19 騎士団の稽古
そしてなんだかんだで毎日が稽古や練習や勉強であっという間に過ぎる。
この世界に来て、もうすぐ一月が経つ。
今日は騎士さん達の鍛練を見学させてもらうことになった。以前会ったあの暑苦しい大型犬の騎士達が、私が来るのをずうっと待っているらしい。うっとおしいから、そろそろ顔を出してやってくれと王様に言われた。
ゴメンね、騎士さん達のこと予定に入れるの、すっかりキレイさっぱり忘れてたよ。
騎士団隊長ジェイに連れられてやってきたのは、格闘技場と呼ばれる大きな大きな広間。足下は石の床。天井は高く、声が少し響いた。
すごいね、雨でも関係なく修行できる。
屋内のスポーツは天候に関係ないから、雨が降るとお休みになる外の部活の人が羨ましく思ったこともしばしば。
まあ雨が降ろうと雪が降ろうとやってる部活の人にしてみたら屋根があるっていいなって思うみたいだけど。
騎士団のみなさんが、気合いを入れて稽古をしている。その様子は、剣道部を思わせる。
なんだか懐かしい感じだ。
私が足を踏み入れた途端、みんなの視線が一気に集まる。
「女神様だ」「女神様だ」「なんとお可愛らしい」「可憐だ」
ザワザワと呟かれる声。
「キラ様、本当に来ていただけるなんて!」「嬉しいです!」「感動です!」
以前見た彼らも素早く近くにやって来た。
ビシッと敬礼される。何十人の男どもに一斉に。
ぎゃお。勘弁してくださいよ。
「みな、続けろ」ジェイ隊長の一言で、それぞれが動きを再開する。
気合の入った掛け声や、注意する怒声なんかは本当に部活動とそっくり。
ただ、違うのは、カキンカキンと響く剣のぶつかり合う音。
竹刀では出ない金属音。
その音は、ここが異世界だと私に突き付けているようで、妙に耳につく。
しばらく眺めていると、奥の方でやたら盛り上がってる人達がいるのに気づく。
「あの馬鹿」
チッと舌打ちするジェイさん。舌打ちヤメてください、怖いんですけど。
ツカツカとそちらに向かって行くジェイさんについて行く。
人だかりの中心にいたのは、王様だった。
正確には、王様が撃ち合いに参加していた。
王様はやっぱり強い。圧倒的に優勢のまま、騎士を打ち負かして行く。
「次、来い!」
「待て、アルファ」
ジェイさんが声を掛けると、王様は振り上げていた剣を降ろしてこちらにやって来た。
「おう、キラ。よく来たな」
「アルファ、また抜け出してきたのか? 宰相にどやされるぞ」
「いいじゃん。俺だけ部屋に押し込められてるなんてまっぴらだって」
それに、と王様は私に笑顔を向ける。
「キラが来る予定だって聞いたからさ」
流れる汗までもキラキラしてるなんて、マジこいつ、王子様キャラだわ。
気持ちワルい奴の汗とイケメンの汗は成分が違うと思う。間違いない。
「なあ、キラ。練習の成果、見せてくれよ」
「へ?」
脳内で変なこと考えてたから、王様に無茶ブリされて思わずヘンな声が出てしまった。
「舞。ちょっと舞ってみて。ここで」
にかっと笑う王様。そんな、ちょっとそこのペン取ってみたいな軽いノリで。
こんな大勢の前で恥をかけと。
「本番は三日後。国中のみんなの前で舞うんだ。その予行練習だと思えよ」
そっか。もうナントカっていうお祭り、三日後に迫ってたんだ。
そこで舞うのが目標だって初めにラビさんから言われてたっけ。
まあ、確かに。
リハーサルは必要かもね。
と言うわけで、急遽、私の舞の披露となりました。パチパチパチー。
この後ラビさんのとこで稽古だから、私はちょうど舞の練習の服を着てる。
スカートじゃないからパンツ見えちゃう心配もナシ。
裾が開いてピラピラしたズボンみたいな衣装。
騎士さんたちが剣を置いてわらわらと集まる集まる。
みんなの興味はもちろん、戦場の女神と呼ばれる私の舞。うう、いやだなあ。
どでかい格闘技場のド真ん中で、剣を持って一人、立ってる私。
周りにはドーナツ状にぐるりと観客。
なんか期待に満ちた目で見られている。
すごいプレッシャーだなあ。まあ、競技が始まれば集中して周りは見えなくなるから関係ないんだけど。
「リイ、おドる? おどる?」
耳元でシルフの囁く声。うん、と小さく答えてやればカワイイ声でふふふと
聞こえた。
「ぼく、あのおどり みるの すごいスキ!」なんて嬉しい声も。
ありがと。見ててね。
「キラ、いつでもいいぞ」
「はい」
王様も真っすぐに私を見てる。じっと、突き刺さりそうなくらいの視線。
負けるもんか。
にっこりと笑い、私は優雅に一礼をした。
始まりの、合図。
この瞬間、私の中でスイッチが入る。
ピン、と張りつめた空気を肌に感じる。
時が止まったような、周りとの世界を遮断したような、不思議な感覚の中で、私は舞う。
シルフの加護のおかげで、少しの動きでも体に纏う薄布の衣装がひらひらする。
たぶんそれが私の動きをより大きく見せている。
ステップを踏んで、ターン、そしてジャンプ。それだけで、わあっと歓声が上がる。
手首についた鈴をシャンシャン鳴らし、剣を振り、操る。
本番用のは剣にも鈴と薄布が施されてるから、もっと華やかだろう。
無心で踊るのは気持ちいい。
やっぱり体を動かすの、好きだなあ。
あ、最近、舞でしか剣持ってない。腕訛っちゃうから練習しないとな。
舞い終わり、深く礼をする。
さすがに軽く息が上がっているので大きく深呼吸して、顔を上げた。
みな、ぽかんと口を開けて放心状態。
ナニコレ怖いんですけど。
私、何か失敗したっけ。
やたらシーンと静まり返った空気を破ったのは王様。
「キラっ!」
いきなりダッと私の元に駆けて来たかと思ったら、王様は私を抱き上げぐるぐる回した!
高い高いかよ! 赤ん坊か、私は!
ヤメロ、目が回る!
「すごい、すごいな、キラ!
最高に美しかったぞ! これでみな、お前の虜だ!」
王様の笑顔が五割増に眩しい。どうやら王様はご満足してもらたよう。
わああああっと、騎士達も押し寄せて来た。
王様は私を片腕で抱き上げ、筋肉マッチョの男共に見せびらかすように掲げた。
「巫女様、サイコー!」「キラさま、万歳!」「ステキすぎます!」
ちょっと、皆のテンションがオカシイ。
ジェイまで、膝をつき私に頭を下げる。
「あんなに美しい舞は、初めて見た」
だから! 無愛想なのにこういう時だけイイ声で賛辞を送るとか、やめてよ!
乙女心をくすぐるのがうますぎる! 狙ってるの!?
しばらく、その馬鹿騒ぎは続いた。