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12 帰れる可能性

急に辺りがシンと静まり返る。あれだけ騒がしかったから余計に、かな。

王様は私の手を引いて、花畑の横にある小さな木のベンチに向かった。

二人が座るとギリギリ。

王様、でかいんだもん。さっきの騎士達のこと言えないよ。





「今の季節は、マラカナという花が綺麗に咲く。この辺りにだけ咲く花でな、実は薬になるから重宝するんだ」

「そうなんですか、お詳しいんですね」

「まあ、使う物はな。知ってないと損するだろ」



花なんかあまり興味はないけど、ちゃんと実用性のあるところはいいと思う。

観賞用の花は、ただ枯れるだけって感じがして好きじゃない。

そうなんですか、と無難な相槌を打っていると、王様が私の手を自分の方に引き寄せた。そのせいで私の身体が王様にトンとぶつかる。

そう言えばずっと繋ぎっぱなしだった。

しまった。なんだかんだ言って、王様に慣らされつつある。

手を繋いでいても不快に感じなかった。慣れって怖い。






「キラ。話がある」


ゼロ距離から話しかけられてドキリとした。


恋のドキドキではない。

単に王様の顔がカッコ良すぎることと、真面目な声のトーンなので一体どんな悪いことを聞かされるんだろうと思ったのがドキリの原因だ。きっと。




「キースと色々文献を当たってみたが、異世界に帰るという記述はない。

過去に精霊魔法で転移してきた者もいたようだが、この大陸の外という情報だけで、異世界という単語はどこにもなかった」


やはり、と思う内容だった。予想していただけにガッカリ感も特にない。

「そうなんですか」とさっきの花の雑談の時と同じように返した。

おそらく、帰れる可能性はゼロに近い。だとしたら次に、考えなければならないことがたくさんある。





「時間はかかるが、この国以外の文献を調べてみようと思う。

だが、正直なところ、期待は、しない方がいいかもしれない」

「はい。そうじゃないかと思ってました」


王様は眉を寄せ、辛そうな表情で続ける。

「力になれなくてすまない。帰る方法を調査するのと平行して、キラの今後のことも考えて行きたいと思うんだが」

「そうですね。いつまでも王様にお世話になっている訳にはいかないので、どこでもいいので仕事を斡旋してもらえますか?

必要なお金が貯まり次第ここを出て行きますから、それまでここにおいてもらえると有り難いです」




自分なりに考えていたことを話すと王様の手の力がぐっと強くなった。

王様、手が痛い。



「ここを出て行く必要はない。俺のそばにいろ。仕事なら、お前にピッタリのものを考えている」

「はあ」

なんだろう。メイドさん? あ、騎士とか?


料理はからきしだから厨房の下っ端とかは無理ですよー。

作るくらいなら多少の腹ヘリは我慢する派なので。


にっこりされると怖いんですけど。何?何やらされるの、私。












*****



ところ変わって、ある日の午後。


シルフに聞いてみた。

魔法を使ってみたいけど、できるのって。やっぱ気になるじゃないですか。こんな世界に来ちゃったわけだし、魔法とか。使えるものなら、使ってみたいじゃん。


「まほう? かぜを ビューとか、ふわーとか できルよー」

おお。それは是非とも。

「私も空を飛べたりもする?」

「もっちろん、とべルとべルー! びゅんびゅん イっちゃうヨお」


わあ、憧れのやつ! 空を飛べるとか、ステキ過ぎ!





さっそく中庭に出て、やってみることにした。

ちなみに今は王様は執務中。ここにはいない。


「じゃあ、リィ、いっくヨー」

シルフが私の手を取り、私の周りに風が巻き起こり体が浮かび上がる。

「わ、わわわわ」


ぐらりぐらり揺れながら浮かぶ。

コワイなにこれ、ヤダ、ちょー怖いっ!

安定しない体。

掴んでいるシルフの体はあるのかないのかよく分からないから、ちっとも安心できない。


「ふふ。どウ? リィ、たのしい? モット、たかく とべるヨ?」

「い、いい! やめて、シルフ。もう、お、降ろして」

「えー、なんデー?」

ますます遠くなる地面。ぎゃー、助けてっ!

「キラちゃん!」

どこから現れた手に慌ててすがりつく。

これを離したらもう私は地上に帰れない! ぐっと手に力を込める。

そんな必死さが顔に出ていたんだろう。

ぷっと声がして。顔をあげると、クスクスと笑うキース。


どうやら、キースが精霊魔法を使って助けてくれたみたい。


「驚いたよ。中庭を通ったら、キラちゃんが浮いてきゃあきゃあ叫んでるんだもん。風の精霊シルフにいたずらされちゃったのかな?」

「うう、ごめんなさい。私がシルフに飛んでみたいって言ったんです」

疲れた。

精神的にぐったりしてしまった。


「リィ、ごめんネ? なにが こわかっタの?」

泣きそうな顔で、でも首をかしげてるシルフ。きっと君にゃあわからない感覚でしょうよ。





「キラちゃん、飛ぶのは僕でも難しいよ。精霊魔法の中でも高度だからね。

魔法を使ってみたいなら、まずは初級のものから順にやっていかないと。

自分で制御できないと危険だしね。よかったら、教えようか?」


「いいんですか?」うれしい言葉をもらった!


「もちろん!こちらからお願いしようと思ってたところだよ。僕らの使う精霊魔法と何か違いはあるのか、気になってしょうがないんだ。風の精霊シルフが具体的にどう力を与えてくれるのか、詳しく見てみたいよ。せっかくの力は有効に使えないともったいないしね」

にーっこり笑うキース。瞳の奥がキラーンって光ってる。


研究対象かよ。

でもまあ、こういう風に目的がハッキリしてる方がこっちも気が楽かな。

与えられるばっかよりも、何か対価を求められた方がいい。

負い目を感じなくて済むから。


「じゃあ、僕のことは師匠、と呼んでね」

爽やかに微笑まれる。


異世界トリップして、女神って呼ばれて、王様に一目惚れされて、ハイレベルな騎士に出会って、精霊魔法の師匠ができました。

わあ、なかなか濃イ内容ですねー。



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