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23 やさしい王様

ある日、王様と散歩に出た。街をぐるりと一回り。

その間中、いつものように街中のみんなと声を掛け合う。

いちいち無駄に楽しそう。みんなの家族構成や生活状況まで把握してる様子。

よくやるねえ、ほんと。


一通り回って、屋台で軽食を買って、以前連れて来てもらった小高い丘で景色を眺めながら昼食をとった。ピクニックみたいで楽しい。



買ってきた大量な食料をペロリと平らげたアルは、街を眺めながらリコの実のジュースを私に寄越した。あ、これ美味しい。


景色が綺麗だなあ。この国の建築物の特徴なのか、街並みの屋根の高さや大きさは揃っている。でも屋根の色は様々で、とても綺麗だ。



「この国はとても小さい。キラが空を飛んだら、端から端まですぐだろ」

「うん。最近スピードアップしてきたしね」

私が答えるとアルはフっと笑う。


そして、遠くを眺める。

「元々、隣の大国の皇帝による支配から逃げて来た兵士達と、その家族の集まりでできた国なんだ。この国は。

だから俺のような兵士上がりが王としてやっている」

「ふうん」

だからみんなあんなに仲良しなのか、と納得が行く。昔からの知り合いって感じだもんね。



アルは街を眺めながら続ける。

「この国はこれ以上大きくするつもりはない。

俺の目の届く範囲しか、守れないからな。

路地裏で悪い奴らがたむろしてないか、小さな子どもが親を失くして泣いていないか、飢えて倒れている奴がいないか、仕事を失いフラフラしてる奴がいないか。

こんな小さな国でも俺には手一杯だ」



「みんなのこと把握してるのってすごいよね。

普通は王様はでーんとお城に座って威張ってるだけじゃん。ご馳走食べてゴロゴロしてるからデブでハゲの汚いオヤジになっちゃうんだよね。やだやだ」

「ははっ。ホント、口が悪いな、キラ。イルトが聞いたら説教されるぞ」

「ラビさんの前では、ちゃんと猫かぶってるから大丈夫。メリハリが大事よ」

「そうか」

「あの説教は、マジ勘弁、だわー」

「同感だ」


怪我して帰った先週のこと。傷の手当を双子のお医者さんにしてもらった後、ラビさんは部屋まで来て、ベッドに座る私に、危ないことをしてはいけない女のコが怪我をしてはいけないなどコンコンと説教をして行った。

体感時間三時間。

あれは怪我よりしんどかった。




「この国を狙ってる奴らはうっとおしい程たくさんいる。

この国の資源だったり商業だったり、奪おうと攻め込んでくる奴らが常にいる。

キラが追い払ってくれた盗賊団はその一部だ。

十数人程度の盗賊団ならすぐに追い払えるが、国の軍隊をあげて攻められると人数が少ない分こちらはかなり苦戦する。それに」


アルは言葉を切り、ぐっと悔しそうに眉をひそめた。

「俺の性格を知って、汚い手を使ってくる腐った奴らもいる。

キラがこの国にやって来た、あの日の戦の時のように民を人質に取られると、俺は手も足も出せなくなってしまう」


私がこの世界に来たあの時。

アルはこの国の子ども三人を攫われていたらしいのだ。後から、その子と親達に泣きながらお礼を何度も何度も言われた。




「他の皆を守るためだとわかっていても、少数を切り捨てることが、俺には出来ない。俺の甘さがいつか俺の国を滅ぼす、と大笑いされたよ。敵国の大将に」

拳を握る手がブルブルと震えている。



ああ、確かに。ああいう切り捨ては、顔を知らないからこそできる権力者の仕事なのかもね。

私は立ち上がり、座っているアルの頭を撫でた。

グリグリわしわし撫でてやった。

きれいな金髪をぐっしゃぐしゃにして、にかっと笑ってやる。



「いいんじゃないの。やさしい王様。大賛成よ。

権力ばっかり振りかざす、国民を人と思わないような王よりずっといい」


アルはポカンと口を開いたまま私を見てる。



「そういう王様だから、この国の人達はみんな、アルのことが大好きなんだね。

国という大きなモノじゃなくて、その中の人達、一人一人を大事にしてるから」



言い終わらないうちに、アルにガバッと抱きつかれた。

「ちょっ」

この前みたいに殴ってやろうかと思ったけど、やめておいた。


私の胸に頭を寄せるアルの肩が小さく震えてる。「ありがとう」なんて呟くように言うんだもの。



ああ、王様って大変だったんだなあ、なんてしみじみと思った。

きっと、今までもそういうことが何度もあって、その度にアルは決断を迫られ、悩み迷い苦しんできたんだろう。失った命も、いっぱい、あったんだ。この優しい人は、人の悪意にいっぱい傷つけられてきたんだろうな。




私の腰にしがみつく力は弱々しくって、ぽいと払いのけれはすぐに離れてしまいそうだったから、そのままにしておいた。

たまには、頑張ってる王様を労わってあげましょうかねー。


ポンポン、ポンポンと金色の綺麗な髪を撫でた。こんな風に男の人の頭を撫でるなんて、ハジメテかも。

不思議と、なんか私までやさしい気持ちになった。


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