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21(アル) 記念すべき日

屋台の並ぶ通りに出ると、キラの姿を見て皆が集まって来た。

「巫女様だ!」「さっきの舞、すごかったねえ」「見惚れちゃったよ」

「ほんとにねえ」「巫女さま万歳!」「いやあ、生きててよかった!」

次々と寄って来てキリがない。


「おい、お前ら、キラは腹が減ってんだ。後にしろ」

「あら、いやだ!ぞれを先に言いなよ!」

「ほらよ。食え」「こっちも是非どうぞ」「これも食べてみておくれよ」

「こっちも美味いぞ」

集まってる連中が自分の屋台に戻り、各々自分のところの自慢の一品を手にして戻って来る。


「え、えっと」

キラが、目でどうしようと訴えられるので、吹き出してしまった。

「くく。お前ら、そんなにいっぱい、キラが食えるかよ。しょーがないから俺も食ってやる。ほれ、キラ一口食ったらこっちへよこせ」

「はい、ありがとーございます。

ん、これ、おいしい! ソースが絶妙! あ、これも」

ちいさな口をもぐもぐさせて頬張る姿はなんともかわいい。みんなもそう思ったらしく、なんだかニコニコしながらキラを眺めている。



さっき言ってたようにお腹が空いていたらしく、珍しくどんどん食べている。

そして、薄焼き巻きを見た時、キラの目が大きく開いて輝いた。


「クレープだ!」


それを持っていた女将が首を傾げる。「くれえぷ?」

「それの中身ってお肉ですか? 果物とクリームを巻いたら美味しいんですよ」

いつもより弾んだ声でそう言うキラ。


「へえ、巫女様がいた故郷のお菓子かい?」

「はい。そうですね」

「やってみるかい? ん? ちょいと、果物屋、リコの実おくれよ。

あと、リリー、クリームを分けておくれ」


キラの話に乗っかった女将がみるみるうちに甘い薄焼き巻きを作り上げ、キラに差し出した。

わあ、と嬉しそうに受け取り、さっきより大きな口でかぶりつくキラ。

「んー、おいしいっ!」

口周りにクリームを付けながら、あっという間に食べ切った。

少食なキラが残さずに食べ切るのは本当に珍しい。



「どうもありがとうございました。すっごく美味しかったです」

「巫女様、良いレシピをありがとうよ! お店で出してもいいかい?果物を変えたり色々とメニューを増やしておくから、また来ておくれ」

女将もご機嫌で店に戻って行った。


キラは満腹になったようなので、残りは俺が食べ、二人でプラプラと散歩をすることにした。





*****


手を繋いで歩く。道行く色んな人に「巫女様ー!」とか声を掛けられ、キラはもう片方の手を振って返していた。


「ここの国の皆さんは、本当にみんな、良い方ばかりですね」

「ああ、そうだろう」

自慢の家族を褒められて嬉しい。胸を張って笑ったら、キラもくすりと笑った。


「王様もです。私が出会った人の中で、王様が断トツ一番いい人ですよ。

口は悪いけど。っあ、失礼しました」

つい、という感じでキラは口を押さえる。


キラは普段の様子は物腰静かで大人しい少女だが、以前剣を交わした時はもっとサバサバしてズバッと言いたいことを言ってきた。


おそらくあっちがキラの本性だろう。

もっと素を出せばいいのに、そうできないのは、俺がまだ信用されていないということか。

まずはこの敬語を取っ払って欲しい。

アルコールが入ってる今なら、いつもより壁は薄いだろうか。


「キラ、俺に敬語で話さなくてもいいぞ」

そう言ってやれば、ええーっと嫌そうな顔で見てくる。

「王様に、そんな、失礼なことは」

「俺だってこんな喋り方だ。失礼も何もない。

もう気づいてると思うが、みんな俺が王だからって、敬語じゃないだろ」


そう。この国の奴らはほとんどが昔からの顔馴染み。

みんな普通に話してくる。だからキラだって敬語で話す必要はない。


「でも、私、口が悪くて。敬語にしてると誤魔化せるんだけど」

キラはもごもごと反論しようとする。

だから、きっぱりと「俺もだ。だからなんだ」と言ってやった。

キラはもう返す言葉がないようで、黙ってしまった。



俯き、少し戸惑う様子を見せるキラ。

「ほら」と促すと、上目遣いに俺を見た。可愛いな。

「普通に話せ。この前、手合わせをした時のように」


「えーと、いいなら、いいけど。いいんだけど、ね。

やっぱり失礼だとかって、後から怒らないでね?」

「ああ、もちろんだ」

色々考えた末、キラが頷いた。


「じゃあ、猫かぶりはやーめた。普通にいくね、王様」

「アルファ、でいい」

ついでに王様という呼び方も何とかしてもらおう。


「アル、ふァ」

慣れない名前は呼びづらいのか、ぎこちない。

「アル、でもいいぞ」


「・・・アル」


ポツリと呟いたかと思うと、キラは顔を上げ一歩前に出て俺との距離をつめる。

細い手がぐいっと俺の首元のスカーフを握って、引き寄せた。

おおっと。

キラの方に倒れそうになった俺は足に力をいれて踏みとどまった。



「よろしく、アル」


歯を見せてにかっと笑うキラ。

いたずらっ子な少女のような顔。

今まで澄ましていたお嬢様だったのに、この変わり様。

女ってすごいな、と言うべきか。


「ああ、よろしくな、キラ」


素を晒してくれたことがうれしい。初めて見せてくれた笑顔が可愛い。

堪らなくなって、両手でぎゅうっと抱きしめた。衝動的に。

そしたら、「ぎゃあ!」と叫んで一発殴られた。腹を。拳で。痛くはなかったが、衝撃的ではあった。

「アル、べたべたしてくんの、やめてよね!」

と顔を赤くして肩を怒らせながら言う。


そのくせ、「帰るか」と手を差し出せば、何の抵抗も無く手を重ねてくる。

キラの基準がよくわからん。手はいいのか。



とにかくその日から、キラとの関係が少し変わった。


キラが我が国の巫女となった精霊祭は、例年以上に記念すべき日となった。


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