34 少年とイケメン
大志はワンコのように私に懐き、後をついて回った。
もともと人懐っこい性格なのか、周りの人間とも気さくに話している。
親しく話せる人が数人しかいない私よりずっとここに馴染んでいる。不安そうにしてたのは二、三日くらいだった。すごいな。
しかも、よくしゃべる。
「ねえ、キラさん。この国って、イケメン地獄だね。僕、わりとクラスではモテる方なんだけど、王様といると自信なくなるよ。他にもイケメン率高くない?」
「シルフっていつもキラさんのそばにいるの? で、キラさんも魔法が使えたりするの? ほええ、スゴすぎ!」
「ねえ、キースってさ、マッドサイエンティストじゃないよね?
僕ら異世界人だけど解剖とかされない?
なんかアレコレ聞いてくる時の目のギラギラが超コワかったんだけど」
「イルト、目が無い。ああいうの、ゲームの攻略キャラにいそうだねえ。
イケメンで髪が長くてサラサラで神官で敬語で。リアルだとすっげー」
「・・キラさん。僕、さっき殺されるかと思った・・。ジェイ、こわー。
あの目。凶悪殺人犯でしょ。うっわ、思い出したらブルった。こっわー」
色んな人に会う度にあれこれ世間話して、部屋への帰り道で感想を聞かされる。
どうやら思ったことは人に言いたい共感してタイプらしい。まあ、聞き流してるから大志が一人でずっとしゃべってるんだけど。
アルともよくしゃべってる。この前も三人でお茶してた時・・
「王様、若いよね。普通もっと髭のオジサンとかが王様じゃない?」
焼き菓子を頬張りながら大志に言われて、アルはふむ、と顎に指をやる。
「まあな。・・・ヒゲか。ヒゲがあると威厳がありそうだもんな。
明日から伸ばすか」
「いや、あんたみたいな爽やかな王子には髭は似合わないと思うよ」
「うーん。そうか。じゃあ、どうすればいいんだ?」
アルも菓子をぽいっと口に頬張る。二人いると大食い選手権みたいな大量な皿の上のお菓子がみるみるなくなっていく。
っていうかアル、ヒゲしか思いつかないの?
「もっと王様っぽい格好する、とか。他の国の王様はどんな格好してんの?
ほら、あるじゃん。でっかい王冠とか、ふわふわのついた赤いマントとか」
あんた、それ絶対にハダカのヤツを想像してるでしょ、と突っ込みたい。
もしアルが裸で街を練り歩いたら、男も女も鼻血吹いて倒れるヤツが続出しそうだなあ。
「あー、他国では、びかびか装飾品のついた服を着ている王はいるな。
でも俺はあーゆーのは嫌だ。趣味じゃない」
こちらを見たアルと目が合うと、にやりと目を細めて笑われる。
「キラッキラに着飾るなら美しい女が一番だろう、なあ、キラ。次の巫女の舞の時には衣装新しくしようぜ」
「えー、いいよ、別に」
「そう言うなよ。国中のみんなも楽しみにしてるんだから。
あ、俺がデザインしてやろうか?」
「アルが考えるとエロくなるからイヤ!」
楽しそうにちょっとイジワルな笑いを浮かべながら、アルは私の腕を引いて抱き寄せてくる。
「バカだな。みんなの前で踊るのにエロさを求めるわけないだろ。まあちょっと
くらいはいいかもしれんが」
「イヤよ。馬鹿。エロアル」
「キラさん、王様とだとしゃべるんだね」
ポツリと呟かれて振り向くと、大志が苦笑いしてた。
しまった。またバカップルしてた。
「しっかし、王様ってけっこーアレだね。単純そう。王様っていうより荒くれの傭兵って感じ。頭で考えるより手が出るタイプでしょ。よく国のトップなんてやってるね。どっちかっていうとイルトさんの方が・・」
あー、言っちゃった。
どうやら思ったこと言っちゃうバカ正直タイプだね、大志は。
「ははっ! 年上のおにーさんに対して礼儀がなっていぞ、タイシ!
よし、今から稽古をつけてやる」
立ち上がったアルは無駄に笑顔で大志の肩を掴みかかった。
「わわ、イテテテテ。あー、ごめんごめん。言い過ぎ、言い過ぎました。
ごめんってば!」
慌てて逃げ出した大志とアルで部屋の中をぐるぐると追いかけ回る。
・・・コドモが二人。
「ちょっとー、やめなさいよー、アル」
「ちょ、キラさん、セリフが棒読み! 王様とめてよ!」
「稽古だっ、タイシ! その軟弱な身体もマシにしてやる!」
「無理無理無理! 僕はインドア派なんだって。筋肉とは無縁に生きてきてるんだってばあ!」
逃げる少年と追うイケメン。
それをキャアキャア言いながら応援するメイドさん達。
なんだ、この図。・・平和だなあ。