28 師匠も立候補するらしい
固まる私。
アルが私をジェイから引き剥がし、怒鳴りつけた。
「こら、ジェイ! キラは俺のだ! 手を出すな! 俺の妃にするんだからな」
「誓いをした騎士には、婚姻は関係ない。基本的に主のそばを離れない」
「戦いの中で、の話だ、それは! お前、日常生活でキラにつきまとうなよ」
「? ダメなのか」
「当たり前だ! 騎士団の隊長だろ、お前!」
「アルファ、代われ」
「代わったら、お前、王様だぞ」
「イヤだ」
「だろ」
アルとジェイが漫才なやり取りをしている間、私は王子様なチューをされた衝から立ち直れずにいた。
あんなに目つき悪いのに、目を伏せたらマツ毛長くてビビった。
乙女な女のコならキュンってして恋に落ちちゃうんじゃない?
まあ、私は乙女な女のコじゃないから落ちないけど。でもドキドキはする!
「キラ、行くぞ。ここにいるとジェイが調子に乗る。ジェイ、明日キラのこと、色々話し合うからな!」
ひょいっと子どものように抱き上げられ、視界が高くなる。
アルはそのままスタスタ歩き出した。目が合った騎士たちがブンブン手を振っている。振り返したらめっちゃ喜んでさらに振り返された。やっぱり大型犬だ。
はしゃいでる騎士たちにジェイの注意が入る。
「おい」の一言で騎士たちがピシッと背筋を伸ばすのがおかしくて、笑えた。
*****
次の日の昼前、魔法を教わりに部屋に行くと、キース師匠は目ざとく私の手の模様に気づいた。
何があったのか教えて!とおねだりされて仕方なく一部始終を簡潔に話した。
「へえー、あのジェイに騎士の誓いを受けるなんて、キラちゃん最強じゃない」
「そんなにスゴイの? これ」
「まあ、取り消し不可の、一生モノだからね。すごいよ。
昔はよく王族に誓いを立てた騎士が何人もいたらしいけど、今では聞かないね。
あのジェイがこんなのよく知ってたなあ」
師匠は私の手を握って、模様をマジマジと見つめてる。
あの、触りすぎです。師匠。それより、さっきから、あのジェイがあのジェイがって、アノってどういう意味?
あの、人をヒトとも思わない残虐非道なジェイが?
あの、ヒトとしての感情が欠落してるジェイが? とか。
どっちも当てはまり過ぎてイヤだ。
「キラちゃんは、皆の心を鷲掴みだね。アルとジェイ、どっちを選ぶの?」
「え? どっちって?」
師匠の質問に首を傾げる。
「え? だって、愛の告白されてるでしょ。二人から」
「えええー?」
「ええ?」
あ、愛のコクハク、だと?
眉をしかめる私と、それを見て驚く師匠。
目をパチパチさせて見合わせた後、師匠はぶはっと吹き出した。
「あはははははっ、キラちゃん、ウソでしょ!? まさか二人の気持ち、全然届いてないの? まあ、ジェイは恋愛感情とは違うかもしれないけど、ある意味それ以上だよ」
「と、届くもなにも 」
「アルなんて、いっつも言ってるじゃん。妃にするとか。ずっとそばにいてとか」
「あ、あれは冗談かなー、と」
「あんなんでも王様なんだよ。冗談でそんなこと言うわけないよ」
えー? ほ、ホンキだったの?
呆然とする私のほっぺをおかしそうに師匠は指でつつく。
「それに一緒に寝てるんでしょ、君たち。その顔は本当に一緒に寝てるだけなんだね。なんだ、アルもとんだヘタレだなあ。てっきりもうそういう関係になってると思ってたのに」
「わ、私はそういう恋愛ごとはニガテなの! キライなの。いらないの。
そういいうのとは無縁で生きてきたんだから!」
「ふふ。アルとまだくっついてないなら、僕も立候補しようかなあ。
僕の恋人になる? キラちゃん、すっごく興味あるんだよね。見てて飽きないし、しゃべってて楽しいし。こんな対象初めてだよ」
それは、師匠。『対象』の前に『研究』がついてるヤツでしょう。
「ね、どう? 僕と。僕は探究心も向上心も旺盛だから、がんばるよ? いっぱいイイ思いさせてあげられるよー」
メガネの奥の瞳が妖しく光った気がして、私は震え上がった。
「け、けけけ、結構です!」
「なんだ、ザンネン」
ぺろりと舌を出すキース師匠はとても残念がってるようには見えない。
めっちゃ楽しそう。くそう、ヒトをからかって遊んでるな。
くすくすと笑っていた師匠は、ふっと真面目な顔になる。
「僕は好きっていうより興味だけど、アルはちゃんと愛情だよ。キラちゃん。
言葉でも態度でも示されてるんだから、もう少し意識してやりなよ」
「はあ」
ね?と優しく微笑まれた。でも私はうまく返事できない。
だって、ねえ・・