26 指導してあげる
この前の戦いに私も参加したことは騎士を通して国中のみんなに伝わってた。
そして私の呼び名は「女神さま」「戦姫さま」が定着したそうだ。
と言っても、親しくしてもらってる人はほとんど名前で呼んでくれる。
アルはこんなつもりじゃなかったのに、と未だに苦い顔をしてる。
勝ったんだからもっと喜べばいいのに。
戦いの直後は、全身血みどろで意識不明の姿を見せてしまったから、みんなものすごく心配してくれたみたい。特に騎士達は、何人もお見舞いに来てくれてて、ドアの向こうが騒がしかった。まあ、しばらくしたら静かになったから、マアサかアルに追い払われたんだろう。
二週間くらいで怪我もほぼ治って動けるようになった。
やっぱり治るのが早い。便利だな。
なのに、今回はいつもに増してアルの過保護っぷりが発揮されて、治ったっていうのに部屋から出してもらえない。
「もう少し安静にしてろ」「まだ病み上がりだろ」「怪我人は大人しくしてろ」
って、枕元に本や裁縫セット、楽器なんかを置いて行った。
こんなお嬢サマのご趣味みたいなもの、私は興味無い。
私を部屋に閉じ込めようたって、そうはいかないわよ!
身体動かさないと、なまっちゃうじゃないの。
こっそり、動きやすい地味な服に着替える。髪もポニテにして。
布団にダミーのクッションを入れて、窓からそおっと部屋を抜け出した。
やって来たのは騎士達が鍛錬してる格闘技場。
こっそり入ると、すぐに騎士達が気づいて駆け寄って来た。
「女神さま! お怪我は!?」「戦姫さま、戦い、お見事でした」
「もう回復したんですか!?」「大丈夫ですか!」
「こちらに足を運んでくださるなんて!」「感動です!」
「キラさま、今日もかわいいっ!」
わいわいと群がってくる大型犬のような騎士達。相変わらず暑苦しい。
懐かれてるのはイイんだけどね。
私はにこっと笑って、怪我してる間お見舞いにきてくれたことのお礼を言った。
そしてそのままの笑顔で、手に持ってきた私の剣をビシッと掲げた。
「ねえ、私、ちょっと身体を動かしたいの。もう治ったって言うのにずっとベッドに寝かされててなまっちゃってるのよね。手合わせ、願える?」
みんな、ポッカーンって効果音が聞こえそうなくらい目を見開いて、口をアホみたいに開けて固まった。
ププ。笑える。マヌケ面。
いつもの丁寧なお嬢様風のキラ様に夢を見てた騎士達、申し訳ない。
剣を構えてる時にはこっちの方が標準なんで。
「き、キラ様! 何を言ってるんですか! そんなのできるわけないでしょう?」
最初に立ち直った青年はオロオロと慌てふためいている。
「どうして? え? まさか自分たち、私より強いと思ってんの?
私のこと怪我させちゃうかもーとか、心配してる? 私の戦い見てたんでしょ。
そんな心配いらないわよ。絶対あんたたちより強いから、私。
ほら、かかって来なさいよ!」
適当に近くにいた奴に狙いを定め、ブンと剣を振り降ろすと、間一髪のところで防御した。お、やるじゃん。
「き、キラさまっ! う、うわっ」
「名前は?」「ジ、ジルです」
カンカン、と剣の弾き合う音が数回。
「ジル、脇が甘い! もっと腰に力をいれて!」「は、はいっ」
最後はさっと力を抜いて受け流すと、騎士はバランスを崩して倒れた。
また目が合った奴に剣を仕向ける。
「名前は?」「ルキアです。き、キラ様!」
何度か、打ち合い、剣を弾き飛ばした。
「ルキア、手の力が弱すぎ! 武器を弾かれたらまず蹴りで相手の喉を一撃。
剣を奪えると更に良い。
ん、次!」
何人かこなしていくと、やっと騎士達も戸惑いがなくなってきたのか、次、と声を掛けると順番にかかってくるようになった。
「テリーです、戦姫さま。よろしくお願いします!」
「よし、テリー、来い!」
十五人ほど済ませた頃、バタバタと足音がしてバーンと大きな音を立て扉が開いた。
そこには目を吊り上げたアルと、元々ツリ目のジェイ。
「キラ、なにしてる?」
「何って、手合わせ」
見ればわかるでしょ、と言わんばかりに答えてやった。
「手合わせって。はあ。お前は、まったく。怪我も治ったばっかりなのに、どうしてこう大人しくしてられないんだよ」
アルは長い足でツカツカとそばに来た。抱き上げようとするので、ヤメロ、と振り払う。
「部屋なんか退屈なんだもん。ここで動いてる方がスカッとするし。
もう治ってるのよ。別にいいじゃない」
「よくない。だいたい、鍛錬は隊長のジェイと俺に任しておけばいいんだ。強いんだから」
まあ、そう言うと思ってたけどね。ホント馬鹿。
私は大袈裟に首をすくめて、やれやれと言わんばかりにため息をついてやった。
「馬鹿ね、アルは。自分が強いのと指導力があるのとは違うのよ」
そう。この二人は強すぎて指導者向きじゃないんだよね。