1 落ちた先は戦場のド真ん中
異世界トリップの王道って、召喚されたら王様とか魔法使いのイケメンお兄さんに出会って一目惚れされちゃって、とかじゃなかった?
いやいや。百歩譲って一目惚れもイケメンの王子様もナシだとしても、せめて安全な場所で召喚してよ。
なんかの儀式のための神殿とか、お城とか森の中とか。
どんなカビ臭い地下の牢屋だって、ここよりはマシだと思う。
ピカって光に包まれたかと思ったら、次の瞬間には戦場って。
わあ、全身鎧の兵士が血塗れで斬り合ってる光景とか、初めて見るぅ。
あり得ないでしょ?
冗談じゃないっての。いきなり死ねって? フザケんなっての。
それとも最初の試練なの?これ。
異世界を救う勇者ならこのくらいの危機は乗り越えて見せろ、的な?
お姫さま神子さま聖女さま扱いじゃないの?勇者ポジなの?
私はたまたま剣道部で、主将より強い副部長で、竹刀を持っていたから、いきなり頭上から振り下ろされた剣をギリギリセーフで防いだけど。
アレ、普通のお嬢さんなら死んでますよね。
神様、どこ行った!
いきなり、ジ・エンドコースなんてあんまりじゃないの。
私そんなに日頃の行い悪かった?
けっこうツイてない人生歩んできているはずなのに、追い打ちでこれってヒドすぎる。
人生苦あれば楽ありって名言、いつ発揮されるの!? マジで。
鎧にマントで、剣とか、ゲームか映画の中でしか見たことない。
なんなの、ホント。ここが映画の撮影現場だーとかいうオチないの!?
とか何とかごちゃごちゃ言っても、正直、周りの様子とか、じっくり観察してる余裕はない。
ここまでの脳内会議だって、時間にしたら2秒くらい。一瞬よ、一瞬。走馬灯、はダメね、死ぬ前のやつだもんね、あれ。
「誰だ、貴様! どこから湧いた!?」
右からも左からも剣を振りかぶって襲いかかってくる、兵士達。
私を攻撃してくる、こいつらは皆、敵。
だって、目がマジなんだもん。殺しに来てる。マジで。
二撃目を受け止めてあっけなく折れた竹刀を投げつけて、足元に転がっていた剣を手にとった。
ずっしりとした見た目よりそれは軽く、手に馴染んだ。竹刀しか持ったことないお嬢様だっていうのに、やめてよね、こんな無茶ブリ。
反撃しないと。このままじゃコロサレル。
死ぬ? ここで? こんなワケもわからないまま?
冗談じゃない。絶対、イヤ!
そこからは夢中で動いた。
鎧の兵士の重い刃を避け、剣を振るう。
狙うのは、首。それか、腰。硬い鎧の繋ぎ目のところ。
それ以外は当てても弾かれて、意味がない。
そこを狙えば、敵は動かなくなる。
やった、ちゃんとやれる、私。
ウソみたいに身体が軽い。曲芸師のような身のこなしで攻撃をかわせる。
人間ってこんなに飛べた? ああ、もしかしてここ、夢の中なのかな?
それにしては感覚が、リアルすぎなんだけど。
夢ならもっとふわふわしたやつがいいなあ。こんなドロドロな夢、もうやだ。
大きく深呼吸して乱れた呼吸を整える。呼吸がしっかりしてれば、ある程度の疲労は問題ない。
アドレナリンが出まくってるから。まだヤれる。
いつも以上に感情が昂ぶる。今なら誰にも負ける気がしない。
誰だって倒せそう。
次々と向かってくる相手を斬り捨て、
斬って、斬って、斬って・・・
気が付くと、私はひとり、立っていた。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
酸素がもっと欲しいと身体中で息を吸う。
足元にゴロゴロと転がる兵士達。赤い、赤い、赤い水たまり。
私が、私 が
コロした
わたし、が?
ガクガクと足が震え出す。ハアハアと自分の呼吸がうるさい。
さすがに動きっぱなしはツラい。疲れた。
物音がして一瞬飛んでた意識が戻る。
顔を上げると、一人の男がこちらに馬でゆっくり近づいてくるのが見えた。
男は私の足元に伏せる兵士達とは違う色の鎧とマントを身に付けている。
この人は、敵?
私にとってまず重要なのはそれだけ。
距離を縮めてくる男を警戒するように睨みつけると、男は馬を降り、自分の腰の剣を金具を外して地面に置いた。
「王、危険です!」
後ろについていた何人かの兵士がざわつく。
王?
「大丈夫だ。決して手を出すな」
王、と呼ばれる男は、両手を軽く上げ、一歩一歩私の方に近づいた。
青い目の、イケメンの王様。
やっと、王道、出て来た?
王様は私の姿を頭のてっぺんからつま先まで見て、眉を顰める。
ああ私今、ドロドロのべったべただ。これでも花も恥じらう女子高生なのに。
「大丈夫か? ひどい怪我だ。すぐに治療をしなくては」
剣を置いた、この人は私を攻撃しない。
この人は敵じゃない。
ふ、と力が抜ける。全身に張り詰めていた何かが切れ、ぐらりと身体が傾く。
ダメだ、もう立ってらんない。
意識が遠のく。
・・ああ、神サマがいるんだとしたら、殴り飛ばしたい。
理不尽な思いをするのはもうたくさん。もう、つかれたよ。。