22 盗賊退治
精霊祭が終わって、私は少し、吹っ切れた。
王様にも猫かぶるのを止めて、アルって呼ぶことにした。
まあ、お酒飲んでちょっと気が緩んだのもあったけど、窮屈だったから、素でいいならもういっかって思った。
言いたいこともズバズバ言ってやる。そしたらやたらうれしそうな顔をされた。
「え? マゾなの? キモっ」間髪いれずに突っ込んだ。
そしたらアルは首を傾げる。
「まぞ? きも? どういう意味だ?」って聞いてくるから、
「マゾは苛められて喜ぶ特殊な性質のこと。キモって言ったのは、気持ち悪いーってこと」って答えてやった。
「んなっ!」
アルは顔を赤くしてガタンと立ち上がる。
それより一足先にシルフを呼んで、窓から逃げ出した。
「こら! キラっ! ずるいぞ!」
「あはっ。アル、私お散歩してくるから。またお昼ご飯にねー!」
師匠に教えてもらって風の魔法はかなりマスターした。
飛ぶのも私一人なら「シルフ、来て」って呼ぶだけで自由自在に空を飛び回れる。最初あんなに怖かったのが嘘みたい。
空に憧れる昔の人の気持ちがわかるなあとか思っちゃうくらい、飛ぶのは気持ちイイ。
人を連れて飛ぶのはまだ練習中。バランスを取るのが難しいんだ。
竜巻を巻き起こしたりもできる。人にダメージを与えるほどの威力のある攻撃はまだできないけど。目くらましには丁度いい。
上空を飛んでいると、あっという間に国の端から端まで行けてしまう。隣の国に入るのはリスクが高すぎるので、行きすぎないように気をつけてる。
低く飛ぶと、色んな人の生活の様子がわかる。
お店で食べ物を売るおばちゃん、道具を売るおじさん、馬を連れて歩くお兄さん、赤ちゃんを抱っこしているお母さん、歌を歌いながら走り回る子ども達。
ここは、いい国だなあって、思う。
みんな、馬鹿がつくほどお人好しで、親切。
あったかくて、懐がでかい。
だから、この国のために何かしてやってもいいかなって。私には珍しく偽善者ぶった気持ちになってる。いっちょ、悪者退治でもしてやろうかなって。
「シルフ、ねえ、あそこにいるヤツら、怪しくない?」
「ウン。なんか いやーな、ニオイー」
シルフはとっても優秀な精霊さんで、敵の気配に敏感。
国境の近くは不審者が多い。
この国は輝石も有名だし、魔法の防御力が強い金属が採れるらしくて、それを狙って他国から盗賊団みたいな数人の武装兵士がやってくる。
そいつらはこそこそ森を抜けてくることが多い。
いつくるか分からない盗賊のために常に騎士を置いておくほどこちらに余裕があるわけでもないので困っているらしかった。
これらの情報は、アルから直接聞いたわけじゃない。
街の上を飛んでいる時、シルフがみんなの会話をところどころ拾って耳に届けてくれるのだ。
精霊さん、ますますスゴーイ。シルフを褒めてやると「エヘヘヘ」って照れる。
相変わらずカワイイ奴め。
そういうわけで、怪しいおっさんたちにはお帰りいただこう。
十人にも満たない小さな盗賊団の行く先に降り立つ。
「んな? なんじゃ、おめえは!」「この国の魔法使いか?」
「横にいるガキはなんだ?」
突然、空からやって来た踊り子みたいな格好の女と、人間離れした少年の姿に男共は目を丸くさせた後、ニヤリと笑う。
あ、今、コイツら私を舐めやがった。
「どうしたよ、おじょうちゃん。俺らに何か用かあ?」
「今すぐこの国から出てけ」
用件は、短く簡単に。アタマ悪そうな奴らだから、気ぃ遣ってやった。
私、やっさしー。
もちろん男共は目を見開いて、次の瞬間にはどっと笑い出す。
「なに言ってんだ、おじょうちゃん。一人で俺らを相手にしようってーのか。
ははっ」
「可愛いツラして勇ましいねえ」「かわいがってやるよ」
げへげへ笑う。うわ、気持ちワルっ! 今、ぞわぞわって鳥肌立った!
「シルフ、目潰し」「はーい、リィ」
ざわりと風が動き、次の瞬間、地面の砂を巻き上げながら男共を包み込む。
地味な攻撃だけど、食らった方は目も痛いし口に砂が入ってジャリジャリになる。「うわっ」とか言ってる間に私は距離を詰め、ボスと思われる男に一撃。
あ、もちろん私には砂は当たりませーん。
ああ、魔法ってステキ。
最初の一撃は全力で行くことにした。
前回、峰打ちで様子見、なんてぬるいことをやったら、一瞬のうちに何十人に囲まれてかなりヤバかった。深い傷はなかったものの全身に怪我しまくって帰ったら、アル達にウンザリするくらい怒られた。
馬鹿の集まりに見えるこの男共だって、何人も殺し奪い生き延びてきた奴らなんだってこと、忘れてはいけない。
平和ボケした感覚でいたら、すぐに殺られる。
分かっているけど、『殺す』という行為をいきなり自分から仕掛けることには躊躇いがある。
自分が殺されそうになって初めて、正当防衛という名の下に反撃をし、その結果、相手を殺してしまったとしても仕方が無い、と思える。と、私は勝手に自分で自分の行為を言い訳してる。
結局、盗賊団には逃げられた。
逃がしてやったというか、どうするべきか悩んでいる間に逃げられたというか。
トドメがさせなかった。
剣を首元に突きつけても、その先、手に力が込められなかった。
仲間を抱えて逃げて行く男共を見送りながら、自分がホッとしていることに気付いた。
「まだまだ、覚悟が足りないなあ」