17 輝石に込められた祈り
「キラ、こっちこっち。早く来いよ」
少しぼうっとしていた。
名前を呼ばれて顔を上げると、王様は路上販売みたいなところにいた。
ネックレスやブレスレット、イヤリング、髪飾り。この国の名産品なのか、親指の先っちょぐらいの大きさの、つるんとした雫型の天然石が付いてる。
赤、青、黄色、水色、黄緑、ピンク、と色も種類が豊富。かわいい。きれい。
「これなんかどうだ? んー、こっちの方がいいか?」
王様はネックレスを手に取り、私の前にあてがい、首を傾げてはまた次のをあててくる。
「え、ちょっと? 王様?」
「この国では産まれてきた子には、その子の幸せを願ってこの輝石を贈る。お前は赤子じゃないが、この国の来て、俺の元に来た。それを祝福させてくれ。
好みの色はないのか?なければ俺が選んでしまうぞ」
好きな色、なんて別にない。服にもオシャレにもこだわってきたことなんてない。
目を泳がせる私に、王様は熱心に次々と手に取る。
「これかな、いや、こっちかな。ああ、これはいいな。よく似合う。どうだ?好きな色か?」
王様が差し出したのは、ダイヤのような透明で、オパールのようにキラキラと輝くものが中に閉じ込められているような。なんて表現していいかわからないけど、なんだかよくわからないけどすごくすごく綺麗な宝石。
思わず反射的にコクリと頷いてしまう。
だって綺麗だもん。
石の値段なんてわからないけど、他のものより一回り大きくて、キラキラしてて、見るからに高そうだった。
え? ちょっと。
「さっすが王様、お目が高いね!今日入った上物だよ。ラッキーだったね」
「ああ。いいものがあってよかった」
戸惑う私にはお構いなしに、王様は店員らしい男にお金を渡してネックレスを受け取っている。
行動、早いって!
即決型だな、この人! 衝動買いは良くないよ! 失敗する。
「一般的に、赤子にはその子の瞳の色を贈る。だが、お前にはこちらの方がいい。どの色のドレスにも合うしな」
ネックレスを私に向けて嬉しそうににっこり笑う。
「たくさん加護をつけておこう」
王様は買ったばかりのネックレスを胸元でぎゅっと握りしめた。
祈るように。
その手ごと、ふわりと優しい光が包む。
わあ、ファンタジー。幻想的な光景に思わずうっとりしてしまう。
「巫女へ贈る輝石だ。皆、祈りの加護を頼む」
王様はそのネックレスを道ゆく人に渡す。受け取った人は微笑み、王様と同じように祈る。ぽうっと光る。
そしてまた、別の人に。
「あら、居合わせてよかったわ」「ありがたいねえ」「巫女様にご加護を」そう声に出して祈る人もいる。
何人も何人も、その光を発した。
ぐるぐると人の手を周り、ようやく王様の手元に戻ってきたのは何分後か。
王様は、「ありがとう、皆に感謝する」と頭を下げる。周りのみんなもはいはい、とニコニコ顔でお辞儀を返している。
王様の隣で取り残されていた私も慌てて頭を下げた。
だって、あれ、私の、なんだよね?
「キラ。付けてやる」向かい合う体勢で王様は私の首にチェーンをかけた。
抱きしめられるようで恥ずかしい。普通背後からやるでしょ。
さっきまで王様が持っていた輝石は、私の胸元にある。最初見た時よりもキラキラしてるように感じられる。もう光ってないけど、すごく、綺麗。
「赤子に贈られる時にも、ああやって皆で加護を祈るんだ。
その者がずっと飢えることなく病めることなく幸せにありますように、と願いを込める。親だけじゃなくその場に居合わせた者、皆でな」
「それはそれは、とても、素晴らしい習慣ですね」
ここの人たちの顔を見れば分かる。本当に、心から祈ってくれたんだろう。
見ず知らずの他人の私の幸せを。
異世界に来て、こんなに毎日、人の優しさに触れている。
怖いくらい。
この優しさの裏には何かあるのって疑ってしまう自分が浅ましい。