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30 アルと一緒

そう言えば。

この世界に来てからというもの、朝昼晩と、ご飯を食べるのはずうっとアルと一緒。アルは王様だけど、元々普通の兵士やってた人だから、みんなと同じメニューを食べる。


だから特別豪華な食事ではないんだけど、朝はリコの実とか果物を用意してくれるし、お昼やおやつは街の屋台で食べることもある。

夕飯なんて、何時間も前から「今日の晩飯は、肉だぞ!」とか教えてくれる。

子どもみたい。


屋台のおばちゃんやおじさんも、ちゃんと食べてるかいとか、あれ食べろーこれ食べろってやたら勧めてくる。

私が食べてるところを見てるアルは、いつもすごく嬉しそう。

なんでかなってずっと思ってた。






ここのみんなが食事を大事にしているのには、深い理由があった。

昨日の夜、夜食を食べている時、アルが話してくれた。

自分の昔のことを。





ベッドに並んで座って、アルはボリューム満点のおやつを、私はホットミルクみたいな飲み物をもらってちびちびすすってる。

ちょっとリコの果汁が入ってるらしくて後味が甘酸っぱくて、おいしい。

前に美味しいって言ったら今日も持ってきてくれた。

保温の魔法がかかったカップは、ずっとほどよくあったかい。

魔法ってすばらしい。



「俺は貧しい家に生まれた。兄弟は四人。兄と、姉と弟がいた。俺たちの住んでたところは貧民層で、みんな食べるのに必死だった。

満腹に食えたことなんて一度もない。いつも、みんな腹を空かしてた」


遠くを見つめて、苦笑いしながらアルは話す。



「気候の関係で農業には向いてない土地だったから、お腹いっぱいに食べるにはお金を手に入れないといけなかった。貧乏だから学校に行く金もない。

頭を使った仕事につけるわけないから、お金を手に入れるのに一番手っ取り早いのは、腕っ節を鍛えて傭兵になることだ。強ければ稼げる。

だから子どもはみんな必死で強くなった」




厳しい世界だ。

何もしなくても、当たり前みたいにご飯が食べれちゃう現代っ子には想像もできない世界だろう。

私も、正直あまり想像できない。



アルは手にしているドライフルーツがたっぷりの焼き菓子を見つめて、表情を曇らせた。

「あの頃のみんなに食わしてやりたいな。

こんな美味い食いモンがあるなんて知らずに、俺の家族も、友達も、みんな死んじまった。バカだなぁ」



私は掛ける言葉がなにも思い浮かばなくて、手元のカップを見つめた。


家族も友達も死ぬ。自分だけが生き残る。

そんな状況、現代の日本でならトップニュースの出来事だ。

でもアルの口ぶりからして、珍しくもないことなんだろう。きっと。

大変だったねなんて安っぽい言葉も慰めも、逆に失礼なことのように思えた。




「俺たちにとって、食べることは生きることそのものなんだ。

こうやって美味いものが食えることが何より幸せだと俺は思う。隣にキラがいてくれるとなおさら美味く感じるしな」

そう言ってアルは私に にかっと屈託のない笑顔を見せた。



「なあ、騎士達に筋トレの鬼メニュー渡したんだって? この前アイツら泣いてたぜー」

さあ、この話はもう終わり、と言わんばかりにアルは違う話を始めた。

だから私もその話に乗っかることにした。



「そうよ。私があっちの世界でも使ってたメニューだから、みんなもさ、余裕でやっちゃうと思ったのに。根性なくってビックリ」

「いやー、俺も見たけど、マジでキツそうだったぞ」

「私もやってんだけど。明日はアルも一緒にやろっか」

「えぇー」

笑顔でお誘いすれば、アルの顔が引きつる。あら、あまり見ない顔だ。


「ねえ、いいでしょ。カッコイイとこ、見せてよ、アル」

「ん。じゃあー、行くか! ほれ、もう寝るぞ、キラ」




アルは私の手からカップを取り台に置くと、私を抱きしめふわりと横に寝せる。

この瞬間いつも照れ臭い。

アルは知ってるの? 自分がどんな顔をしてるのか。本の中の王子様もびっくりなくらい、甘い甘い王子スマイルですよ。顔が良いから余計にキラキラしてる。




「おやすみ、キラ。よい夢を」




ちゅっと私のおでこに優しくキス。

あとはすっぽりと私を包み込むように抱きしめて眠る。眠る、だけ。

キース師匠が言うようにアルは何も手を出してこない。

それはたぶん、私の気持ちがきちんと自分に向き合ってないことをわかっているから。私がそういう話題を避けていることを分かって、あえて突っ込んで来ない。

アルは言動も軽いし何も考えていないようでも、人のことはすごくよく見てる。

私のこと、すごく考えてくれてる。



この人の気持ちに応えられる日なんて、くるんだろうか。

私も、こんな風に、人を好きになれる・・・?


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