・・・一人っ子だったから。きょうだいとかは、わからない」
「そうか。さみしかったな。じゃあ、俺たちの子はたくさんにしよう。絶対に、さみしくないように」
「・・気が早いよ、ばか」
「そうだな。まずは婚礼の儀をしないとな。みな、大喜びするぞ。楽しみだ」
アルは、当たり前みたいに未来のことを話す。
一緒にこうしよう、あそこに行こう、なにをしようって。
今まで私は自分が生きてる実感があまりなくて、数ヶ月先の自分の未来だってロクに想像できなかった。
アルの思い描く未来に、私がいる。それは変な感じだけど、嫌じゃない。
*****
次の日の朝は、パンとスープの朝食定番メニュー。
日本人ならずっとパン食だと、白いコメを食べたくなるだろうけど、私は食に関してはあまり貪欲でないのでそういう欲求はない。向こうにいた時も、食料があれば食べるけど、ないなら別にって感じだった。
今まで、ご飯なんてお腹がふくれればイイって思ってたけど、アルがいかにも美味しそうに幸せそうに食べるから、毎日の食事が楽しみになってきている。
誰かと一緒に食事をすると、こんなに楽しいなんて、知らなかった。
口にいれるものに、感謝するなんてことも考えたことなかった。
アルは、いろんなことを教えてくれる。
向こうの世界でいた時には誰も教えてくれなかったこと。
誰かと一緒に過ごすと色んな発見があること、
誰かと眠るとすごくあたたかくて、よく眠れること。
誰かに必要とされること、認めてもらえることはすごく嬉しいってこと。
誰かのために、何かをしたいと思えるのも初めてだった。
人からの好意に裏を感じないのも。
これが恋愛感情なのかは、よくわからないけど、
自分でも否定できないくらい、アルの隣は居心地イイって思ってる。
離れたくない。そばにいたい。
いつも一緒にいて、同じものを見て、喜びも悲しみも分かち合いたい。
そう願うのが愛なら、まあ、愛ってことでもいいかな。
あいしてるー、なんてクサイセリフを言うつもりはないけど。
アルにちょいちょいっと指で「コッチ来い」って呼ぶと、すぐに顔を寄せてきた。
その綺麗な顔をがしっと両手で掴んで、唇を押し付けた。
ポカンとした顔を見て、ふふっと笑った。
「ね、私、ずうっとアルのそばにいるから。いいでしょ?」
すぐに立ち直ったアルは私を抱き上げて「リン!」と叫んだ。
「リン、・・すべての精霊と神に感謝し、ここに恒久の愛を誓う」
この国のプロポーズの定番なのか、少し堅苦しい言葉を口にした後、アルはにかっと嬉しそうに笑う。
「愛してる、リン」
私が言えない言葉も、あんたは何のためらいもなくサラっと言っちゃうのよね。
ホントにもう、敵わないなあ。
これで完結です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!!