11 イケメン騎士団長
「あははっ、ふふ。ごめんなさい! みなさん、仲が良いんですね。ふふふっ」
なんだかツボにハマってしまい、なかなか笑いが止められない。
そしたら王様も一緒になって笑い出した。
「はは。コイツらは俺のかわいい元部下だからな。俺のことをナメまくってる。おい、お前ら後で広場百周な」
「ぎゃー! 鬼!」「せめて五十で!」
こんな会話もうちの部そっくり。ますますおかしい。
「だいたい、もっと早く会わせてもらいたかったのに、アルファ王が独り占めしてるから!」
「そうですよ! オレらずっと待ってたのに!」
「こんな可愛いなんて聞いてないっ」「王、ズルい!」
ギャーギャーと彼らはますます盛り上がっていく。
こういうのは放置しておくのが一番、と傍観者を決め込んでいると、ざくっと背後で足音がした。
振り向くと、金髪ツンツン頭の不良騎士が立っていた。
鋭い目と視線がぶつかる。
え? 私、シメられる?
違うよね。失礼しました。
いくら日本によく居そうなヤンキースタイルだからって、ここは異世界なわけだから、金パツだからって不良と決めつけるのは良くないよね。この世界では普通の色なのかな。今まで見た人の中にも何人かいる。
偏見は、良くない。うん。
「・・・・・」
その人から何か言葉が発せられるのを待つこと十秒。
体感時間は十分。
無言で私を睨みつけているだけで、一向に話す気配ナシ。
目つきがハンパないんですけど。
何人か殺ってきちゃった後みたいなツラなんですけどぉ!
冷や汗が背中を伝っていく嫌なぞわぞわを感じながらも、相手の出方がわからないから身動きがとれない。
「おう、ジェイ、何してんだよ」
部下とじゃれてた王様が陽気に声をかける。
あの人にそんなトーンで大丈夫なの?ってくらいの陽気な声。
王様は私と不良騎士の間に来たかと思うと彼の頭をぐりぐりし出した。
ちょ、王様、それはヤバいって。怒るでしょ!
「ジェイもっと早く来いよ。お前が会いたがってるからわざわざ連れて来たんだぜ。
キラ。コイツは騎士団の隊長、ジェイ。こんな顔してるけど、普通にちょっと強くて無口で無愛想なだけで、イイ奴だから」
はあ。あんまりいいヤツ、って感じ伝わってきませんけど。
コワいんですけど。
王様に紹介されても未だに一言も口を開いていない金パツ不良騎士は、私の前に一歩足を踏み出し、そして膝を折った。
こ、これは!
情けない土下座でもなく、カッコわるい九十度直角の頭下げでもない、騎士の礼!
女の子がドキドキするやつじゃないですか!いやん。
「感謝している。・・女神」
低い声は渋くて、ものすごくイイ声だった。
なにコイツ。
ギャップ萌え担当?
ヤンキーが騎士サマみたいなことしちゃダメでしょ!
不覚にも軽いときめきを覚えてしまった。
金パツンデレ悩殺ボイス騎士という盛りだくさんなスキル持ちのジェイさん。
さっきの一言で、自分の言いたいことは全て言い切ったらしい。
すくっと立ち上がると、深く一礼して、くるりと向きを変えた。
「おい、鍛錬開始だ」
そう言い残して、スタスタと行ってしまった。
残った大型犬どもも、ボスが退散するので付いて行かない訳にはいけないらしく、耳をしょんぼりと垂らしてお別れの言葉を告げた。
「うう、まだちっとも話してませんが、もう失礼します」
「またお会いできるのを楽しみに生きて行きます」
「うううー、隊長めぇー」
やだ、この人達、泣きそうだよ。
ヤバい、笑える。かわいい。
って、あ。王様はめっちゃ笑いながらバンバン肩とか叩いてるよ。
「ははっ! まあ、あれだ。また連れて来てやるから。なっ」
名残惜しそうに私の方を見てる彼らに、しょうがないから優しい言葉をかけてあげることにした。
「残念です。皆さんの鍛錬している姿、今度見せてもらっていいですか?」
首を傾げて、まずは王様に聞く。
しょんぼりしていた彼らはたちまち目を輝かせた。
「お、おお」
王様は少し驚いたような顔をして、でもすぐにニカッと歯を見せて笑った。
王様、歯も白くてキレイ。芸能人にでもなれるね。
「もちろんだ。ほれ、お前ら。今度、鍛錬場にキラを連れてくからな。気合い入れて練習しとけよ! 無様なとこ、見せんじゃねえぞ!」
「はいっ!」
5人の大型わんこは背筋を伸ばしてビシッと敬礼し、走って去って行った。