24 そして戦いへ
優しくて、みんなのことが大好きな王様。
偽善じゃない、本物の王だ。この人は。
私もこの人の力になりたい。なってやろうじゃないの。私にはその力があるんだから。
そう思った。
しばらく二人で寄り添っていたけど、
日が落ちると「帰るか」とアルは私の手を取り、歩き出した。
賑やかだった街も静まって、それぞれの家の窓には明かりが灯っている。
きっとみんな今頃家族で晩ご飯を食べているんだろう。
そう思うと自然に口元が緩んだ。
「ねえ、アル。この国で私に出来ること、見つけた」
お城の手前で私が背中に向かってそう言うと、アルは振り向いた。
「アル。ねえ、王様。私も、この国を守りたい」
「キラ、それは」
アルの目が少し大きくなる。
私は繋いでいる手にぐっと力を込めた。
「この国の人たちを、好きになった。みんなを守りたい。
私にはその力がある。あんたが王様の立場に捕らわれて手も足も出せないとき、あんたの手となって敵を倒してあげる。
だから、私を、使って。アル。私はそのためにきっとここに来た。
そのために、神サマが私をここに呼んだ。きっと、そう」
「キラ。やめろ」
決意を固めた私とは裏腹に、アルは首を縦に振らなかった。
「もしまたどこかの国が攻めてきて戦争になったとしても、キラを戦場に連れて行くつもりはない」
そしてこう続けた。
「お前に危険が降りかからないように、巫女としての役割を与えたんだ。
盗賊団に関わるのだってやめさせたいのに。自ら戦場に立とうとするな、バカか」
こつりと私の頭をつつく。
「それに先日の戦争であいつらも懲りただろう。しばらくは何も起こらないさ。
ほら、マアサが晩ご飯を用意して待ってる。行くぞ」
この話は終わり、と言わんばかりに私の手を引きスタスタ歩き出した。
アルは優しいから、そう言うだろうって思ってたけど。
でも、それしかないと思うんだよね。私の役割。
ここに私がいることのメリット。
この人に、この国にしてあげれることってさ。
*****
アルの予想に反して、戦いの場はすぐにやって来た。
隣国の敵兵が、国境で小さな諍いを起こしたらしい。
街外れに住んでいるおじいさんのガンエさんが殺されたと聞いて、アルは騎士を何人か引き連れて城を飛び出して行った。
私に、絶対に外に出るなと言い残して。
その日のうちに敵兵を追い出しアル達は戻って来た。
けど、その日から敵兵の侵略が始まった。
騎士達が何人も、国境に向かった。
敵兵も次第に数を増し、こちらも負傷者の数がどんどん増えていった。
私も行こうとしたが、アルは絶対に許可しなかった。
アルも、ジェイとキース師匠に止められて、城にとどまっていた。
数日が過ぎても争いは治まらなかった。
師匠がボロボロのマントで一度戻ってきた。身体の傷は回復魔法でなんとか大丈夫だけど、魔法の使い過ぎでこれ以上戦えず、一時退去命令を受けたらしい。
「状況は?」
「良くないね。かなり。数が多過ぎる」
我が国の兵が多く殺された知らせを聞いて、アルの手は震えていた。
「俺も」
「私が行きます。王様。敵を倒してきます」
「待てっ、キラ!」
制止する声は無視して、後ろを振り返らずに窓から飛んだ。飛べるってチートだよね。移動手段を考えなくていいんだもん。シルフに感謝。
シルフは戦いの匂いに泣きそうに顔を歪めながら、私を戦場に案内した。
私の姿を見て、敵兵はどよめきを起こす。
多くて十人程度の盗賊団とは規模が違う。
ズラリと並ぶ、同じ色の鎧を付けた騎士、魔法使いの軍隊。
さらにその後ろにも雇われ兵士のようなバラバラの鎧姿のいかつい男達が並んでいる。
何人倒したら、撤収してくれるかな。
そう考えてからブルブルっと頭を振る。
相手もこれだけの数を出してきてるんだ。本気でこの国を滅ぼそうとしてる。
だったら、こっちも本気でいかないと。
生ぬるい気持ちじゃ殺られる。
全員、やっつける。ぶった斬る。ううん、全員殺す。
鎧は着けてこなかった。重すぎて動けなかったから。
代わりに着てきたのは、ドレスのようにふわりと薄布がゆらめく、剣舞の衣装。
これはある意味、ショー。パフォーマンス。
よーく見てなさいよ。敵ども。この国に攻撃すると滅ぶって、わからせてやる。
剣を持ち、一礼する。
そこで私のスイッチは入る。
剣を振り、敵の鎧を着た人間を、斬る、斬る、斬る。ひたすら斃していく。
戦いは要するに、人殺しだ。
どんなにキレイな言葉ですりかえても、それが事実。
あの時とは違う。あの日、突然戦場のど真ん中に落ちて、殺されないために私は剣を振るった。
でも今は、敵を倒そうと明確な殺意を持って、私は剣を振るっている。
自分の意思で。