16 散歩と言う名の食い倒れツアー
王様と一緒に街を散歩した。
「街にでも行くか?」って誘われて、そりゃもう、二つ返事ですよ。
毎日やることなくて暇だし、お城も飽きてきちゃって。
地図で見せてもらったけど、本当にこの国は小さくて、一つの街って感じ。
人口も五百人ほどらしい。五百人て。学校の全校生徒数か。
街を歩いていると、いろんなところから声がかかる。
「王様、今日も抜け出してるのかい?」
「アルファ様、いいビア酒が入ったんです。またいらしてくださいね」
「おーさま、こんにちわー」
「王様、うちにも寄ってってよ」
そして一歩後ろを歩く私に気づくと、皆さん目を丸くして言うのだ。
「まあまあ、王様、ついに!?」
「可愛い女の子連れちゃってどうしたの!」
「王、おめでとうございます!」
そして王様は堂々とみんなにこう言い返す。
「次に巫女となるキラだ。みな、仲良くしてやってくれ」
それを聞いた街の人はにこにこ笑顔で「わかったよ」「おお、あんたが巫女さんを引き継いでくれるのかい」「可愛い女の子だねえ」と口々に答える。
え?何これ?
すごい。
こんなにスムーズに受け入れられちゃうものなの?
普通、巫女とか国を代表する人物はメンドクサイ会議で話し合ったり、権力者のドロドロの争いとか、そういうものが付きものだと思ってた。
みんな良い人すぎる。
それとも、この人が人望があるからこそ、なのかな。
ちらりと横を見ると、王様と目が合う。
「ん? キラ、お腹空いてないか? あそこの屋台の菓子が美味いんだ」
にかっと笑って、王様は私の手を引く。
屋台のおっちゃんとも先ほどのやり取りを繰り返し、なにやら楽しそうに世間話をしている。
私は口は開かずに王様の一歩斜め後ろで愛想笑いを浮かべていた。
「ほら」
王様が手渡してくれたのは揚げパンのような甘い香りのするお菓子。
がぶっと大口を開いて食べる王様を見習って私もかぶりついた。
中からとろりとした蜂蜜と、コクのあるクリームが出て来た。こぼれそうになって慌ててすくいなめる。なんだか懐かしい感じの味。
「わあ、おいしい」
思わず呟くと、王様は目を輝かせて「だろ!」とドヤ顔をした。
「あっちのやつも美味いんだ。あそこのやつも。よっし、片っ端から食っていくか」
え! なにその食い倒れツアーみたいなの。
「ちょ、王様、私そんなに食べれませんよ。これを全部食べたらもうお腹いっぱいになりそうですし」
美味しいけど、この揚げパンはでっかい。私のお腹を満たすには十分すぎる大きさだ。
王様は目を丸くして驚いたけど、すぐにお屋敷で一緒にご飯を食べている時のことを思い出したのか、
「そうだな、キラはいつも食が細いもんな」となにやら納得したようだ。
「だったら、俺が食べてやる」
そう、言うが早いか。私の手のパンはヒョイっと奪われ、王様の口の中にバクリと納められた。
「次に買うやつも、一口食べたら残りは俺がもらう。そしたら、いろいろ食えるだろ?」
いいの?
それ。家族でも、恋人でもないのに。
王様に食べかけ、食べ残しを食べさせて大丈夫なの、それ!
戸惑う私をまったく御構い無しに、ご機嫌な王様は私の手を引いて次の屋台へ向かう。
「王様、いつにも増して陽気だねえ」
「アルファ王、いつもお買い上げありがとうございまーす」
「王様、可愛い子連れてる!」
「王、こっちにも!こっちにもどうぞー!」
王様は次々と声を掛けられては、私の紹介をし、にこやかに笑い合ってる。
その垣根の無さに驚く。王様と街の人っていうか、普通に友人って感じ。
一番驚いたのが名前。
王様は必ずみんなの名前を呼んで話す。お年寄りにも若者にも、子どもにも。
すごい。国民すべて把握してるってこと?
「王様は国民のみなさんと仲が良いんですね」
そう王様に言えば、笑って頭を撫でられた。
「この国は小さいからな。全員、俺の家族みたいなもんだ」
はあ。
むっちゃ大家族だな。
私は駄目だなあ。人の名前覚えるのって昔からの苦手だし。
部活のメンバーとかはすぐに覚えられたんだけど、クラスメイトは結構、苦労してる。
関わりのない人の、顔と名前がちっとも頭に入らないんだよね。
「基本的に他人に興味ないもんな、オマエ」
なんでだったか忘れたけど、そう言われたこと、覚えてる。
それを言ったのが誰だったのかは忘れちゃったけど。