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27 騎士の誓い

私はくるっとアルと向かい合い、その胸ぐらをぐいっと掴んで、顔と顔をつき合わせてやった。


「いーい? よく聞きなさいよ。

この国の弱点はね、兵力の低さ。アルとジェイはハンパなく強いけどね。でも、あとが弱過ぎ。

まったく、どうやって指導してきてんのよ。

手合わせしてバーンって打ち負かして、ハイ終わりって訳じゃないでしょうね。

あんた達、自分の強さに酔ってんじゃないの? 」

アルは、うっとたじろく。図星か。


「普段の鍛錬でのメニューは? 一人一人に弱点克服のアドバイスとかちゃんとしてんの?

すっごい剣を見せられて、ハイじゃあこれやってって言われたって、普通の人間にはできないのよ?

自分にできるコトはみんなできて当たり前だとか思ってんじゃないでしょうね?

そんなんだから、みんな自分の剣の癖も知らない。直すべきところも、伸ばすべき良いところもまるで把握してない。型もなってない。

アルとジェイのを混ぜたようなワケわかんないことになってる。

あんな戦い方はあんた達にしかできない。一般人には一般人の型があるのよ!」


一気に捲し立てた。ふう、と息を吐く。

アルとジェイは目をパチクリさせていた。

おそらく今まで誰からも指摘されなかったんだろう。畏れ多くて。

騎士達はうんうん首をタテに振ってる。



「アル! あんたは感覚で戦うタイプだから、あんたの言うコトは、凡人には訳わかんないの。かなり腕の立つ奴にしか通用しない。

ジェイ! あんたの口は飾りなの? 隊長なら、しっかり指導しなさいよ!」



アルはガシガシと髪を掻き、気まずそうに眉を歪めた。

「うー、悔しいが、その通りだ。俺達は新人を育て上げて行くのが苦手なんだ。

正直、物心ついたときから剣術が身についていたから、基本がよく分からない」


「でしょ? だから、私が教えてやるって言ってんのよ。こう見えて、指導は得意なんだから」

「ああ、そうだな。一回手合わせしただけで、俺の弱いとこも見破ったもんな。

すごいよな。じゃあ、頼めるか、キラ」

「任せといて!」



アルのこういうとこ、すごいと思う。自分の非をすんなり認めて、謝って、人にお願いできる。真っ直ぐな性格だからこそできるんだろう。ちょっとヒネくれてたりすると、意地やプライドが邪魔してこうはいかない。


「じゃあ、明日から、時間を決めて、指導に入ってもらう。今日はもう休もう。な?」

「うー、まあ、わかったわ。

じゃあ、みんな、また明日来るから。

毎日やる筋トレとかのメニューも作っておくから、覚悟してなさいよー」

ふっふっふと笑う私の顔を見て、騎士達は顔を引きつらせた。あら。

ワルい顔してたかしらー?





「ほら、帰るぞ」アルが私の手を取る。

まあ、ここは大人しく言うことを聞くか。バシバシ打ち合いして気分もスッキリしたし。

明日から、楽しみだなー。なにしよう。いつも部活でやってた鬼メニューも取り入れちゃおうかな。


その時。

ザッと私の前に黒い鎧が立ち塞がった。


「女神」


低くイイ声の持ち主は勿論ジェイ。

ジェイはいつも通りの無表情で、唐突に私の足元に跪いた。

え? なに?コレ!?前も見たよね、これ。このシーン。


「女神、あんたに惚れた」

「ひぇ!」

ジェイは腰にさした剣を鞘ごと抜き取り、横にしたままスッと持ち上げた。

「この剣にかけて、誓う。女神に忠誠を」


何を言ってるのか分からなくて、頭が真っ白になった。おそらく周りのみんなも同じ。その場にいた全員が停止した。



いち早く我に返ったのはアル。私と繋いでいる手にぎゅうっと力が込められる。

ちょ、そんな馬鹿でかい手で握りしめられたらツブされるっ。


「ま、待てっ! ジェイ! ほ、ホレたって、お前っ」

焦るアルに、しれっとした表情でジェイは「ああ」と答えた。


「別に伴侶になることを申し込んだわけじゃない。

そんな不相応なものは望まない。

アルファ。オレは、お前の友としてお前の力になるべく騎士団の隊長となった。

だが一人の騎士として、女神に忠誠を誓いたい。女神をこの剣で護り、誇りをもって命を捧げたい」



なにそれ。

頭、パンクしそうなんですけど。



「どうか、許しを。女神」

脳ミソにひびきわたるようなイイ声で懇願され、私は困惑する。

え? だって、これ、軽々しく「うん。オッケー、いいよ」とか決めちゃ駄目なヤツでしょ。命をとか物騒なこと言ってるし。


アルを見上げて目線でヘルプを送る。ちょっと、なんとかしてぇー




「ジェイ。急に言うなよ。キラが困ってるだろ」

アルはジェイをなだめ、そして次は私に向き直り説明してくれた。


「騎士は生涯でただ一人、自分が主と決めた相手に忠誠を誓うことを誇りとしてるんだ。キラ。この世界で女神として生きるなら、護りは多い方がいい。

ジェイの誓いを受けてやってくれないか」


「うー、守ってくれるのは、嬉しいけど。正直、私の為に命懸けるとかは勘弁して欲しいなあ。重いじゃん」

「一生に一度きりの騎士の誓いなんだ。重くて当然だろ。軽かったら困る」

「えー」


ジェイはピクリとも動かずさきほどから同じ姿勢を保っている。

なんかコワイ。


「女神、剣に手を」乗せろと。

あ、拒否権ないわけね。

まあいっか。守ってくれるっていうなら、守ってもらいますか。

そっと剣に触れると、ふわっと剣が光り、その光は私の左手に集まった。

きゃあああ! ファンタジー!!


やがて光が収まると、私の左手の甲にうっすら模様が刻まれていた。ナニコレ!


「我が心と剣は常に女神と共に」

ジェイは刻印を確かめるように手に取りじっと眺めて、そっとキスをした。


ぎゃあーー!!


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