13 巫女になれ
王様が考えた私の就職先は、私を戦場の女神ではなく、この国に神が遣わした『巫女』という存在に仕立てあげることだった。巫女!こらまたお約束なワードが出てきたよ。
祈りで世界を救えとか、そういう系? 私が巫女サマとか、笑えるんですけど。
王様の説明によると、そういうのはないみたい。
この国では巫女は神殿を司る重要な人物で、皆から崇拝され敬われるらしい。
現在の巫女は高齢で、そろそろ後継者を探すべきだという話が出ているって。
「これは好機だ。キラ、お前はこの国で、巫女となれ」
なれって言われてなれるものなんですかーって思ったけど、王様はいつになく真剣だった。
王様は私の肩をしっかり掴み、力強く言った。
「お前の存在を、戦いの為の者だと認識されたくない。
巫女としての立場を確立して欲しい。この国では神殿は人々の心の拠り所。
巫女は誰もが必要とする者だ。皆がお前を守るだろう」と。
そういうわけで、私は巫女になることになった。
と言うか、あの状況でイエス以外にどんな回答があるのか。
いや、イエスしかない。
さて、ここで問題です。巫女になるには具体的にどうすればいいのでしょう?
巫女、なんて言葉、全く馴染みがない。
こっちの世界の神を知らないどころか、元いた世界でも信仰心なんて皆無だったし。そんなんで神に使えるお仕事なんてしていいんだろうか。
カミサマ、怒らない?大丈夫?
そう口にすると王様は笑って私の頭を撫でる。
「ははっ。大丈夫だ。難しいことは神官長に任せればいい。言い方は悪いが巫女はただの象徴で、実際に神殿の機能を動かしているのは神官だ」
「はあ、そうなんですか」ちょっとほっとした。
お飾りならひょっこり出てきたよそ者がなっても反感は少なくてすむかしら。
「皆もどうせ拝むなら、ヨボヨボのババアよりも、お前みたいに若くて美しい娘の方が良いだろうよ」なんて、ケケケと笑う。
どうでもいいけど、王様、口が悪いよね。
動きも王族っていうより盗賊、は言い過ぎだけど、そのへんの騎士と何にも変わらない感じ。
ラノベの読みすぎ?実際ってこんなもんなのかな。
まあ私としては楽でいいんだけど。
「そうだな、手始めに、神殿について知識を学ぶ必要があるな。この国についても一通りのことはしっかり教えておこうか。あと礼儀作法。あのババアどもは五月蝿いからな。あと」
「ちょっと、ちょっと、まだあるんですか?」
聞いてるだけでもウンザリする。
私の顔には、でかでかと不満が書いてあったようで、王様は苦笑いした。
「あと、最後のが一番重要だ。舞を習ってもらう」
「マイ?」
ハテナ顔の私に、王様が詳しく説明してくれた。
なんでもこの国では、一年に一度行われる神殿での行事で巫女が舞を披露するらしい。ここ数年は、高齢の巫女を気遣ってそれも略されていると王様は付け加える。おおー、ますますそれっぽい儀式が出て来たね。人柱としてそのまま生贄に差し出されたりしたらヤダなあ。なんて一瞬考える。
「舞、ですか。私にできるでしょうか」
「あれだけ動けるんだ。形だけ覚えてしまえばすぐにでも出来ると思うぞ。お前の戦いは美しかった。まるで剣舞を見ているかのようで」
そう言うと王様は目をつむった。ちょ、色々失態が多いから、初日のことを思い返すのやめてもらえませんかね。
「王様、舞も誰か指導者をつけてもらえるんですか?」
「もちろんだ。巫女の舞を知っている者は少ない。神官長だな」
わあ、これからいっぱい神官長さんに迷惑かけそうな予感。
いい人だといいな。イジワルなヤツだったら王様にチクッてやろう。
と、言うわけで。私の巫女見習い修行が始まった。