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38 戦いが終わって

逃げて行った奴らを除いて、すべての敵をブッ潰して、この戦いは終了した。


「ありがと、大志。すごいじゃない」

「え、・・ホント、に、・・僕が?」

巨大な水しぶきのパフォーマンスをしたのは大志だった。正確には水の精霊のチカラ。

信じられない出来事に目をパチクリさせてる大志のそばに、一人の女のコの水の精霊がいる。

かわいい。精霊さんはかわいいがモットーなのかしら。

シルフと並べたらさぞかし可愛いでしょうね。

私にシルフの加護があるように、大志には水の精霊がついてたみたい。キース師匠が可憐な精霊さんの姿を前にハアハアと興奮してる。

怖いよ、師匠。ヘンタイさんみたいだよ、通報されちゃう・・。


「キラ!」

ガシャガシャと鎧を鳴らしてアルが駆けて来て、私を抱きしめた。苦戦してたのか、鎧は所々破損している。


「・・・どうしたの、アル。怪我なんてしてないわよ」

相変わらず綺麗な顔が、辛そうに歪んでる。濡れ髪でいつもよりイケメン度が上がってるよ、アル。

震える手で私の頬を撫で、頭を撫で、ぎゅうっと抱き寄せられた。


「もう、駄目かと思った。身体が動かなくて・・!

お前が、・・・捕えられたら、傷付けられたら・・っ!」

俯いた髪から滴るものとは別に、アルの頬が濡れていく。

私はアルの頭を撫で、ポンポンと背中を叩いた。大きな体を抱きしめ返す。


「・・大丈夫。大丈夫だから。もう、アルは心配性だよ。ほら、皆で帰ろう」

べたっと引っ付いて離れないアルと一緒に、キース師匠に転移の魔法で城に送ってもらった。





*****


その後。ハンス国は王の右腕だった魔術師がやられたことでバランスが崩れたらしく、国内での内乱が続き、どんどん国は傾いていった。

もう他国に戦いを挑む力は無くなったようで、ひっそりとしている。



ネミルの隷従の印は綺麗に消え、アルの計らいで城でメイドとして働いている。

家族も殺され一人で生きてきた彼女は、何度も何度も感謝の言葉を口にした。ハンス国では貧富の差や身分の差で苦しんできたらしく、この国のあたたかさに驚き、感動しているようだ。



大志は水の精霊に、アクアと名を付け、今はラビさんに結界の魔法を習っているらしい。水の精霊魔法は元々、回復やシールドが適している。大志の性格的にも私みたいに戦うタイプじゃないから、ちょうど良かったんじゃないかな。

大志は正式にラビさんの養子という形で保護下に置かれることになった。皆を守るシールドを張れる大志は、神殿の跡継ぎとしてラビさんにビシバシしごかれていくことだろう。


もう帰れない、という事実を受け入れるのは大志にはとても苦しいことだったようで、しばらくはカラ元気のようなはしゃぎようだった。

アルと二人で話す姿も何度も見かけた。その度にアルは少年の背中を励ますようにバンバン叩いて文句を言われているようだった。





「ねえ、キラさん。もし 本当に帰れるんだったら、僕らと帰ってた? 」

二人の時、大志は私にそんな質問をしてきた。


私は静かに首を振る。

「ううん、帰らなかった。私は・・・この国で、この国の人達と、アルと一緒に生きていくって、もう決めてるから。大志は帰りたかった、よね。家族、も仲よかったんでしょ?」

大志はさみしそうに笑う。

「家族は、普通だったな。特別仲が良かったわけじゃないけど、もう会えないとなるとやっぱり悲しいよ」


「カノジョは? いたの?」

「彼女なんていないよ。・・好きなコはいたけど。ただのクラスメイトってくらいで。

キラさんのことも、好きになりそうだった。でも、王様がすっごいニラみきかせてくるんだもん。近づかせてもらえないし。ガキだよね、あの人。ホント、

ちょーっと悪口言ったら稽古だってコテンパンにしてくるし、もうお腹いっぱいだって言ってんのに、あれも食えこれも美味いぞって言ってくるし。ホント・・」

「いい奴、でしょ?」

にっと笑って言えば、大志も苦笑い。


「・・まあね。王様といると、この国にもっといたいって思えるから不思議だよ。

なんだろうね、あの感じ。深く考えてるわけでもなさそうなのに、めちゃくちゃ良いタイミングで現れて、悲しいことも嬉しいことも全部一緒に共感してくれる。すごい人だよね」

「ふふ。でしょ」

アルを褒められて、なんだかくすぐったい。


「僕、王様に謝らなきゃなぁ。・・前、僕王様に、キラさん女のコなのにどうして戦わせてるのってキツく問いただしちゃって。

この前の戦いの後で、泣きながらキラさんにしがみ付く王様を見て・・・、なんか、あんな風に責めるように言っちゃって悪かったなあって思ってさ」

大志は私に返事を求める様子もなく、独り言のようにつぶやいた。



「さあて。僕も、いつまでもメソメソしてるのはキャラじゃないし、切り替えなきゃなー」

そう言って、うーんと両腕を伸ばす大志は、もう結構吹っ切れているようにも見えた。


「キラさん、今、王様のこと話してる時、自分のことみたいに嬉しそうだったよ。もう、素直になった方がいいんじゃないの? あんまり男を焦れさせると、後がこわいよー」


悪戯っ子な顔で大志はニシシと笑う。


「うっさい。人の恋愛ごとに顔突っ込まないで」

「口だけだよ。突っ込むのは。

正直になれないツンデレなキラさんに、アドバイス。

まずは名前。自己紹介から始めるといいと思うな」


じゃあねー、と手を振り大志少年は笑って去って行った。

悩みも全部断ち切ったような爽やかさで。切り替え、はやっ!



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