15 手合わせ
広間はダンスホールみたいなところだった。
一つの壁には大きな鏡も付いている。バレエスタジオみたい。行ったことないけど。
ぐるっと首を回して周りの様子を眺めていると、目が合った王様がニヤリと悪戯っ子な笑みを見せた。
「キラ、俺と軽く手合わせするか?」
はあ?と思ったが、本気らしい。
木刀のようなものをどこからか出してきて投げて寄越される。
「イルトが動きを見たいらしいし、こうするのが一番手っ取り早いぞ」
ええ? でも、王様と試合なんて、いいのかなあ?
どうしようと神官長さんに目で聞いて見たら、仕方ない人ですよね、みたいな苦笑いを返される。
あ。あきらめて、言うこと聞きなさいってことですか?
「ほれ、早く。ちゃんと手加減してやるから。キラ、来いよ」
木刀を構える王様はウキウキした表情。この人、本当に王様なのかな?
王様っていうより、騎士、よりもゴロツキの傭兵?
そんなことを考えながら、私も木刀を構える。
ふう、とひと呼吸。
その瞬間、私のスイッチが入る。
私の目が変わったのが分かったのか、王様もニヤリと笑う。
剣を構え、間合いを詰める。
軽く仕掛けてみた最初の一撃は、さらりと避けられ、
ニ撃目はカンと軽い音で跳ね除けられる。
すぐにもう一太刀。
それも受けられた。
・・・王様、強い!
カンカンカン、木刀が弾き合う音が響く。
相手の動きを見て、避けては、こちらも攻撃をしかける。
手合わせで大事なのは相手の動きをよく見ること。
相手のリズム、攻撃パターン、避ける時のクセ。
「いいな、お前! いい動きだ、キラ!」王様の声は嬉しそうだ。
「王、様も、強いじゃんっ」
「まあな。この国で一番強いのは騎士団長のジェイ。二番目は俺だ!」
王様の攻撃を避け、大きく床を蹴って跳んだ。
身体が軽い。
自分で思った以上に跳躍した。
ぶわりと広がる裾に、ドレスだったことを思い出してばっと抑える。
やだ、パンツ見えちゃう!
「あ」
グラリと落ちる体。
「わ! この馬鹿!」
木刀を投げ捨てた王様が私を受け止め、そのまま床に倒れこんだ。
「いてて。おい、キラ。ドレスで飛ぶなよ。ビビったぞ」
「うー。自分の格好忘れてた。つい」すみません、と頭を下げるとぐりぐりと頭を撫でられた。
「まあ、俺だからいい。それよりお前との手合わせ、すごく楽しめた」
言葉通り、すっごく楽しそうに嬉しそうに笑ってくる王様。
「次の動きが予測不可能で、どこからかどう攻めてくるのか分からない。すごい身のこなしだな」
「王様は右上からの攻撃が苦手? ちょっと反応が遅かった」
部活で手合わせをしたいつもの癖で、つい指導っぽいことを言ってしまう。
「マジか! あの短時間で俺の弱点も見抜くとは、やるな! 」
王様はますます楽しそうに声をあげて笑う。
「キラ様、大丈夫ですか!? 」
神官長が慌てて駆け寄って来た。
「はい、大丈夫です」と私が答えると、ほっと胸を撫で下ろし、キッと王様に詰め寄った。
「アルファ王、病み上がりの女性に対して貴方という人は! 軽く手合わせをするだけと言ったでしょう! まったく、貴方は昔から戦うこととなると本当すぐに夢中になるんですから。そういうところは直しなさいと言っているのに本当に」
すっごいマシンガントーク!!
プンプン怒ってる神官長。糸目も見開かれ、赤い瞳が見えた。
白い髪の毛に、真っ赤なおメメ、ラビリアさん。
うさぎ、の色だ。この人。うさぎ、ラビット。
ラビさん、だな。
私の脳内で神官長さんのアダ名が決定した。
その後、ラビさんの説教は延々と一時間近く続いた。
・・・このひとは、怒らせないようにしよう。そう誓った。